小さな魔法の物語

かほなみり

文字の大きさ
15 / 27
第一章

11


「ようこそお越しくださいました」

 アレクシオス王太子一行が滞在する王城内の屋敷に到着すると、外に出た使用人が一斉に頭を垂れ出迎えた。
 アレクシオスはゆったりと馬車を降りると私を腕の中に抱いたまま、その歓迎に笑顔で応える。

「アントレア王国カサヴェテス公爵アレクシオス・リュサンドロス王太子殿下にご挨拶申し上げます」
「ありがとう、世話になるよ」

 使用人たちは深く頭を垂れ、腕の中の私に気がついていない。そのまま気がつかないでほしい。この方を人形遊び好きな方だと思わないでほしい!
 同じく馬車から降りた大きな黒い犬、レトが「ワン!」と吠えると、また何処か遠くで「フニャッ!」と猫の鳴き声がした。

(ルアド、来てるのね)

 そのことに心底ホッとする。
 アレクシオスをこの屋敷の責任者であろう執事長が部屋へ案内した。馬車に同乗していた従者と護衛騎士がその後に続く。
 部屋へ案内され一通りの説明を受けて、やっとアレクシオスはソファに腰掛け息を吐き出した。
 部屋付きの侍女がワゴンで紅茶を淹れたのを、毒見役なのか従者が先に口にする。問題ないと改めて紅茶をテーブルに静かに置いて、従者は侍女に下がるように命じ室内はアントレア王国の人間だけになった。
 一緒に室内に入ってきたレトが、フンフンとあちこち匂いを嗅いで歩いている。

「なんとも、立派な屋敷ですね」
「素晴らしい建造物だ。歴史ある建物らしいけどちゃんと手入れが行き届いているね」

 アレクシオスは室内をぐるりと見渡しながら紅茶を口にした。

「それに、美味しい紅茶だ」
「気に入ったのなら土産に用意させます」
「そうだね」

 アレクシオスは紅茶を飲みながら、テーブルの上に座らせた私をじっと見つめる。
 ……何かしら。大丈夫、動いていないはず。

「テオ、悪いけど頼まれてくれるかな」
「なんでしょう」

 テオと呼ばれた従者はアレクシオスにいくつか頼まれ事をされ、なんだか不満そうに眉根を寄せた。

「人形の服ですか?」
「そう」

 アレクシオスはテーブルの上に座らせて(置いて)いた私を持ち上げて、まじまじと観察を始めた。

(近い近い! お願い、そんなに見ないで!)

 また変な汗が出てくる。そんなに近くで見られては、流石に気がつかれてしまうのではないだろうか。
 
「ユーリエ王女の大切な人形を汚してしまったからね、服くらい贈りたいんだ」
「本人にではなく人形のものを先に贈るなんて」
「もちろん本人にも贈るよ。でもそのためには一度ちゃんと会ってからではないと、不釣り合いなものは贈れないだろう」
「はあ」

 従者は渋々といった様子で騎士を一人連れて部屋を出ていった。アレクシオスは残る護衛騎士にも部屋の外で待機するように命じ、室内には実質アレクシオス王太子一人。
 私をもう一度テーブルに座らせると、自分の膝の上に片肘を突き、手のひらに顔を乗せて、その瞳をまっすぐに私に向けた。なんだか少し、楽しそうに笑っている気がする。

(……人形遊びが好きなのかしら)

 そんなことをぼんやり頭の片隅で思いつつ、見つめてくる瞳を見返す。
 この国では見たことがない赤い瞳が、宝石のように美しいと思った。

「……さて」

 アレクシオスは手袋をしたままの長い指で、ツンと私の額をついた。

「この国には妖精がいるなんて知らなかったな」

 その言葉に、さあっと身体から血の気が引いた。

感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

亡き姉の身代わりとして嫁いだ私ですが、離縁状を置いた翌朝、夫が私の「真実」に気づいたようです』

まさき
恋愛
「サインはもう、いただきました。あとは私がこの屋敷を出るだけです」 ​五年間の結婚生活。侯爵令嬢エルゼが演じ続けたのは、亡き姉・ロザリーの「身代わり」という配役だった。 夫であるカイル公爵が愛していたのは、かつて雪の中で自分を救ってくれた初恋の少女・ロザリー。 生き写しの妹であるエルゼを娶りながらも、彼は一度も彼女を「エルゼ」と呼ぶことはなかった。 ​冷淡な視線、姉と比較される日々。 「君はどこまでいっても、ロザリーの代わりにはなれない」 その言葉を最後に、エルゼは静かに離縁状を置き、屋敷を去る決意をする。 ​しかし、彼女が消えた翌朝。 カイルは、エルゼが大切に遺していった古い小箱を見つける。 そこにあったのは、十五年前のあの日、彼が「命の恩人」に預けたはずの片方のカフスボタン。 そして、幼いエルゼが綴った、あまりにも切ない真実の日記だった。 ​――「あの日、雪の中で貴方を抱きしめていたのは、お姉様ではなく、私だったのです」 ​真実を知り、絶望の中でエルゼを追うカイル。 だが、すべてを捨てて「自分」を取り戻したエルゼは、もう二度と、彼の隣で微笑む仮面の妻には戻らない。 ​これは、名前を奪われた女が自由を掴み、愚かな夫が真実の愛を失うまでの、静かで鮮やかな再生の物語。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

〖完結〗終着駅のパッセージ 

苺 迷音
恋愛
過去、使用人に悪戯をされそうになった事がきっかけとなり、分厚い眼鏡とひっつめた髪を編み帽で覆い、自身の容姿を隠すようになった女性・カレン。 その事情を知りながらも夫ローランは、奇妙で地味な姿の妻を厭い目を逸らし続けた。 婚姻してからわずか三日後の朝。彼は赴任先の北の地へと旅立ちその後、カレンの元へと帰省してきたのは、片手で数えるほどだった。 孤独な結婚生活を送る中。 ある冬の日に、ローランの上官であり北の地を治める領主ハルシオン公爵が、カレン夫妻の邸にやってきた。 始まりは、部下の家族を想う上司としての気遣いだった。 他愛もない会話と、節度を守ったやり取り。ほんの僅かな時間を重ねていく。 そのうちに、お互いに灯り始めた小さな心の想い。 だが二人は、それを決して明かさず語ることはなかった。 それから一年ほどたった冬の夜。 カレンから届いた手紙に、たった一度だけハルシオンは返事を書く。 そこには彼の想いが書かれてあった。 月日は流れ、カレンとローランが婚姻して三年目の冬の日。 カレンはひとつの決意と想いを胸に、北へ向かう汽車に乗った。 ※微さまぁか、もしくはざまぁになっていないかもしれないです。 ※舞台は近世・産業革命初頭を基にした架空世界だと思っていただけましたら有難いです。 稚拙な作品ではありますがご覧くださいましたら凄く嬉しいです。よろしくお願い致します。

悪役令嬢、休職致します

碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。 しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。 作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。 作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。