騎士になりたい貧乏庶民の少年が、付呪された鎧で成り上がる話

杏たくのしん

文字の大きさ
12 / 26
二章

(12)約束

しおりを挟む
 集会のあった日の夜のこと。ラニカの街の外れには墓地があった。
 レクセルとロゼッタはロゼッタの母のお墓参りに来ていた。

「わざわざ付き合わせてしまってすみません」
 ロゼッタはおずおずと言った。

「いいえ、俺も一度お母様にご挨拶しておきたかったから。それに……」
 レクセルが少し間をおいて言う。
「あなたを一人にしておくわけにもいきません」
 ロゼッタはその言葉を聞いて、うつむいてしまう。
「あの……ありがとうございます。レクセルさん」
 そう言って顔をあげた彼女の表情はとても穏やかで優しいものだった。

「ジャックも来ればよかったのに」
 レクセルは照れ隠しに言う。
「ジャックは久々に会えた先輩達への挨拶がありましたから……」
 ロゼッタは言った。

 それから二人の間に沈黙が流れた。
「そういえば、ジャックとはいつからの付き合いなんですか?」
 気まずくなってレクセルが話しかける。
「……」
 ロゼッタは黙っている。
「ロゼッタ?」
 レクセルが彼女の顔を見ると、彼女は上の空で心ここにあらずという感じだった。
「……は!すみません!なんでしたっけ?」
 我に返るロゼッタ。

「最近ぼぉっとすることが多くて……」
「大丈夫ですか?」
 心配するレクセル。

「そうだ。お花の水換えてきます」
 ロゼッタは花瓶を持って近くの水場へ行った。

 レクセルの前にあるお墓にはこう刻まれていた。

――ロゼッタ・ロング ここに眠る

 本当にお母さんの名前を名乗ってたんだな、と感慨に耽るレクセル。

 その時、近くでカシャリと何かが割れる音がした。
 不審に思い駆けつけてみるとロゼッタが倒れており、手元には地面に落として割れた花瓶があった。

「ロゼッタ!!」

 駆けつけてロゼッタの体を起こしてやるレクセル。

「大丈夫か!!」
 レクセルはロゼッタをおぶって、誰かの助けを求めた。
 結局、医者でもあるアネモネの元に行くのが最善と考え、彼女の元まで連れていった。




「疲れが原因だね」
 ロゼッタをベッドに寝かしてやり、隣で様子を見守るレクセル。
 そんなレクセルにアネモネが言った。

「彼女はここのところ根を詰めていたから」
「じゃあ、ロゼッタは……」
「あぁ、一晩寝れば大丈夫だ」
 アネモネは言った。

「良かったです」
 安堵のため息をつくレクセル。
「ただし、念のためロゼッタの騎士である君が傍にいてやるんだ。万が一離れるときはジャックに代わりに近くに居てもらえ」
 真剣な眼差しでそう言うアネモネ。
「分かりました」
「それと、君はロゼッタから青い薔薇を受け取ったね?あれは絶対に無くしてはならない」
「どうしてですか?」
 どうして今、青い薔薇の話をするのか不思議そうな顔をするレクセル。
「それは、君がロゼッタの騎士である証だからだ!戦いが終わったとき功績の証として役に立つ!」
「とにかくあの花は特別なものなんだ。無くさないように気をつけるんだよ」
「はい」
 レクセルは答えた。

「ロゼッタ!」
 扉が勢いよく開かれジャックが入って来た。
 ロゼッタの元に駆け寄るジャック。
「アネモネ!ロゼッタは大丈夫なんですか!?」
 ジャックにレクセルと同じ話をするアネモネ。

