騎士になりたい貧乏庶民の少年が、付呪された鎧で成り上がる話

杏たくのしん

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三章

(20)予兆

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 研究室に向かうレクセル、ジア、ベルディ。彼らの前にサルサは三度現れた。

「付けてるの……?」

 ジアはぶっきらぼうにサルサに言う。

「名前、聞いてなかったから……」

「……ジア」

 ジアは、ぽつりと言った。
 すると、すかさずレクセルが
「ジアーナっていうんだ。その愛称がジアなんだ」と、慌てて付け足した。ジアの正体に勘付かれては困るからだ。

「ジアーナさん。いい名前だね。僕もジアって呼んでいいですか?」

「好きにすれば?」

 ジアはそう言うとそっぽを向いて、研究室に向かう。

「レクセルさん。ありがとうございます」

 サルサはレクセルに向き直って言った。

「俺の名前知ってたの?」

 レクセルは少し驚く。

「レクセルさんはあなたが思っている以上に有名ですよ」

 サルサは言った。

「なら、ジアーナは俺の彼女だとは思わなかったのか?」

 レクセルは意地悪く言った。

「彼女なんですか……?」
 
「いや、違うよ。保護者と言った方がいい。彼女は記憶がないんだ」

「レクセルさんは僕と年も変わらないのに、凄いですね」

 そう言われて、レクセルは少し照れる。

「ジアーナに近づきたいなら、アドバイス。彼女は栗が好物なんだ」

「栗ですか」

「そうだ。だが、この街では栗を食べる風習がない。だから、栗は山に行かないと手に入らない」

「それに、そこまでしても、ジアーナが受け取ってくれるかどうかは分からないけど」

「……分かりました。ありがとうございます」

 それから、レクセルはサルサに別れを告げて、ベルディと共に研究室に向かった。


◇◆◇


 その次の日の朝は、レクセル達の前にサルサは現れなかった。
 しかし夕方、研究所からの帰り道、彼は現れた。

 服は、少し汚れていて、ズボンの端っこに枯れ葉が付いていた。

「ジアさん。これ……よかったら」

 サルサは巾着袋を取り出した。そこには栗の身が湯気を立てて入っていた。

 栗の芳醇な香りが広がる。

「……」

 ジアは複雑そうな顔をしていた。少し、考えて、
「いらな……」
い、と答えようとしたが、サルサの両手が目に入った。
 ところどころ血がついていた。恐らく栗の殻を素手で触ったのだろう。

