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一章
(5)本物の騎士と臂力の鎧
しおりを挟むその後、二人は所長に「ティックスが逃げた」と報告した。
「えぇぇっ!?檻の戸締りはちゃんとしてくれって言ったじゃないか!?あぁリシャール様に何と説明すればいいのやら……」
所長は困った風ながらも顔は笑っており、かすかに右手でサムズアップしていた。
次の日、リシャールとジェラルドがやってくる日。
その日は施設は朝から緊張していた。アリスとレクセルも彼らやって来るのを静かに待った。
職員達一同もみな覚悟はできているという面持ちだった。
そして。
「邪魔するぞ」
リシャールとジェラルドが入って来た。
「なんとも臭いところだな。これだから生きた動物は困る」
リシャールは鼻を摘まんでいた。
リシャールは紫の紳士服に身を包んだ、小太りで背が低い中年の男だった。茶色いちょび髭を生やしている。
「この私がこんな郊外まで出向いてやったのだ。とっとと件のワイバーンを連れて帰るぞ。ジェラルド」
「はは。して所長。ワイバーンはいずこに?」
ジェラルドが言った。
「これはこれはリシャール様、ジェラルド様。本日はご足労頂きありがとうございます。例のワイバーンですが……
実は……その……」
「その……なんだ?」
リシャールはじっと所長を見つめていた。
「逃げて……しまいまして……」
所長は観念したように言った。
リシャールは怒りでワナワナと震えていた。
「貴様……それがどういうことか分かっているのだろうな?」
「なめ……腐りおって……!こんなところまで出向いてこいというから来てやったのに……!」
「私が本気になれば貴様の人生などどうにでもできるということを忘れたか……?」
「絶対にこのままでは済まさんぞ。この私に雪辱を与えたこと、後悔させてやる……!」
リシャールの怒りはピークになろうとしていた。
「俺が逃がしたんだ!」
立ち上がり、レクセルが叫んだ。
「レクセル!」
隣のアリスが心配そうに声を上げた。
「罰するなら俺を罰しろ!」
リシャールはレクセルを品定めするような目つきで見た。
「貴様か。ジェラルドが言っていた、俺をここに呼びつけたガキは」
「そうか、お前がやったのか」
リシャールは笑みを浮かべながら言った。
「いいだろう。ジェラルド。こいつを殺せ」
「!!」
その時、場の空気が凍り付いた。
「リシャール様。いくらなんでもそれは流石に」
ジェラルドは青ざめていた。
「私に恥をかかせた罰だ。殺せ」
「相手は未成年です!」
「竜種を討伐した経験があるのだろう?立派な成年だ。それともなんだ?貴様、私に刃向かうつもりか?」
「……」
ジェラルドは黙ってしまった。
「さぁ早くやれ。そいつを始末して、とっとと帰るぞ」
ジェラルドが剣を抜いた。
一般に、この国でも罪なき人を殺めれば罪に問われる。しかし騎士や貴族などの特権階級にある者が庶民に危害を加えることは、
特別な理由があれば、罪に問われなかった。特別な理由とは、例えばプライドを傷つけられたとか、であったりする。その場合、
多額のお金が動くことになるのだが……。
「少年よ。悪く思うな」
ジェラルドが剣先をレクセルに向ける。
周りの職員達は動けずにいた。仲裁すれば自分が殺されることを分かっているからだ。
「待ちなさいよ!」
アリスが叫んだ。
「私がレクセルにティックスを逃がそうって言ったの!殺すなら私からにしなさい!」
「二人いたか。示談金も二倍になると面倒だが……。まあいい。男のガキから殺せ」
リシャールはあくびをしながら言った。
レクセルも剣を持って来ていなかった
しかし、まともにやったとしても勝てる相手じゃない。相手は本物の騎士だからだ。
(どうすればいいんだ)
万事休すかと思われた時、声がした。
「ちょっと待った!!」
戸口にセピア色の長い髪をした女性が立っていた。
「アネモネ!」
誰となく叫んだ。
「その処刑、ちょっと待って頂きたい!」
アネモネは言った。
「いくら貴族といえど丸腰の未成年を殺したとあれば、名に傷がつくというもの」
アネモネはゆっくりと広間の方へ歩きながらそう言った。
リシャールは訝しげな目でアネモネを見た。
「ほぅ。お前、知ったような顔だな。王都で何度か見たぞ」
「それは光栄です。私は王宮付呪師のアネモネと申す者」
「まぁ私のことはいいのです。それよりこの少年の処刑、決闘ということにはできませんか?」
「決闘……だと?」
リシャールは言った。
「そうです。決闘です。そこの騎士ジェラルドとこの少年レクセルが一対一で正式に戦うのです」
「バカな!」
ジェラルドが言った。
「こんな少年が私と対等に戦える訳がない。それこそただの処刑だ……!」
アネモネは笑みを浮かべた。
「まぁそうなるかもしれません。しかし、この少年は騎士に憧れているのです。騎士との決闘で死ぬなら本望というもの」
「それに……これは貴方にとっても損ではないはずです。もしここでレクセルを殺したら、多額の示談金を払うことになります。」
「その点、決闘なら、死んでも誰も文句は言えません」
「なるほど……」
リシャールは顎に手を当てて考え始めた。
「良いだろう。それで手を打ってやる」
「ただし、条件がある。レクセルという奴が負けた場合は、お前が私のために働くのだ」
「……分かりました」
「ただし、こちらにも条件があります。決闘を行うのは明日。それでいいですね?」
「いいだろう。場所取りの必要もあるしな。場所はここの近所の広場だ」
「レクセル。それでいいな?」
アネモネは言った。
レクセルは明日決闘を行うという段取りになっていることに実感がない。
はっきり言って死が一日先延ばしにされるという感覚しかなかった。
(分かったと言うんだ)
アネモネがレクセルに耳打ちをした。
「わ……分かった」
レクセルは何とか答えた。
「よし。では今日は解散としましょう。」
こうしてその場はお開きとなった。
「大丈夫。レクセル……私がなんとかするわ……」
アリスがそう呟いた。
レクセル達はアネモネの研究室に戻った。
「アリス君。レクセル君。そう心配しなくてもいい。例のアレが完成した」
アネモネは研究室に着くなり、レクセルとアリスにそう話しかけた。
「……?」
レクセルは魂が抜けたようになっていた。明日、本物の騎士と決闘する。
その事実が何を意味するのか。レクセルには重すぎた。
しかし、ティックスを逃がした時点でこんなことになるのを覚悟すべきだったのかもしれない。
そうも思った。
ところでアネモネの言う例のアレとはなんだろう。
合点のいかないレクセル。
「臂力を高める鎧だ。私が付呪したとっておきの鎧だよ」
「臂力……?」
聞き慣れない言葉に首を傾げるレクセル。
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