騎士になりたい貧乏庶民の少年が、付呪された鎧で成り上がる話

杏たくのしん

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三章

(22)地下世界、竜の王国

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「行こう。竜達の元へ」
 ジアはレクセルに背中に乗るよう促す。

「ちょっと待って。ジア」
 レクセルは地面に倒れてるベルディの元へ行く。

「起きろ、ベルディ」
 ベルディを抱き起こし、頬を軽く叩く。

「ん……お兄ちゃん……?」
 ベルディはまどろんだ声を出す。

 それからレクセルは1人で栗を取りに来たことを怒った。

「ごめんなさい……ごめんなさい……」
 ベルディは泣きながら謝り続ける。

「まぁ……お前が無事で良かった」
 レクセルはベルディの頭をなでてやる。
 そして、困り顔でこう言った。

「お前を連れて一緒に山を降りたいのは山々なんだが……ジアとお兄ちゃんはやることがある。」

「?」

 レクセルは地下世界の竜が彗星を落とそうとしている事、それを止める為に地下世界に行って竜達に話をつけてくる事を話した。

「ジア。本当なの?」
 ベルディはジアに聞いた。

 ジアは頷いた。

「そこで、ベルディに頼みがある。1人で山を降りてくれ。兄あるまじき事を言ってるのは分かってる。だが、時間がない。お前を地下世界に連れていく訳にも行かない」

「……」

「それと、この事を研究室のアネモネに伝えてくれ。できるか?」

「……分かった。任せて」
 ベルディは言った。

「すまない。じゃあ、俺達は行くよ」
 レクセルはそう言って、ジアの背中に跨がった。

「行こう!ジア」
「うむ」

 ジアは翼を広げて羽ばたこうとしたが、それを途中でやめる。 

「今から全速力で地下世界のゲートまで向かう。風に耐えられるよう、あの鎧を着てくれ。お前が、最初に私と戦った時に着てた、あの鎧だ」

 それを聞いて、レクセルは頷く。そして
『着装!』
 と叫んで、銀のプレートに包まれた。
 
 そして意識を半分持っていかれる。
 
「行こう」
 ジアは言った。

◇◆◇
 ジアはレクセルを乗せ、空を凄まじい速さで飛行する。
 雲を裂き、谷を越え、森の上を通り過ぎていく。
 国境を2度超え、ラグーンに入る。それからしばらくして、遠方にメザノール山が見えてきた。
 
『地下世界へのゲートはあれの隣山にある』
 ジアは思念波で言った。
 レクセルはコクリと頷いた。

 メザノール山に連なる、一回り小さい山。そこには巨大な洞穴があった。

 そこにジア達は突っ込んでいった。

 中は真っ暗な闇だった。底知れない深さがあることをレクセルは感じた。

『普通の人間は、地下へ入ろうともこの奈落に落ちて、終わりだ』

 巨大な空洞を下降しながら、進んでいく。
 ジアは目が見えているのか、迷わない。
 時折、岩なのか鍾乳石なのか、障害物らしきものを避ける。

 それから、どれくらい時間が経っただろうか。

 ジアはある場所で止まった。

 そこは縦穴になっており、遥か下に水面のようなものが見える。それは結界だった。

『ここから落ちれば、地下に辿り着く』

 ジアはゆっくりと下降し、結界を通過する。

 結界の下は様子が一変した。

 そこは、どこまでも広い空間だった。
 あたり一面に光がある。

 その光は、夜空に浮かぶ星々のように幾つもあった。
 青い光、赤い光、白い光。

 そして、光が照らされ、大空洞に点々浮かぶ岩場を照らしていた。

 夜空を舞うように、いくつかの黒い影が岩場の間を飛んでいた。
 また、一部の影は岩場の上に停まっていた。
 竜達である。

 レクセルは、鎧の影響で半分感覚が麻痺していたが、この光景を見て、言葉を失っていた。
 こんな場所が本当に存在するなんて、思いもしなかったからだ。
 ここが地下世界、竜の王国。

