勘違いから始まりましたが、最強辺境伯様に溺愛されてます

かほなみり

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第二章 王都

新しい日々と新しい私と

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 レオニダスからプロポーズを受けた翌日には、私達の婚約が新聞に大々的に掲載されていた。
 私の養子縁組についても。
 ちゃんと読めないから半分くらいはテレーサさんに教えてもらったんだけど、紙面の占有率が凄いのは分かった。誰も私が誰なのか知らないから様々な憶測を呼び、最早娯楽作を読んでいるような感じらしい。
 テレーサさんはロマンス小説のようだと笑った。


「おかあさま」
「そうよ、親子なんだもの」

 朝食の席でそれはもういい笑顔のテレーサさんに言われる。

「じゃあ僕はおにいさま」
「……お、にいさま」
「そう! ふふ、いいね、可愛いなあ!」

 いや、えっと? こんな見た目の違う人たちをおかあさま、おにいさまって呼ぶの? 純和顔の私が?

「え……っ、と」

 二人の笑顔に圧を感じるのは気のせいだろうか……。
 へらっと笑ってみるも、笑顔で私の返事を待つ二人。

「可愛い義妹が出来て僕は嬉しいんだよ。周囲に自慢したいし」

ね? と小首を傾げながら優雅なナイフ捌きでハムを口に運ぶアルベルトさん、いや、お義兄様。

「そうね、確かにアルベルトの事は兄と呼ばないと、間違えて名前を呼ぼうものなら勘違いした御令嬢方に何をされるか分からないわね」

 ナニソレコワイ。
 そして笑顔で否定しないアル……お義兄様も怖い。

 私はもうイエスの返事しか出来ず。そうか、渾名だ。渾名だと思えばいいんだ。うん。
 口に運んだハムは味がよく分からなかった。



 * * *



 朝から侍女さん達にあれこれ着替えをさせられてやっと解放され応接室に行くと、そこには既にレオニダスがソファで寛いで待っていた。
 今日は軍服ではなく控えめな光沢のダークグレーのスリーピースにサックスブルーのシャツ、濃紺のネクタイは白のピンドット。鈍色のタイピンは黒曜石が嵌め込まれている。
 髪をオールバックにしているレオニダス、はあ、素敵……!
 深緑の生地に艶のあるダークカラーの木目のソファに深く腰掛け、長い脚を組みソーサーを持つレオニダスはハイブランドのモデルさんのよう。
 えっと、すいません、この人ホントに私の婚約者さまなんですか……。

「カレン」

 応接室に入るとすぐに立ち上がり、私を優しく抱き締めて頬にキスをくれる。壁際に立つ侍女さん達から小さな歓声が上がった。
 うう、恥ずかしいよ!

「今日も美しいな」

 スッと頬を撫で蕩けるような視線で見つめられ、私の顔はきっと真っ赤。
 レオニダスは頬を撫でた指でそのままつつっと私の胸元のサファイアに触れた。

 以前レオニダスが用意してくれたサファイアのネックレスは今日はチェーンを短めなものに替えた。普段使いには高価で緊張するけれど、こうしてチェーンを変えるだけで使いやすくなる。

 あれこれ私に着替えをさせて侍女さん達がやっとこれだと落ち着いた今日の服は、濃紺のシフォンのワンピース。白の小花柄に、裾の方は黄色の小花柄も入っている。濃紺のインナードレスは膝下丈でノースリーブ。手首でキュッと控えめにギャザーが寄っているシフォンワンピースの袖部分と膝下の裾部分がふんわりと透けていて春らしいデザイン。

「今日を楽しみにしていた。さあ行こうか」

 レオニダスの差し出した手にそっと手を乗せて、何故か黒い笑顔のお義母様から見送りを受け馬車に乗り込んだ。



 レオニダスが楽しみにしていた、と言ってくれた今日は私のドレスを決めるため、オリビアさんのお店に行く日。バーデンシュタイン家主催の夜会で私のお披露目とレオニダスとの婚約を正式に発表することになったので、そこで着るドレスを決めるのだけれど。
 ドレスを決める権利をレオニダスがお義母様から勝ち取ったのだとか。どんな手……方法で決めたのかは知らないけど、あんなにドレスを決めるのが大好きなお義母様がよく譲ったなぁ。
 お義兄様は知らなくていいよ、と笑っていたけど。

 前回、レオニダスが用意してくれたサンドブルーのドレスはオリビアさんのデザインのもの。
 やっぱり! それを聞いて凄く嬉しかった。
 シンプルで上品でレースも上質で、オリビアさんのデザインするドレスは本当に素敵だと思う。
 レオニダスもオリビアさんのドレスを気に入ったみたい。


「カレン」

 馬車で隣に座るレオニダスが指を絡めて持ち上げ、私の指先にキスをする。

「は、はい」

 深い碧の瞳が至近距離で覗き込む。

「今日はいくつかドレスの形を用意してもらっている。気に入ったデザインとそれに合う生地や色を選ぼう」

 優しく目を細めて私の指先に唇を当てたまま話すレオニダスの色気が凄い。
 あああっ、なんか今日凄くイケメン……!!
 スーツ? スーツ姿のせいかな!? 私の心臓頑張れ…!

