騎士になりたい貧乏庶民の少年が、付呪された鎧で成り上がる話

杏たくのしん

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三章

(21)アイデンティティ

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 朝になった。
 家の前でサルサの両親とサルサに礼を告げるジア。

「1日世話になった」

「いや、あんなに仕事してくれるとは思ってなかった。土産になんか持ってきな」
 サルサの父は言った。

 サルサの家は牧場の畜産品を販売する店を兼ねていた。
 その商品をジアにくれるというのだ。

「いいの?」

 ジアは店内の商品を眺める。そして、少し悩んだあと、

「じゃあ、これ」

 ジアは棚に並べられた、ケース入りの鶏の卵を指さした。

「卵か。好きなだけ持ってきな。あと牛乳も」

 ジアは卵を2ケース貰うことにした。
 サルサの父はそれと牛乳入りの瓶を風呂敷に包み、ジアに渡した。

「ありがとう」

 ジアは礼を言って帰ろうとした。

「待って、送っていきますよ」

 サルサはジアに言った。

「いや、いい。1人で帰れる」

 ジアは言った。
 その時だった。家の前の通りの向こうから、誰かの影が見えた。
 レクセルだった。

「セツナ!」

 それに気付くジア。
 レクセルはジアの前まで駆け寄って来た。息が切れていた。

「どうしたの?」

「ベルディがいなくなった!」


「アリスや、研究室のみんなにも言って、街中を探してるんだが、見つからない!ジアならなんか知ってるんじゃないかと思って!」

「!!」

 ジアの顔が蒼白になる。

「もしかしたら、私の為に……」

 言い淀むジア。違うかもしれない。だが、もしかして。

「栗を……」

 竜宴祭は、ジアの記念日だと言っていた。ジアの為にプレゼントをすることは不自然ではない。

「そうか!!」
 レクセルは言った。 

「だとしたらマズい!栗の群生地は高所にあるんだ!とても6歳の子供が行っていいところじゃなない!」


「あそこは崖の上で、危険なところです!」
 サルサは言った。

「早く行かないと……!」

「私も行く」
 ジアが言った。

「僕も行きます。父さんと母さんは念のため街を探して下さい!」
 サルサは言った。
 了解するサルサの両親。

「行こう!」
 3人は走りだした。

◇◆◇

 ベルディは栗の群生地に来ていた。

 ここは崖の上である。眼下には森が広がっている。

(ここら辺でいいかな)

 ベルディは持ってきた麻袋を広げた。
 中には栗が入っている。
 ベルディが採取してきたものだ。

(やっぱり少ない)

 落ちてる栗は、レクセルやサルサが回収した後だったので、量が少なかった。

 ベルディは崖の縁まで歩いていく。そこには栗の木が何本もあった。
 
(登って直接採ろう)
 ベルディは木を登る。手には厚手のグローブを嵌めており、栗を棘ごと掴める。

 木の幹によじ登り、枝へ手をかけながら、栗の生えてる枝によじ登る。
 そして栗をもぎ取ろうとする。

 しかし、その時だった。
 
 足を踏み外し、落ちてしまうベルディ。

「っ!!」

 受け身を取るが、地面を転がる。
 そこは崖の端だった。起き上がるベルディ。しかし、足を滑らせてしまう。

 ベルディは空中に投げ出された。そのまま落下していく。咄嗟に手を伸ばし、崖の突起に間一髪掴まる。

 しかし、6歳の子供の握力と、厚手の手袋をしていたこともあり、ズリズリと手が滑り、突起から離れそうになる。

 空中に身を落とすのは時間の問題だった。

◇◆◇
 栗の群生地に向かって山の中を走っていくレクセル、ジア、サルサ。

 ジアは目を凝らす。

 すると、小さな人影が、崖に掴まってるのが見えた。

「いた!」

 ジアは叫んだ。レクセルにもそれはぎりぎり視認できた。レクセル達は走る速度を上げる。

 小さな人影がぐらりと動く。ついに、崖から落ちてしまった。

ーーマズい!臂力の鎧を着ても間に合わない!