『ジア』
『ジア!』
『ジア。生きていたのか』
『まさか、その背中に乗せているのは人間か?』

 ジアを見た竜達が、次々にテレパシーで話しかけてくる。

『話したいことは山々があるが、王に会いたい』
 ジアは竜達にそう語りかける。

 そう言って、光の間を潜りながら、大きな岩場にめがけて下降していく。

 その岩場はひときわ大きく、町の一画くらいはあった。

 その岩場には紫の光る巨大な魔方陣が描かれていた。

『あった。レクセル。これが、あの彗星を落とす魔方陣だ』

 ジアはどうするか手をこまねいているようだった。魔方陣の上に着地した。

『ジアよ。何しに来た』

 巨大な体躯の黒い竜がジアの上に現れた。 

『バルザク様。至急話があります』
 ジアは言った。

『彗星を落とす術を至急止めていただきたい』

『……』

 バルザクという竜は、黙っていたが、やがてこうテレパシーで語りかけてきた。

『……お前の気が、地上から消えた時、儂はお前が死んだのだと思っていた。
 だが、そう云う事なんだな。また同じ過ちを……』

 レクセルはバルザクという竜から、悲しげな感情を感じた。 

『そして、それが再び見つけたセツナの代わりか』
 バルザクが言った。

『同じ過ちではございません!確かに私は一度人間には失望しました。しかし、私はもう一度人間を信じてみたいのです!!』
 ジアは必死に訴えかける。

『人間が何をしてきたか忘れたか?神に頼んで地上の竜達の殆どを滅ぼし、お前を裏切った。
 何故人間を連れてきた?あの時あれだけ誓ったではないか?必ず人間たちに復讐すると』
 バルザクは唸る。空気が震えた。

『一度目にお前を送り出したのは、人間達の可能性を探るため。そして答えは出た筈だ。人間達と共存はできないと。2度目にお前を送り出したのは、復讐するため。滅び行く人間達の顔が間近で見たいと言ったのはお前ではないか』
 バルザクは言った。

『確かに、私は星落としの先遣として、地上に出ました。そしてこのレクセルという人間と殺し合いもをしました。しかし、レクセルが教えてくれたのです。セツナの言ったことは間違いではなかったと』
 ジアは言った。

『ほぅ。そこのレクセルとやらにそこまで絆されたか』
 バルザクはレクセルを睨みつける。

『お前の言葉が聞きたい。何か話してみよ』
 バルザクはレクセルにそう語りかけた。

 レクセルは静かに話しはじめた。

「地表は誰のものか。そんな話をしたいんじゃない。俺は、ただ約束しただけだ。ジアの傍に居ることを。俺は死なない。だから、星は落とさせない。俺はジアと一緒に生きていける世界を望む」

 バルザクはじっとレクセルを見つめた。

『レクセル……』
 ジアは言った。

 気がつくと、他の竜達もバルザクやジアの周りを飛んでいた。

『そうか。お前は、そういうつもりでいるのか』

 バルザクは言った。

『お前らの気持ちは分かった。確かに、そういう世界もあったのかもしれない』

『だが、全てはもう遅い。ここまで発動した術は止めることは不可能だ。』

『あと2日で彗星は落ちてくる』

 バルザクは悲しげに言った。

『そんな……』
 ジアは言った。

『せめて、お前達だけでもここにいることだ』
 バルザクは言った。

『ここは、この地下世界の結界の中だけは安全だ』

『それだけではだめだ!』
 ジアは言った。

『レクセルだけじゃない。他にも仲間がいるんです!』

『ならば、その仲間とやらも連れてくるがよい』
 バルザクが言った。

『その仲間にも家族や、仲間がいるでしょう!』
 ジアが言った。

『それが、どうしたというのだ』
 バルザクは言い放った。

『地上の生物など、滅べばよい』
『!?』
『それこそが、我ら竜族の宿命なのだ』
『……』

『かつて星落としで同胞を殺したその報いを受ける時が来ただけのこと』
バルザクは言った。
『お前らは、地上に帰れ。そして、自分の目で見るがいい。人間の最後を』
『さあ、帰るんだ』


