小さな魔法の物語

かほなみり

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第一章

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(どうしよう、話すきっかけを失ってしまったわ)

 言葉を解するかどうか聞かれた時、咄嗟に返事ができずに頷くだけだったのを、そのままズルズルと引きずっている。

(でも妖精と思っているようだし)

 話せるとなると何か色々と聞かれそうだし、隠し通せる自信がない。このまま喋らずにいるのがいいかもしれない。
 そんなことを思っていると、アレクシオスはテーブルの上に私を座らせ、空になった小さなミルク入れに果実水をほんの一滴入れた。

「うーん、これでもまだ大きいな」

 小さなミルク入れは私にはピッチャーのよう。
 それでも、持ち上げることができるし口をつけて飲むことができるので、とてもありがたい。

「テオに服以外も頼んでいるから、夜はもう少し不便じゃないと思うよ」

 果実水を飲みながらアレクシオスを見上げると、興味深そうにじっと私を観察していた。とても、ものすごく、目をキラキラさせている。

「君はこの国の妖精? それとも、ユーリエ王女の母君が残した魔法なのかな」
(お母さま?)

 お母さまのことを調べてあるのだろうか。
 北にある小さな国の王女だったというお母さま。お母さまの国の人々は、不思議な魔法を使うことができる人々がいると聞いたことがある。
 花を咲かせたり虹を作り出したり、おとぎ話のような素敵な風景を作ることができると言っていた。

『――お母さまとユーリエの、二人だけの秘密よ』

 白く細い人差し指を唇の前で立て、しいっと囁いたお母さま。
 金色の波打つ髪がキラキラと輝き、翡翠のような瞳が綺麗で、いつも優しかったお母さま。

「妖精さん?」

 アレクシオスの声に意識が引き戻される。眼の前にお茶とともに用意されていた焼き菓子が小さくカットされて差し出された。

「お腹は空いていない? これも食べるといいよ」

 優しく私を気にかけてくれるアレクシオスに、黙っていることが心苦しくなってくる。本当は話せるんですと、口に出して伝えたい。
 黙ったまま動かなくなった私を見て首を傾げたアレクシオスは、焼き菓子をつまみ、口にした。

「……うん、美味しい。テオが毒見をしてくれているから大丈夫だよ」

 首を傾げ、ほら、と両手を広げて安全だと主張する。そんなことは心配していないのだけれど、あまり心配をかけてはいけないと、私もお菓子のかけらを手に取りぱくりと口にした。香りのいいバターとしっとりとした生地が美味しい。つい手が伸びて、口に運んでしまう。

「よかったらもっと食べてね」

 アレクシオスは私を見下ろしながらまたぽつぽつと話し出す。

「君に名前はあるのかな。ユーリエ王女は君をなんて呼んでいるんだい?」
(不思議な人……)

 黒髪を後ろに撫で付け、切れ長の赤い瞳は冷たい印象すら受けそうなのに、柔らかく細め見たこともない小さい私を優しく見守っている。
 
(優しい人なのね)

 湯浴みもお菓子も、こうして世話をしてくれた。
 なんだか絆されているみたいだけれど、少なくとも悪意や害意を感じない。この国に到着したばかりで疲れているというのに、王女宮まで私の様子を見に来てくれた。

(ちゃんと、早くお話しなくては)

「……ユーリエ王女は、私のことをどう思うかな」
(!?)

 その言葉にぱっとアレクシオスの顔を見上げると、顎に手をかけ窓の外を見つめていた。

「私の瞳の色はとても変わっているからね。この色を恐ろしいと言う者もいるくらいだ。怖がらせたくないんだけれど、隠すわけにもいかないから」
(恐ろしいだなんて! とても美しいのに)

 透明な水晶のように澄んだ赤い瞳は日の光を浴びて美しく光り、長い睫毛が白皙の肌に影を落とす。
 小さいと、今までよりも色んなものが見えてくる。
 
「ユーリエ王女は何が好きかな。君のドレスや家なんかを送ったら喜ぶだろうか。私が君の事を知ったというのは話してもいいかな? 使用人たちは君が妖精だってことは知ってる?」

 ひとり言のように次々と言葉を掛けられ、答えられずにおろおろしていると、そんな私を見下ろしたアレクシオスがクスクスと笑った。

「ごめん、こんなこと聞かれても困るよね。これでもね、緊張しているんだ」
(緊張?)

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