 結局その後、レクセルとジャックはロゼッタと同じ部屋で彼女を見守っていた。
 そして次の日になり……
「うーん」
 ロゼッタは目を覚ました。
「あっ起きたんですね!」
 ロゼッタの隣にいたレクセルが声をかける。
「えぇ、ごめんなさい。心配かけちゃいましたね」
「いえ、無事ならそれでいいんですよ」
「ジャック、ロゼッタが起きたぞ」
 レクセルは隣で突っ伏して寝ていたジャックを起こしてやる。
「……ルーラ姫!じゃなくてロゼッタ!……良かった……!」

 その日は一日、レクセルもジャックも決戦に向けて色々と準備をしたが、二人がロゼッタの元を離れることはなかった。

 

 今夜にでもアルフォンス軍は首都サンリエルに向けてラニカを出発する。
 そして一日かけてサンリエルの近くまで移動し、そこに潜伏する。
 最終的には潜伏した日の次の明朝にサンリエルに攻勢をかける。そういう手筈だった。



 アルフォンス軍から提供された宿屋で、アネモネから武器を受け取るレクセル。傍らにはロゼッタも一緒だ。
「いつもの剣だ。それと……」
「臂力の鎧は出力を50%~80%に落としておいた」
 アネモネは言った。
「今回は長期戦が予想される。出力を落とすことで装着可能時間を伸ばす狙いがある」

「出力を落としたことで、記憶が無くなる、自我がなくなる、などの副作用も抑えられるかもしれん」
 アネモネはそう付け加えた。
「ありがとうございます!これで安心して使えます」
 レクセルは礼を言う。
「あくまで『かもしれない』だ。油断はするなよ」

「私はこの街に残るよ。私が行っても足手まといだからなぁ」
 アネモネは言った。

◇◆◇◆


 その日の夜、アルフォンス軍の各員は時間間隔を少しずつ開けて、ちょっとずつラニカの街を出た。
 恰好は一般市民を装い、道中に武装する手筈だ。
 レクセルとジャックとロゼッタも深夜過ぎに街を出た。
 3人はアルフォンス軍の一団と行動を共にした。エルドヴィエ軍兵士に怪しまれないように、グループの人数は10人程度だった。
 一行はしばらく歩くと、アルフォンス軍の男が
「こちらに馬を停めてあります」
と言って草の茂みに案内した。
 そこには馬が5頭居た。事前にアルフォンス軍が用意したものだった。
 二人一組になって馬に乗り、サンリエルを目指した。
 ジャックはレクセルと一緒の馬に乗った。ロゼッタは女性兵士と一緒だ。
 ジャックとレクセルはロゼッタの馬から離れないように走った。
 道の先の方に、先に出発した集団の気配を感じる。
 レクセル達の進む道は、夜空を照らす月光によって明るい。
 レクセル達は速度を上げて、先方集団にも速度を上げるよう促した。
 やがて日は明けていった。
 途中途中で休みを入れた。休みの間に服装を換え武装する。
 一団は朝になっても昼になっても走り続けた。
 そして夕方頃、ついに首都サンリエルが見えてきた。
 先頭の馬に乗っている兵が合図する。「ここで停まれ」ということらしい。レクセル達を含めたグループは停止した。
 このあたりの茂みで明朝まで待機する。そして合図とともに突撃する。


 静かな時間が流れた。レクセルは時間が経つのが長く感じられ、焦っていた。
 すると、ふいにロゼッタが言った。
「ねぇレクセルさん」
「はい?」
 ロゼッタの方を振り向くレクセル。
「私、この戦いが終わったらやりたいことがあるんです」
「なんですか?それ」
「ジャックにはもう言ってあるんですけど、それはですね……」
 ロゼッタは優しく微笑んだ。
「研究室のメンバーでピクニック」
「……!」
 ロゼッタの言葉に驚くレクセル。
「約束ですよ」
「……はい!絶対に行きましょう!」
「ふふっ、エルドヴィエの観光名所を案内してあげますね」
「そのためには絶対に生き残らなきゃな」
 ジャックが言った。
「はい、絶対です」
 レクセルは答えた。


 そして明朝まで時間は流れていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...