 セツナが最初に栗を拾って来た時も、そうだった。手袋つけないから。

「受け取っておく」

 ジアは栗の身の入った巾着袋を受け取った。

「せっかくだから、2人で食べれば?」

 ベルディはニヤニヤしながら言った。

「ほら、お兄ちゃん、邪魔だから帰るよ」

 ベルディにうながされ、レクセルは家に帰った。

◇◆◇

 ジアとサルサは道の外れの木の下に座っていた。

 2人で黙々と、栗を食べていた。

 沈黙が流れる。

「……ねぇ、どうして私なんかに構うの?」
 
 先に口を開いたのは、ジアの方だった。

「僕、動物が好きで、外れの森によく野鳥観察に行くんです。そこで、この間見たんです。ワイバーンを撫でるあなたの姿を」

「ワイバーンは嫌いだったんです。野鳥を食べるから。でも、ワイバーンがあなたに懐く姿を見ると、まるで雛鳥が親鳥に甘えてる姿を連想させて……」

「そうしたら、無性にあなたのことが気になって……」

「……そう」

 また沈黙が流れた。

「もう一つ聞く」

「あなたの名前は?」

「さ、サルサ。サルサ・バルドーレです!」

 サルサは気を引き締めて言った。

「サルサ。今度あなたの仕事を手伝ってあげる。受けた借りは返す」

「仕事を……?僕はまだ学生で……」

「仕事がないなら家事でも。特に力仕事は得意」

「じゃあ、よろしくお願いします」

◇◆◇

 一方で、レクセルとベルディは夕食の準備をしていた。

 メインはレクセルが作り、サイドメニューはベルディが作るのがいつもの流れだ。

「今日のサイドメニューはなんだ?ベルディ」

「今日も炒り卵だよ」

「最近多いな。なんでだ」

「ないしょ。でも楽しみにしてて」

「?」

 レクセルはそこでふとジアのことが気になる。

「ジア、遅いな」

「なーに、お兄ちゃん、ジアとサルサのこと気になるの?」

 ベルディがニヤニヤしながら言った。

「そりゃまぁ気になるっちゃ気になるけど……別に、そういう意味じゃ……」

「大丈夫。ジアの気持ちは変わらないよ。だって……」

「だって?」
 
 レクセルは首を傾げる。

「なんでもな~い」
 ベルディは微笑みながら言った。
 
 レクセルとベルディが夕飯を食べ終わった頃、玄関の扉の開く音がした。

「ただいま」
「おかえり、遅かったな」

◇◆◇

 竜宴際が間近に迫っていた。

 町通りには竜の飾りや、提灯などが付けられ、準備がなされていた。

 そして昼間でも、彗星が尾を引くのを観察でききた。

 彗星は四年に1度、北の極星の東に見える。彗星でありながら、竜座として扱い、これを竜として祭る日として有名であった。

「相変わらず、奇麗だな。竜座は」

 レクセルは彗星を眺めて言った。

「そうだね。お兄ちゃん、ジア」

 ベルディも空の彼方を見上げていた。

「……」

 ジアは彗星を観て、何かを思い出そうとする。

ーー時間がない。

ーーなんの?

「……!」

「どうしたの、ジア?」

「いや、なんでもない」
ジアは頭を押さえた。

「そういえば、サルサは今日はいないね」

「……明日、サルサの家に、仕事の手伝いに行く……」

 ジアは片手で頭を押さえながら言った。

「……ジア、大丈夫か?」
 レクセルは心配そうにジアに寄り添う。

「借りは返す……」

「無理しない方がいいよ」

「大丈夫……」

 ジアは言った。

◇◆◇

 次の日の昼下がり、ジアはサルサの家に着いた。

「ごめんください」

 ドアを開けると、そこには壮年の男とサルサが作業服を着て立っていた。

 「よう。嬢ちゃんがサルサのガールフレンドか。よろしくな」

 黒い髭を生やした壮年の男が笑顔で言った。

「ちがうって!ジアさんとはそういうんじゃ……!」

 サルサは言った。

「うち、牧場なんです。僕は学生ですが、両親は牧場を経営していて、休日はよく手伝うんです」

「牧場……?なにそれ……」

 ジアは顔を傾げた。

「嬢ちゃん牧場を知らねぇのかい?牧場とは……まぁ牛や馬などを放し飼いにするところだな」

 サルサの父が言った。

「でっかい厩舎のようなものか。で、何をすればいい?」

「飼料と水の運搬。あと家畜の移動が今日のお前らの仕事だ。大変だぞ。本当に嬢ちゃんにできるか?力配分はよく考えるんだな」

「……まぁ、最初は僕の真似してて下さい」

 サルサが言った。

「分かった」

◇◆◇

作業は順調に進んだ。
ジアはサルサと一緒に、重い荷物を運んだり、家畜を誘導したりした。

サルサが疲れても、ジアは働き続けた。

「はぁ、はぁ、疲れた……」

「次は何をすればいい?」

「もう仕事はこれで最後です」

時刻は夕暮れであった。

「そう。じゃあ、帰る」

「いや、今日はもう遅いです。泊まって行きませんか?」

「いや……」

「私からもお願い、ジアーナちゃん。泊まってくれると嬉しい」

 サルサの母が言った。

「じゃあ……一晩だけ」

「ありがとう。ジアーナちゃん!」

 サルサの母は喜んだ。

「あ、あの。ジアさん。話は変わりますが、竜宴祭の日は、空いてますか?」 

「良かったら、祭りを見に行きませんか?」

◇◆◇

 それから、ジアは夕飯をご馳走してもらい、風呂に入った。

 風呂に浸かりながら、思いを巡らせる。

「酪農……。狩猟と採集しか知らなかった……」

「人間の考えることは面白い」

 ーー人間?私も人間なのに……

「そして、また・・祭りが迫っている」

 ーー以前も祭があった。セツナと一緒に準備をしていた。

 ーーそこで何があった?

 ジアは思い出せずにいた。

 そして、ジアはつい数日前のことを思い出す。
セツナの妹、ベルディにこう言われた。

『竜宴祭はね。覚えてないかもしれないけど、ジアを祭る日なんだよ。』

『なぜ私を祭るの?』

『さぁ。よく知らないけど、ジアは記憶をなくす前は偉い人だったんだよ。きっと。だから誕生日なんじゃないかな』

『そう……』

『お兄ちゃんにはこのこと内緒だよ。怒られちゃうから!』

「私の祭る日……私は誰なんだ」

「私が祭られる日……一体なにがあるというのだ」


 そして、その日の夜中、レクセルは目を覚ました。

 彗星はギラギラと輝いていた。
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