勘違いから始まりましたが、最強辺境伯様に溺愛されてます

かほなみり

文字の大きさ
105 / 119
第五章 結婚前夜

レオニダス3 君という人物

しおりを挟む


「検査はしたけど、何も出なかったよ」

 アルベルトは言いながらベアンハートへ俺の検査結果を記した書類を手渡した。ベアンハートは素早く中身を検めて、何やら書き記していく。
 
「違う視点でものを見ると見えてくるものがある。初めに検査をしたときは毒まで検査項目に入れていないだろう」
「毒……」

 べアンハートの言葉に反応し、つい言葉にしてしまった。アルベルトがちらりとこちらを見る。
 砦に到着してすぐ、ベアンハートの指示で医務室へ向かい、採血をした。
 他にも改めて全身の確認を行い、この後はベアンハートが詳細を調べるという。
 アルベルトは椅子にもたれかかり、腕を組んで天を仰いだ。疲れているのは傍目で見ていても十分に分かる。
 そういう所が、ますますジョストに似ている。

「運悪く弓矢を使っているのを狙われたのか、弓矢を使うことを知られて計画的に狙われたのか」
「後者だ。常人ならばレオニダスを狙うなど不可能だし無計画で深淵の森へ入りタイミングを見計らうなどリスクが高すぎる上に吹き矢など都合のいいものを持ち歩くはずがない。拾得物に痕跡が残っていないか調べるから研究室を借りる。医務室から何人か手伝いをよこしてくれ」

 べアンハートは言うだけ言い放つと、あれこれと器具を籠に詰め込んで、兵士に案内されて執務室を後にした。
 ああなるとしばらく研究室から出てこなくなる。
 それは恐らく、今も変わりないのだろう。

「ベアンハートはなぜここにいるんだ?」

 深淵の森から屋敷へ直接戻った俺に、ナガセがベアンハートの来訪を教えてくれた。しばらくの間、屋敷で滞在してもらうことになると話していたが、なぜこんな雪深い季節にあの男が辺境へ来ているのか分からない。

「本当は春に来る予定だったんだよ」
「なぜ」
「なぜって……」

 うーん、とソファに腰掛けるアルベルトが腕を組んだ。
 入口で控えているクラウスが神妙な面持ちで俺を見ている。
 クラウスは、父上の部下だった男の子息で、平民だが代々優秀な軍人を輩出している家系だ。兄弟が多く、聞けば今では全員が軍や王都の騎士として勤めているという。
 俺の記憶では、クラウスは辺境の学校を出てすぐに兵としてオーウェンの隊に配属となった。あのころ、オーウェンからひどい訓練を受けていた俺たちは、憂さを晴らすようによく街で飲んでいた。
 そのクラウスが、今では第五部隊の隊長だという。

(世代交代、か)

 オーウェンも今では退役し、城下で店を開いている。飲み屋だというのは合点がいったが、そこへナガセが通い、食事や音楽を提供していると聞いた。
 ナサニエルがザイラスブルクの屋敷で料理人をやっているというのも驚きだった。筋肉を鍛えるしか頭にないような男だったのだが。
 アンナも、ナガセの侍女として屋敷で働いている。
 
 どこか昏く、重たい空気を持っていた辺境が、今は明るさすら感じるほど変化している。いなくなった者たちも確かにいるが、新しく前へ進んでいる空気を感じるのだ。

「まあ、ね。さすがに王太子殿下は忙しいから」

 アルベルトは、隠しているわけじゃないし、と言いながら俺を見た。
 
「なんの話だ」
「うん? 結婚式だよ」
「――ベアンハートが?」
「違うよ、レオニダスの」
「俺……?」
「レオニダスとナガセの結婚式が春にあるんだ。王家から代表してベアンハートが参列してくれるんだよ」
「は……?」

 思わず口元を手で覆った。

(俺が、結婚……)

 ナガセが婚約者だというのは聞いた。屋敷にいるのもそのためだと。彼女をバーデンシュタインの養子にして、俺の婚約者に相応しい後ろ盾を得たのだとも。
 だが、まさかそんなすぐ結婚式があるとは思っていなかった。

「あのさ、ちゃんとナガセと話してる?」

 ソファに背中を預けたアルベルトが、目を細めて俺を見た。

「――まあ、少し、は」
「なんでそんな逃げ腰なの?」
「逃げ腰ではない」
「そう? 避けてるでしょう、ナガセのこと」

 朝早くに屋敷を出て、彼女と朝食を共に取らないようにしている。屋敷へ戻るのも深夜、砦に泊まることもあった。
 彼女の話になると、皆そろって表情を緩め、俺がいかに彼女を愛しているか語るのだ。俺の知らない俺の話を、俺の振る舞いを、聞かされる身にもなってほしい。
 正直、いたたまれない。
 アルベルトは困ったように眉尻を下げ、肘をついて俺を見る。

「気持ちは分かるけどさ、ナガセは君が選んだ女性だよ、レオニダス。なぜ君がナガセを選んだのか、彼女がどんな女性なのか、ちゃんと向き合ってみなよ」
「向き合って……」
(それで、何も思い出さなかったら?)
 
 彼女は、どう思うだろうか。
 何も覚えていない俺のことを、彼女はどう思うのか。
 ――傷つけたりしないだろうか。

「ナガセが君に相応しくない女性だったら、ヨアキムもアンナも、屋敷でナガセに仕えるようなことはしないし、僕の義妹にだってならないよ」
「それはそうだが」
「レオニダスも」

 そこまで言って、アルベルトは首を傾げて俺をじっと見つめた。その眼差しは、まるで、すべて分かっているとでも言いたげな、心を見抜くような眼差しだ。

「君が辺境伯として尊敬するに値する人物だからこそ、人々は皆、君に敬意を払っているんだよ」
「……」 
「君はここまで、よくやってきた。それは、僕が一番知ってる」
「――そうか」

 アルベルトの言葉に、俺はそう答えるのがやっとだった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
【全16話+後日談5話:日月水金20:00更新】 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ドルイデスは忌み子将軍に溺愛される

毒島醜女
恋愛
母の死後引き取られた叔父一家から召使として搾取され、手込めにされそうになった少女、羽村愛梨。 馴染みの場所であった神社に逃げると、異世界にいた。「神樹により導かれたのね」とドルイデスと呼ばれる魔女が愛梨を拾った。異世界に救われ、ドルイデスから魔法を教わりながら田舎で過ごしていく。現世では味わえなかった温かな人の温もりに、もう何も望むまいと思っていた。 先代のドルイデス=先生が亡くなり、村の外れで静かに暮らすアイリ。 そんな彼女の元に、魔獣討伐で負傷した将軍、ウルリクが訪ねてくる。 離れで彼を看病していくうちに、不器用で、それでいて真っすぐな彼に惹かれていくアイリ。 こんな想いを抱く事はないと、思っていたのに。 自分の想いに嘘がつけず、アイリはウルリクに縋りつく。 だがそれは、ウルリクにとって願ってもない頼みであり、もう決して逃れる事の出来ない溺愛の始まりであった…

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。