65 / 119
第三章 祝祭の街
祝祭
しおりを挟む空に三つの月が浮かぶ時間。
「カレン」
馬車から先に降り立ったレオニダスが振り返り入り口で手を差し出した。
今日のレオニダスは全身真っ黒な出立ち。
軍服ではないけれど黒の長いマントを左肩だけに掛け黒い装飾ベルトが右脇下を通り留めている。黒いジャケット、ベストに黒い襟高のシャツ、黒いアスコットタイはゴールドにダイヤのついたピンで留めている。
幅広の黒いベルトは黒い刺繍が入り留め具は金。
黒いトラウザーズに黒いロングブーツがレオニダスの長い脚を更に長く見せる。
緩く後ろに流した青味がかった髪はまるで黒髪のように夜に馴染み、全身真っ黒のその姿は人々に畏怖と尊敬の念を抱かせる、まさに王族の色。
私はレオニダスの差し出した手にそっと手を載せタラップを降りた。
人々の騒めきと遠慮のない視線が突き刺さる。でも予想はしていたのでそれほど怯えるような事はない。コンクールの方がまだ緊張するもの。
煌々と明かりが灯され昼間のような明るさの王城には多くの馬車が停まり、華やかに着飾った紳士淑女が次々と降り立つ。
見上げると王城の周囲を沢山のオレンジ色の灯篭が囲み、ゆっくりと空へ登っていく。
遠くから聞こえる街の賑やかさも華を添え、祝祭に相応しい華々しさが溢れていた。
「わあ、凄い綺麗…」
高く高く登っていく灯篭を見上げ、思わず感嘆の声が漏れた。レオニダスが笑って私の腰を引き寄せる。
「そのような姿でも、中身は可愛らしいな、我が婚約者は」
黄金が蕩けるように瞳の中で揺らめいた。
「レオニダス、ほら行こう」
別の馬車で一緒に来たお義兄様がお義母様をエスコートして馬車を降り立つ。お義父様は入り口で落ち合う予定。私たち四人が集まると、人々の騒めきが一際大きくなった。
「ふふ、なんだか気分がいいわね」
「いい視線ではないと思いますが」
「あら、素晴らしいものを受け入れられない人に興味はないわ」
「母上らしいですね」
レオニダスのように黒のマントを肩に掛け、黒いジャケットにトラウザーズのお義兄様はクスクスと笑い周囲を見遣る。
「王族じゃないとダメだなんてルールは無いからね」
レオニダスだけではなく。
今日は、私たちもみんな黒を身に纏って今夜の舞踏会に出席する。
きっかけは、私が黒髪でどうしたって目立つのだしドレスも黒にしたらダメですかってオリビアさんに言っただけだったんだけれど。
黒いドレスを作ったことがないというオリビアさんが大興奮でデザインし、それを見てお義母様も私も黒いドレスが着たいと言い。
ならば、とレオニダスもお義兄様も黒くなった。
ちなみにお義父様も。
そんな訳で、私たちは凄く目立っている。
入り口に立つと、ザイラスブルク、バーデンシュタインの名を高らかに呼ばれる。
それまで広がっていた人々の騒めきが静かになり、室内楽団の奏でる音楽だけが響く。入り口は二階にあり、名を呼ばれてからホールへ続く階段を降りるので、ここで初めて私たちのドレスや服装を目にする人々の刺さるような視線。
私のドレスは至ってシンプル。
華美な装飾のないホルターストラップにウエストから広がる幾重にも重ねた繊細なレース。トレーンは長く後ろに広がり、動くたびにレースがフワフワと揺れて縫い込まれた小さな銀色のガラスのビーズがキラキラと光を反射する。踊った時の視覚的な効果を狙ってもいるらしい。
ただ、全身、黒いだけ。
そして髪型も、気合の入ったアンナさんとお義母様があれこれ考えた末、シンプルに前髪を全て上げて後ろに流しタイトなアップスタイルにした。
胸元と耳には金色の繊細なチェーンに大きなサファイア。
うん、私としてはシンプルで普通なんだけど。黒ってだけでこんなにも注目を浴びるなんて思わなかった。
でも不思議と嫌な気持ちにはならない。
お義母様の言うとおり、受け入れられない人に興味はない。私だって。
ホールに降り立ち、上座へと進む。後ろを振り返るとお義母様が小さく手を振っていた。
レオニダスのエスコートで玉座の前に立ち王族の入場を待つ。
室内楽の音が止み、やがてファンファーレと共に高らかに王族の入場が宣言された。皆一斉に礼を取る。
ベアンハート殿下とクラリッセ、ディードリッヒ王太子殿下にマルグリット王太子妃殿下と二人の王子達。そして国王陛下と王妃殿下。
「面を上げよ」
低く、でも遠くへとよく通る声に応え、顔を上げる。
肩まで伸びた真っ青な髪を後ろに撫で付け、無精髭を生やし深く刻まれた皺が威厳と風格を表しているその面差しは、金色の瞳を面白そうに細めてこちらを見ていた。
「ザイラスブルク公」
「はっ」
名を呼ばれレオニダスは一礼すると、私の腰に腕を回し前に出た。
え、私も?
玉座の前に出て跪く。
「そんなに堅苦しくせずともよい、我が甥よ」
なんとなく笑ってるような声に応えて立ち上がると、うん、やっぱりなんかニヤニヤしてる気がする。
「此度の婚約、誠めでたきことよ。ザイラスブルクに相応しい娘と良き縁を結んだこと、心から言祝ごうぞ」
「ありがたき御言葉」
「バーデンシュタインも良き娘と縁を結んでくれた。我が甥もこれで腰を据えて辺境の地、加え王国全土の防御の要としての役割を全うしようぞ」
後ろでお義母様たちが礼を取る気配がした。
腰掛けていた玉座から立ち上がり目の前に降りて来た陛下は、私の顔をじっと見つめる。その表情は真剣なものになり、黄金の瞳に射抜かれて目を逸らすことが出来ない。
「美しい色だ。レオニダスが愛するのも当然よな。其方とレオニダスとの婚約、心から言祝ごう」
そう言って目を細め、私の額にキスをした。
後ろでお義母様とお義兄様が二人、拍手をしている音が聞こえた。
86
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
【全16話+後日談5話:日月水金20:00更新】
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ドルイデスは忌み子将軍に溺愛される
毒島醜女
恋愛
母の死後引き取られた叔父一家から召使として搾取され、手込めにされそうになった少女、羽村愛梨。
馴染みの場所であった神社に逃げると、異世界にいた。「神樹により導かれたのね」とドルイデスと呼ばれる魔女が愛梨を拾った。異世界に救われ、ドルイデスから魔法を教わりながら田舎で過ごしていく。現世では味わえなかった温かな人の温もりに、もう何も望むまいと思っていた。
先代のドルイデス=先生が亡くなり、村の外れで静かに暮らすアイリ。
そんな彼女の元に、魔獣討伐で負傷した将軍、ウルリクが訪ねてくる。
離れで彼を看病していくうちに、不器用で、それでいて真っすぐな彼に惹かれていくアイリ。
こんな想いを抱く事はないと、思っていたのに。
自分の想いに嘘がつけず、アイリはウルリクに縋りつく。
だがそれは、ウルリクにとって願ってもない頼みであり、もう決して逃れる事の出来ない溺愛の始まりであった…
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。