「ウルの予定は一ヶ月以内らしいぞ」

 レオニダスは私の心中を知ってか知らずか、なんだか楽しそうに私の指を絡め取りずっとすりすりと触っている。

「あっという間ですね」

 一ヶ月以内かぁ。あっという間だなぁ……。
 私にピッタリとくっついてサワサワすりすりと触っているイケメンから意識を逸らし現実逃避を試みる。


 バーデンシュタインのお屋敷に移る時、私はウルを連れて来なかった。

 タウンハウスから移る準備をしていた頃、ウルの様子がいつもと違って、オッテもウルが心配なのかずっと側にいて、それだけでも何かがおかしいと思った。
 ご飯の好き嫌いが出始めて、でもどこか体調が悪い様子もない。好きなものはすごくたくさん食べる。
 ちょっとした散歩だってする。
 ただただ、眠っている時間が長い感じ。
 心配過ぎて何も手につかなかった私を見兼ねたアンナさんが獣医さんを呼んだところ、ウルのお腹に赤ちゃんがいる事が分かった。
 それはもう、すっごく驚いた。レオニダスも。
 私は、大事な時に環境を変えるのも良くないだろうと、涙涙の今生の別れを決意した。
 いや、ウルは何だか分かってなかったんだけれど。

「会いたいな……」

 ポツリと呟くとレオニダスがふっと笑って唇にキスをくれた。

「ウルもそう思ってる」

 そう言うレオニダスの優しい表情を見て、なんだか胸が熱くなった。
 泣きそうになった顔を隠すようにレオニダスの胸にしがみついて、レオニダスはお店に着くまでずっと、私の背中を優しく撫でてくれた。



 * * *



「スペシャルゲストだ」

 ドレス選びをした翌日の夜、いつものように応接室にやって来たレオニダスの足元を黒い影が駆け抜けた。

「ウル!!」

 尻尾をちぎれんばかりに振ったウルが私に飛び込んで来た。しゃがみ込み受け止めると、もうドロドロになるくらい顔中舐められる。

「ウル、ウル、元気だった? ああ凄い、お腹もすっかり大きくなったね……!」

 会いたかった……!
 ぎゅうっとウルを抱き締めると、ポロポロ涙が出てきた。
 ウルに会いたかった!
 この世界に来てからずっと、夜の寂しさも不安も恐怖も全て、ウルと一緒に過ごして来た。色んな事が変化して、ウルもオッテの側がいいだろうと連れて来なかったけれど。

 顔を上げると、レオニダスの足元でオッテが座っている。

「オッテ」

 呼ぶと、ゆっくり立ち上がり近づいて来た。尻尾をユラユラと揺らしている。

「オッテ」

 いつもレオニダスの側にいたのに今は全く行動を共にしていない。ずっとウルの側にいるらしいオッテはあまり私に興味はなかったんだけれど。こうして近づいてきて尻尾を振ってくれるのが嬉しくて、オッテもウルもぎゅうぎゅうに抱き締めた。

「熱烈な歓迎だな」

 羨ましいぞ、とレオニダスが苦笑する。
 立ち上がりレオニダスの胸に飛び込んだ。大きな身体に腕を回してぎゅうっとしがみつく。レオニダスは腕を背中に回してゆったりと受け止めてくれた。私の涙を優しい手つきでそっと拭う。

「レオニダスさま」
「ウルに会いたかったんだろう?」
「はい、はい! ありがとうございます」

 またポロポロと涙が出て来て、ぎゅうっときつく抱きつくと、レオニダスは笑いながら優しく背中を撫でてくれた。

「今度時間を空けるから郊外へ出かけよう。美しい花の咲く丘がある。ウルとオッテも散歩させるといい」

 俺が来るだけじゃダメみたいだからな、と小さく呟き頭頂部にキスを落とす。

 違う、違うよ、そうじゃないの。
 胸に埋めていた顔を上げて、レオニダスを見上げる。
 優しい瞳と目が合って、熱い掌で頬を包まれる。

「レオニダスさまは帰ってしまうから」
「ん?」
「来てくれるのはとっても嬉しいんです。早く会いたくて、来る前はすごく楽しみにしてるけど……でも、レオニダスさまは帰ってしまうから」

 だから毎日淋しいんだと伝えると、レオニダスは目を瞠いて固まった。
 眉間に皺を寄せオッテのような唸り声を上げると、私の後頭部をがしっと押さえると食らい付くような深いキスをした。

「きゃあ」と、後ろで侍女さんたちの悲鳴のような、黄色い歓声のような声がした。

「んうっ……っ、んんっ」

 レオニダス! 人がいるからーー!!

 バンバンとレオニダスの腕を叩く。もちろんびくともしない。
 遠慮なく入り込む分厚い舌は一頻り口内を蹂躙するとぷはっと離れて、レオニダスは眉間に深い皺を寄せた。
 私は顔がもの凄く熱い。
 もう! 何してるの!
 文句を言おうと口を開くと、レオニダスはガバッと私を持ちあ……抱き上げた。

「きゃ…っ」

 落ちる落ちる! レオニダスの首にしがみつく。


「連れて帰る!!」


 レオニダスは暫く、私を抱き上げたままお義兄様と揉めていた。

 可笑しくて嬉しくて、声を上げて笑った。


 大好き、大好きよ、レオニダス。
 そう、耳元で囁いた。

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