86 / 119
最終章 深淵
あなたを愛する
しおりを挟む――カレン!!
それは間違いなくレオニダスの声。
ウルが吠えながら私たちを誘導する。
その先から聞こえる、レオニダスの私を呼ぶ声。
風が行く手を阻むように強く吹くけど、手に感じるラケルさんの温もり、そして名前を呼ぶレオニダスの声が私を前へ前へと進ませる。
腕で顔を庇いながら進んでいると更に風が強くなり、立っているのも辛いくらいの強風が雪と共に身体に打ち付けてくる。
寒さがじわじわと身体を侵食し思うように進めない。
風に押され後ろに倒れかけたその時、逞しい腕が私たちを受け止め、ラケルさんが隣で身体を震わせた。
「ジーク……!!」
視界が真っ白になり思わずギュッと目を瞑っていると、風が大きくうねり私たちを飲み込もうと四方から吹き付け、でもやがて諦めのような大きな咆哮を上げて霧散した。
ずっと耳元で鳴っていたゴオゴオという風の音が止み、太陽の熱を肌に感じてそっと目を開くと、ラケルさんと手を繋いだまま、崖のような切り立った場所に立っていた。
視線を上げると私たちを受け止めてくれた大きな身体の人、ジークムントさんがこちらを見下ろしている。
「……ジー、ク…」
震える声でラケルさんがもう一度名を呼ぶと、レオニダスの面影のあるその人は優しくラケルさんに向けて微笑んだ。
「…っ、ジーク、ごめんなさい……私、私…っ、」
ジークムントさんはゆっくりと顔を横に振ると、そっとラケルさんの頬に掌を寄せた。
「……ジーク、連れて行って、私も一緒に……!!」
ラケルさんはジークムントさんに手を伸ばした。伸ばした手は、するりとジークムントさんをすり抜ける。
「……お願い、ジークムント」
ラケルさんは両手をジークムントさんの頬を挟むように差し出した。
「私は…貴方と一緒にいたい。初めて会った時からずっと、私は貴方と共に在りたいと願ってた」
涙を流すラケルさんの髪がキラキラと光の粒を纏っている。
「ジークムント……私は…聖女なんかじゃないわ」
ジークムントさんは身動ぎせずラケルさんを見下ろしたまま。
「私はただ、貴方を愛しているだけなの………」
お願い、ともう一度懇願する。
「もう、貴方と離れたくない…… 」
ラケルさんはそう言うと、背伸びをしてジークムントさんの唇にそっとキスをした。
やがて光の粒がポロポロと溢れるようにラケルさんとジークムントさんの身体を包む。
「……ラケル」
ジークムントさんは空を切っていたラケルさんの手に自身の手を重ねた。その手はしっかりとラケルさんの手を掴み、もう片方の手をラケルさんの腰に回しぐっと引き寄せ抱き締めた。
「ジーク…!!」
ラケルさんはジークムントさんに抱き締められて輝く様な笑顔を見せ、今度はすり抜けることなくしっかりとジークムントさんの身体を抱き締め返す。
ジークムントさんはラケルさんのこめかみにキスを落とし、顔を上げ私を見つめ口を開いた。
その声は聞き取れなかったけれどそれは確かに感謝の言葉。
良かった、良かったね。
ふふっと泣きながら笑うと、ラケルさんもポロポロと涙を流しながら私を見つめ、手を伸ばして私の頭をするりと撫でた。
ラケルさんの手にもう温かさを感じる事はなかったけれど、その手は確かに優しかった。
ありがとう
ラケルさんはそう言うと、私の後ろに視線を向ける。
そしてふんわりと、優しい花開くような笑顔を見せ手を大きく振って。
ずっとずっと、愛してるわ。
私のレオニダス、私のアルベルト。
私の子供たち。
そうしてジークムントさんとラケルさんは二人、光の粒になって、優しい表情のまま青い空に溶けていった。
どのくらいそうしていたのか、ウルの声がして振り返ると、草地の向こう、森の中からオッテが駆け寄って来た。
ウルが尻尾をこれでもかと振ってオッテの元に駆けて行く。
二頭で尻尾を振りながら互いの顔や体に鼻を擦り付け再会を喜んでいる様子をぼんやり見つめていると、森の中から黒い軍服を着た二人がゆっくりと出て来た。
「……レオニダス…、お義兄様、」
…本当に戻って来た。
辺りは先程までの嵐が嘘のように夏の森が戻って来ている。青い空、濃い緑。照りつける太陽の位置が高くなって来ている。足元に視線を向けると行く手を阻んでいた雪もなく、青々とした芝生の上に濃い影が落ちている。
レオニダスに視線を戻すと、手にしていた剣と背負っていた武器を投げ捨てながら私に向かって駆けて来るところだった。
「カレン!!」
私もレオニダスの元に走り出した。
縺れる足がもどかしい。
レオニダス、レオニダス、レオニダス…!!
レオニダスは両腕を広げ、飛び込んだ私を全身で受け止めてくれた。
レオニダスの首にしがみ付く。
腰に腕を回しきつく抱き締められ、私の首元に顔を埋めたレオニダスが大きく息を吐いた。
「カレン!!」
首にキスをし、頬に、額に。
至近距離で瞳を覗き込む。
黄金色の瞳が揺れ、その瞳に映る私はポロポロと泣いている。
後ろ髪に指を差し入れ強く寄せられて唇を合わせた。
そしてまたきつく抱き締める。
「……レオニダス、レオニダス…!」
「カレン…!!」
きつく抱き締めるレオニダスの腕が、身体が震えているのが分かった。それが分かった途端、また涙が溢れてくる。
「レオニダス…っ」
レオニダスの熱い体温に触れ抱き締められて、私の意識はゆっくり閉じていった。
66
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
【全16話+後日談5話:日月水金20:00更新】
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ドルイデスは忌み子将軍に溺愛される
毒島醜女
恋愛
母の死後引き取られた叔父一家から召使として搾取され、手込めにされそうになった少女、羽村愛梨。
馴染みの場所であった神社に逃げると、異世界にいた。「神樹により導かれたのね」とドルイデスと呼ばれる魔女が愛梨を拾った。異世界に救われ、ドルイデスから魔法を教わりながら田舎で過ごしていく。現世では味わえなかった温かな人の温もりに、もう何も望むまいと思っていた。
先代のドルイデス=先生が亡くなり、村の外れで静かに暮らすアイリ。
そんな彼女の元に、魔獣討伐で負傷した将軍、ウルリクが訪ねてくる。
離れで彼を看病していくうちに、不器用で、それでいて真っすぐな彼に惹かれていくアイリ。
こんな想いを抱く事はないと、思っていたのに。
自分の想いに嘘がつけず、アイリはウルリクに縋りつく。
だがそれは、ウルリクにとって願ってもない頼みであり、もう決して逃れる事の出来ない溺愛の始まりであった…
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。