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三章
(19)ワイバーンとドラゴン
しおりを挟むジアは目を覚ました。
彼女はまた悪い夢を見ていたと思った。
いつも目覚めると何か大事なことを思い出すような感覚に陥る。しかし何も思い出せない。
ーーセツナなら隣の部屋で寝ている。何も問題はない。
そんな時レクセルが起きてきて、彼女に話しかけた。
「大丈夫か?ジア。うなされてたけど」
ーーほら。セツナならここに居るじゃないか。
「大丈夫。ただ夢をみていただけ」
「明日からは仕事に復帰なんだ。ジアも研究室に連れて行くつもりだ。明日は早いからゆっくり寝ような」
レクセルはジアに言った。
◇◆◇
次の日。
アネモネの研究室にて。いつもの研究室の面々と共にジアは居た。
「それにしても、可愛いわね~」
アリスがジアを撫でている。
ゴードンは彼女を恐ろしそうに見ていた。
「昔から悪いことをすると、地下に放り込まれてドラゴンに喰われると教えられてきてな。儂はおっかないわい」
「メザノール山を有する国家、ラグーンは古より竜と最も近い場所として知られ、独特の文化を築いてきた国だ。竜に関する厳密な情報はラグーン王政しか知らない。今回のジアを討伐するというミッションもラグーンからカザド・エルドヴィエに直接頼まれた依頼だった」
アネモネが皆に説明する。
「本来ならジアをラグーン政府に渡すのが筋なんだろうな」
アネモネが言った。
レクセルは考え込んだ。
ラグーン政府がジアをどうするか分からない。丁重に扱うだろうか。それとも……
それならば自分が保護するのが最善だ。
「俺がジアを責任もって面倒みます」
「しかし、永遠に仲良しこよしで終わるとは思えんが」
アネモネは鋭い視線で言った。
「分かってます。いつか、ジアは記憶を取り戻す。その時までにジアに、人間が、少しでもマシな存在だったと思えるようになってて欲しいんです!」
「だから、連れてきたのか」
「それもあります」
もう一つの理由はそろそろ働かないと、生活費がままならないからだ。
「取り敢えず、どうする?」
アリスが言った。ジアの研究室での処遇をどうするか、という話らしい。
「仕事の後、付き合ってくれるなら、私、この子の面倒みてても、いいよ」
「ありがとうアリス」
レクセルばかりが面倒を見ていてはジアを研究室に連れてきた意味がない。
その後、研究室の面々は仕事に取り掛かった。
アリスは火の付呪に関する研究をしていた。その傍らジアの様子も見ていて、時折荷物運びを手伝わせたりしていた。
それからしばらくして。
「ふぅ。今日の仕事も終わり。じゃあジア。仕事が終わってから申し訳ないんだけど、ちょっと付き合って」
「?」
キョトンとするジア。
「それとも疲れた?」
ジアはレクセルの顔を伺っていた。
「お前が決めろ。ジア。行きたかったら行けばいいし、断ってもいい」
レクセルは言った。
「じゃあ、行く。セツナも行こ」
「俺は帰ってる。後でアリスの家に、迎えに行く」
◇◆◇
アリスはジアと共に街の外れにある森に来ていた。
かつて、まなごであるワイバーンのティックスに着けた共鳴石。アリスはその対の石を片手に、ジアを連れ、石が指し示す方向へ向かった。
「このあたりなんだけど」
森の外れを共鳴石は指し示す。そして真上を指した。
「いた!」
真上の木の枝に、鷲ほどの大きさの、それは居た。
かつてレクセルが貴族から守ったワイバーン、ティックスだ。
ティックスは最初はアリスに気付き、彼女の腕に止まった。
アリスは持ってきた袋からチキンを取り出し、ティックスに与えた。
むしゃむしゃと食べながら、アリスに頭を撫でられるティックス。ジアは最初はその様子を見守っていた。
そして、ティックスはジアの存在に気付く。
最初は物珍しそうに紅い眼を光らせながらジアを見ていたが、徐々に様相が変わっていく。
そして、ジアもティックスの眼を見て、徐々に様子が変わっていく。
ーーこの子は、人間に育てられたのか
ーーならば、私達だって、やはりニンゲンと一緒にーー
「くぅっ!!」
急に頭を抱え込むジア。
「大丈夫!?」
アリスはジアに駆け寄る。
