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第一章
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「ようこそお越しくださいました」
アレクシオス王太子一行が滞在する王城内の屋敷に到着すると、外に出た使用人が一斉に頭を垂れ出迎えた。
アレクシオスはゆったりと馬車を降りると私を腕の中に抱いたまま、その歓迎に笑顔で応える。
「アントレア王国カサヴェテス公爵アレクシオス・リュサンドロス王太子殿下にご挨拶申し上げます」
「ありがとう、世話になるよ」
使用人たちは深く頭を垂れ、腕の中の私に気がついていない。そのまま気がつかないでほしい。この方を人形遊び好きな方だと思わないでほしい!
同じく馬車から降りた大きな黒い犬、レトが「ワン!」と吠えると、また何処か遠くで「フニャッ!」と猫の鳴き声がした。
(ルアド、来てるのね)
そのことに心底ホッとする。
アレクシオスをこの屋敷の責任者であろう執事長が部屋へ案内した。馬車に同乗していた従者と護衛騎士がその後に続く。
部屋へ案内され一通りの説明を受けて、やっとアレクシオスはソファに腰掛け息を吐き出した。
部屋付きの侍女がワゴンで紅茶を淹れたのを、毒見役なのか従者が先に口にする。問題ないと改めて紅茶をテーブルに静かに置いて、従者は侍女に下がるように命じ室内はアントレア王国の人間だけになった。
一緒に室内に入ってきたレトが、フンフンとあちこち匂いを嗅いで歩いている。
「なんとも、立派な屋敷ですね」
「素晴らしい建造物だ。歴史ある建物らしいけどちゃんと手入れが行き届いているね」
アレクシオスは室内をぐるりと見渡しながら紅茶を口にした。
「それに、美味しい紅茶だ」
「気に入ったのなら土産に用意させます」
「そうだね」
アレクシオスは紅茶を飲みながら、テーブルの上に座らせた私をじっと見つめる。
……何かしら。大丈夫、動いていないはず。
「テオ、悪いけど頼まれてくれるかな」
「なんでしょう」
テオと呼ばれた従者はアレクシオスにいくつか頼まれ事をされ、なんだか不満そうに眉根を寄せた。
「人形の服ですか?」
「そう」
アレクシオスはテーブルの上に座らせて(置いて)いた私を持ち上げて、まじまじと観察を始めた。
(近い近い! お願い、そんなに見ないで!)
また変な汗が出てくる。そんなに近くで見られては、流石に気がつかれてしまうのではないだろうか。
「ユーリエ王女の大切な人形を汚してしまったからね、服くらい贈りたいんだ」
「本人にではなく人形のものを先に贈るなんて」
「もちろん本人にも贈るよ。でもそのためには一度ちゃんと会ってからではないと、不釣り合いなものは贈れないだろう」
「はあ」
従者は渋々といった様子で騎士を一人連れて部屋を出ていった。アレクシオスは残る護衛騎士にも部屋の外で待機するように命じ、室内には実質アレクシオス王太子一人。
私をもう一度テーブルに座らせると、自分の膝の上に片肘を突き、手のひらに顔を乗せて、その瞳をまっすぐに私に向けた。なんだか少し、楽しそうに笑っている気がする。
(……人形遊びが好きなのかしら)
そんなことをぼんやり頭の片隅で思いつつ、見つめてくる瞳を見返す。
この国では見たことがない赤い瞳が、宝石のように美しいと思った。
「……さて」
アレクシオスは手袋をしたままの長い指で、ツンと私の額をついた。
「この国には妖精がいるなんて知らなかったな」
その言葉に、さあっと身体から血の気が引いた。
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