 レクセルは思った。必死に頭を働かすが、打つ手がない。


 一方、ジアは不思議だった。

ーーセツナの妹が死にかけている。

ーー私のせいでーーーー

 こんな状況でも、冷静になっていたから。

ーー人間なら、無理だろう。

ーーだが、私は、

ーー私は、


――そう、ドラゴン。


ーー空も飛べるし、火も吐ける。


 そして、ジアは全てを思い出した。


「ガギャアアアァァァッッーーーーーーーー!!!!!」


 ジアは絶叫し、跳躍した。そして光に包まれ、メキメキとシルエットを変えていった。

 長い胴体。大きな翼。巌しい顔。そこから生える一対の角。威風堂々とした姿がそこにあった。

 羽ばたきながら凄い速さで、ベルディの元に飛んでいく。

「!!」

 その様子を見ていたサルサは立ち止まり、その場に膝をつく。

 竜となったジアはベルディを背中で受け止めた。

 その勢いのまま、地面に着地する。衝撃で辺りの木々が揺れた。

 レクセルはジアの元へ、走る。

 そこには竜となったジアと、地面に降ろされたベルディが気を失って倒れていた。


『私は、全てを思い出したよ』

 ジアが思念波によって話しかけてくる。竜の厳しい顔がレクセルを見つめている。

「ジア……」

 レクセルは嘆願するような声でジアの名前を呼ぶ。

『お前らは……』

『お前ら、人間は……』

「ジア、頼む、信じてくれ……!!俺は……俺達は……」

 必死に訴えかけるレクセル。

『敵だ!!!』

 木々が揺れる。

 ジアはセツナが殺された日のことをはっきりと思い出した。

 そして、幾年もの間、復讐のために仲間たちと地下で力を蓄えた日のことを。

 竜は今まで、人への恨みを忘れたことはなかった。

ーー所詮、人と、竜なのだ。滅ぼし、滅ぼされる間柄なのだ。

ーー見ろ。あの男を。 

 サルサは口を開けて、茫然とした表情でジアを見ていた。

 口をパクパクさせて、何かを呟いているように見えた。

 ジアには、こう言っているように見えた。


 バ、ケ、モ、ノ、と。


ーーあの日と同じ轍は踏まない。まずはあいつを殺す。

 ジアはサルサを睨みつけた。その目には殺気が宿っていた。

 サルサはそれに気づき、後退りをする。そして、背中を見せて逃げ出した。

 ジアは口で炎を圧縮し、光線を放とうとする。

 しかし、一瞬思い留まる。

 彼が手にしていた、風呂敷袋。あれは牧場でもらったーー

「やめろ!ジア!!」

 レクセルは叫んだ。 
 ジアはレクセルの方を向く。

「俺はお前が記憶を失ってることをいいことに、お前を騙していた」

「俺はセツナじゃない。それに、お前が竜であることも黙っていた。竜と人がどういう歴史を歩んでいたかも知ってたのに……まるで馬鹿みたいだよな。俺と、ジアさえ仲良くなれば、竜と人が仲良くなれるみたいに思っちまってた。ジアの本当の気持ちも知らないで……」

 ジアはレクセルを見つめる。

「今さら謝っても遅いよな。だから……」

「だからさ。ジア」

 レクセルは言った。

「俺を殺せ」

 ジアは、黙っていた。

 黙って、顔をレクセルに近づける。

 そして。

「できないよ。レクセル」

 ジアは涙を流し、そう言った。
 額をレクセルの胸に押し付けた。
 
「……ありがとう。ジア。ごめんな。本当に」

 レクセルは優しくジアの頭を撫でる。

「許すよ。レクセルのこと」

「本当か?」

「えぇ。でも、その代わり……」

「もう少しこうしていて」

◇◆◇

 それからしばらくして。

 ジアは突然思い出した。空を見上げる。

 東の空に燦々と輝く箒星があった。

「マズい。レクセル。あの星は、降ってくる」

「なんだって!?」

「あの星は、ドラゴンが人を滅ぼすために、地表に近づけたもの。少しずつ、4年に1度地表に接近するように計算して。竜宴祭にぶつけるために」

「……!!」
 
 レクセルは、言葉を失う。

「行かなきゃ。地下世界に」

 ジアは言った。

「止めなきゃ。竜達に話をつけてくる」

 メザノール山にある。地表と地下世界を繋ぐゲート。そこを目指して飛ぼうとするジア。

「待て。俺も行く」

 レクセルは言った。

「……分かった。乗って」

 ジアはレクセルが背中に乗るよう促す。
 
「行こう。竜たちの元へ」

 彼らが目指すのは、竜の王国。未だかつて人の踏み込んだことのない領域。そして、真の竜宴祭の会場。
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