「何か、思い出した、、気がする……のに、何も、思い……出せない……!!」
ジアは混乱していた。この生き物に対する感情はなんだろう。
ジアは気がつくとティックスを撫でていた。
ティックスはというと、ジアに怯えていた。しかし、ジアに撫でられると、やがて気持ち良さそうにしていた。頭をされるがままにするティックス。
ジアは、ティックスを撫でながら、なぜかその目から涙がこぼれた。
「ごめん。何かヒントになるかと思って、この子に会わせたんだけど、余計だったかもしれない」
アリスは言った。
「ううん。この子に会えて良かった。」
それからアリスとジアは地にシートを広げてそこに座り、アリスは以前、レクセルと一緒にティックスを育てた話をした。
ジアはティックスを抱きながらその話を聞きいっていた。
それから暫く、夕方まで話は続いた。
◇◆◇
レクセルはアリスの家の前まで来ていた。ジアを迎えに行く時間になっていた。
ジアとアリスが家から出てきた。レクセルはジアの服装が違うことにすぐ気づいた。
赤と黒の豪華なスカートを身に纏っていた。それはかつてショーケースでジアが物欲しそうに見ていた、高くて買えない服だった。
「ジアちゃんには今日1日付き合って貰ったからね。私からのプレゼント」
アリスが言った。
「いいのか?あんな高い服?」
「いいのいいの。私普段あんまり、お金使わないからね。あれくらい別に」
「セツナ。今日は疲れた。帰ろう?」
ジアが言った。
◇◆◇
次の日。レクセルとジア、ベルディはアネモネの研究室に向かっていた。
すると、その時、
「あ、あ、あの」
声を掛けられた。レクセルと同い年くらいの男子だった。
「数日前から、街であなたのこと、見かけて、ずっと気になって……」
「俺、サルサって言います。これ良かったら」
サルサの手には赤い花が握られていた。
それを見た、ジアの表情は暗くなった。
「要らない」
ジアは言った。
「そう……ですか……」
サルサはうなだれていた。
「もし、あなたが私に恋愛感情というのを持っているのだとしたら、これだけは言っておく」
ジアは冷たい表情で言った。
「私は恋愛に興味がない」
ジアは自分で不思議だった。なんで普段片言でしか喋れないのにこんなに言葉にでてくるのか、
分からなかった。しかし、そこには恋愛というものへの確かな不信感があった。
「分かったら、私に付き纏わないで」
「……」
サルサを突き放し、ジアは研究室へ向かった。レクセルはサルサになんと言葉をかけていいか分からなかったが、これだけは言った。
「彼女は自分の気持ちに素直なんだ。彼女の気持ちを尊重するなら、彼女には近づかない方がいいと思う」
レクセルはそれだけ言うと研究室に向かった。
◇◆◇
次の日もサルサはジア達の前に現れた。
「あ、あの」
「別に、あなたと付き合いたい、とか、じゃないんです。ただ、ともだち、になりたい……です」
サルサは言った。
「それは悪い気持ちはないけど、私は友達がたくさんいるから、もういいです」
ジアはサルサを突き放し、研究室に向かった。レクセルはサルサを見て、何か言おうとしていたが、結局何も言わずに続いた。
その夜。
「なあ。サルサって奴、そんなに悪い奴でもないんじゃないかな。」
レクセルは自室で月を見ながら、ジアに言った。
「そうかもしれないけど、私はどうしても彼に近づきたくない気持ちがある。セツナが消えていく気がする」
ジアはレクセルに向き直って言った。
「俺はお前の傍にいる。何があっても」
「だがら、ジア。サルサが何か手伝えることがあるかもしれないし、彼もただ友達になりたいって言ってるだけだろう。もう少し、開かれた心で接してあげてもいいんじゃないかな」
レクセルはジアに提案した。
ジアはしばらく考え込んだ後、「うん、私も少し考え方を変えてみる」と、笑顔でレクセルに答えた。
二人は月を見ながら、少し話を続けた。
「もうすぐ竜宴祭がやってくる。箒星が地上に接近する特別な日なんだ。今年は凄く間近に迫ってるんだ」
レクセル含むカザドの人々は勘違いしていた。
竜のような箒星が近づいてくるから竜宴祭なのだと。
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