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三章

(16)竜との戦い

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「くそぉおおお」
 討伐軍の男の1人がジアに向かって矢を放つ。矢はジアの鱗に弾かれた。
 そしてジアが翼を大きく羽ばたかせるとジアの前方に居たその男が空中に巻き上げられる。
 宙に浮いた男めがけてジアはその口を大きく開けて突っ込んでいった。男を喰らったのである。
 丸呑みになる男。

「嘘だろ……」
 それを見て、その場にへたり込む他の兵士。
「こんなの勝てるわけないじゃないか……。」
「諦めるな!!!」
 しかしリーダー格の男だけは違ったようだ。
 男は剣を抜き、ジアに向かって走り出した。
 そしてジアの足に斬りかかる。
 ジアの脚に傷がつく。
 だが、ジアにとってはかすり傷程度だろう。
「お前たち、今のうちに魔法で攻撃しろ!」
 リーダーが叫ぶ。
 すると、兵士たちはハッとした顔になり、各々詠唱を始めた。
「『火炎球』!!」
「『水刃』!!!」
 次々と放たれる魔法の塊。しかしジアの鱗はそれらを受けても何ともなかった。そしてブレスを吐いた。
 熱線が射線上の兵士達を飲み込む。
 光に包まれ声もなく蒸発する何人かの兵士たち。


 一緒に戦いながらも、運良く助かったレクセル。
 内心焦っていた。早く鎧を付ければ何人か救えたかもしれない。 

(セツナ……もうすぐだよ……)

 その時、女の子の声が聞こえたような気がした。

 ハッとするレクセル。
 レクセルは、黙って指輪に魔力を込めた。
『着装』
 レクセルの身体と顔を金属のプレートが包んでいく。

「この化け物めぇえ!!」
 リーダーがジアに切りかかった。
 ガキィイインと甲高い音が響く。
 リーダーの剣は柄から先が折れて刃が飛んでいった。
 ジアの爪とリーダーの剣がぶつかり合ったのだ。

「ここまでか」
 呟くリーダー。
「死ね」
 ジアが爪を振り上げる。 

 リーダーが爪に切り裂かれるかと思われたその時、レクセルが両者の間に入り、盾で爪を防いだ。
 レクセルはそのままジアを押し返した。

「ほぅ。人間にしては大した腕力だ」
 驚くジア。レクセルは黙っていた。

「なら、我も本気でいくとしよう」
 ジアは地面に向かって灼熱の炎を吐いた。

 辺り一帯が火の海に包まれる。
「「ぐあぁぁぁぁぁぁ」」
 残っていた討伐軍の兵士達は漏れなく焼き尽くされる。
 レクセルは盾で炎を防いだ。

 レクセルの盾には超耐熱の付呪が施されていた。
 
 辺りは焼け野原となり、残っているのはジアとレクセルだけだった。

 レクセルは右手に剣を構える。白く光っていた。
 切れ味と強度を超強化された剣は竜の鱗すら屠り得るほどだった。

「お前、ブレスは効かんらしいな」
 ジアは琥珀の瞳でレクセルを睨みつけながら言った。

「ならこの牙で貴様の身体を嚙み砕いてやる」
 ジアは口を開け、牙を向いた。

 そしてレクセル目掛けて突っ込んでくる。
 レクセルは剣をジアに向けると、構え、走り出した。

 両者の距離は、瞬く間に縮んでいき、ジアの口とレクセルがちょうど重なるとき、
 レクセルは大きくジャンプして、ジアの眉間に剣を突き刺した。

 剣はコーラルピンクの鱗を貫通し、頭に深々と突き刺さった。

「ギャオォォォンン」
 悲鳴をあげるジア。

 暴れまわるジア。
 巨体に巻き込まれないように後方に大きくジャンプして距離を取るレクセル。
 やがてジアは天を仰ぎ、そのまま地面に倒れた。決着がついた。

 ジアの身体は光に包まれるとその姿を消した。

 そしてメザノール山を中心として展開されていた巨大な魔法陣は消滅した。
 ジアの巨体が倒れた場所にレクセルの剣が落ちていた。
 しかし今、ジアの巨体はどこにもない。

 鎧が解除されるレクセル。
 精根尽き果てていたが、鎧の出力を落としていたおかげでなんとか気を失わずに済んでいた。

 こんな草原の中、一人で倒れる訳にもいかない。

 剣を拾いに行くレクセル。

 レクセルは剣のある場所に近づいて、その歩みを止めた。

 ジアの居た場所に女の子が倒れていたのである。

 コーラルピンクの長い髪をした、レクセルと同い年くらいのあどけない顔。
 額から血を流していた。

 女の子の目は閉じられていたが、レクセルが近づくと、ゆっくりとその目を開けた。

「セツナ……?」

 女の子はレクセルを見てそう言ったのである。
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