『……もういい。分からず屋!!』
 ジアは叫んだ。

 そしてレクセルを乗せたまま、飛び立った。
 結界のある出口に向かう。

『待てジア!』
『ジア!地上は危険だ!』

 竜達はジアの名前を呼ぶが、ジアは振り返らず、飛び続ける。

 やがて結界が見えてきた。
『もう、こんなところに用はないな!レクセル!』
 ジアはそう言って、出口に向かって上昇していく。

「本当にいいのか……?ジア」
 レクセルは問いかける。

『竜達全員がその気になれば、なんとかできる』

『だが、あいつらはそんな気はない。それがよく分かった!』
 ジアは怒っていた。

『ジア!』
『ジア!』
 竜達が名残惜しげに、何度も名前を呼びながら、見えなくなるまで、ずっと見送っていた。

 こうして、レクセル達は地上に戻ってきた。
 
◇◆◇
 それから、半日経った。

 レクセルは、人間の姿に戻ったジアと一緒にアネモネの研究室に居た。

 夜になっており、部屋は暗かった。灯りは机の上にある蝋燭だけだ。

 机の向こうにはアネモネが居る。研究室にはレクセル、ジア、アネモネの3人しか居なかった。

「これから、ブリーフィングを始める」
 アネモネが静かに言った。

「知っての通り、あと2日で彗星が降ってくることが分かった」

「近年ラグーンがきな臭い動きをしていてな。カザドはラグーンに尖兵を送っていたんだが、ベルディの証言で確証がとれたよ。捕縛したラグーン上層部が吐いた」

(作者注釈:ラグーンはメザノール山がある国)

「ラグーンは彗星が落ちることを知っていた」
 アネモネは言った。

「!?」
 レクセルは驚く。ジアは黙って聞いていた。

「厳密にはラグーンの上層部だけだが」
 アネモネは言った。

「何故、手を打とうとしないんです?地表が吹き飛ぶんですよ!?」

「これが、その理由だ」
 アネモネは石の杖のようなものを取り出した。
 それはよく見ると剣の形を形どっており、石の剣だった。

「古代、人が神へ星を落とすよう祈り、それが叶ったという伝説は知ってるな?」
 アネモネは言った。

「これはその時に使ったとされる杖だ。問い詰めたところ、ラグーン上層部がこれを我々に差し出した」

「古代兵器。名前は無い。星落としの杖とでも呼ぼうか」
 アネモネは続ける。

「星を地表に引き寄せる力がある。特定の星にだけ効く引力を発するんだ。今では殆ど効力を失っているがな」

「ラグーンはこれを改造した。落ちてくる星の軌道を変えるようにな」
 アネモネは言った。

「じゃあ、それがあれば、大陸外に落下を誘導できるんですか?」
 レクセルが聞いた。

「……無理だな。これはさっきも言ったように殆ど力を失っている」

「精々、メザノール山に落ちる星を、カザド、エルドヴィエあたりに落とすのが関の山だ」

「そんな……」
 レクセルは言った。

「ラグーンの上層部は、それで大陸の大国家が滅ぶシナリオを思い描いていたようだ」

「だが、私が見るにこれじゃ、ラグーンも滅びるだろうな」

「さて、ここからが本題だ」
 アネモネは言った。

「歴史の遺物と化したこの古代兵器だが、まだ使える」

「私がこの杖の付呪効果を研究、観察し、私も改造を施した。」

「引力を斥力に変えた。正確には反転させた、というのが正しい」

「これで、彗星を弾き返す」

「!!」
 レクセルは驚く。

「そんなこと、できるんですか?」

「できる。ただ条件がある」
 アネモネは言った。

「これは対象に近ければ近いほど強力になる」

「これを使って落下中の隕石を弾き返すには」

「杖と対象との距離が0であることが条件だ」

 そこまで聞いて、レクセルには不安感が込み上げてきた。

「それって……」

「そうだ。隕石に空中で突っ込む必要がある」

「そんな……」

 レクセルは絶句する。
 ジアは無言のまま、レクセルを見つめていた。

「勿論、これはリスクの塊だ」
 アネモネは続けた。

「高速で落下する隕石にぶつかれば、どうなるか、わかるな?」
 
 死ぬ、ということだ、とレクセルは理解した。

「これを頼めるのは、竜であるジアと、隕石にぶつかるその直前まで耐えられる、臂力の鎧が使えるレクセルしかいない」

「頼む、レクセル。ジア」

「人類の為に死んでくれ」

 アネモネはそう言って頭を下げた。
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