【完結】黄金の騎士は丘の上の猫を拾う

かほなみり

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終焉1

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「すっごく浮いてる」

 そう言うとエーリクはカラカラと笑った。
 ユーレクは馬上でじろりと笑い続けるエーリクを睨みつける。

「そういうお前だって黒い軍服じゃないか」
「軍服だからさ、ユーレクみたいに肩の飾緒とか付いてないんだよ。キラキラ必要ないからね」
「キラキラしてねえだろ!」
「マントはどうしたの?」
「マントは……預けてきた」
「え? なに、預けてきたってなに?」
「お二人ともいい加減にしてください」

 ロイドが大きなため息をついて二人を諫めた。後方で同じく馬上にある騎士たちからも笑い声が漏れる。目の前に聳える王城の門を前に、いつまでも開かない状況に騎士たちの神経がキリキリと張り詰める……はずだが。
 なんとものんびりした空気が流れていた。

 ユーレクたちは平民の装いから王家の装いに着替え、馬に乗り騎士たちを従えゆっくりと王城へやって来た。
 突然首都内に現れた他国の行軍。ゆったりとまるで観光をしているように、汚れのひとつもない真っ黒な装束を纏った真っ青な髪の若い青年が、傷ひとつない甲冑を身に付けた騎士達を従える姿に、人々は脅え震え上がった。
 そして、彼の国は指揮系統が破綻しているのか攻撃してくるような様子もないまま、行軍は王城に辿り着いた。
 教会へは既に浄化のための人を送り、周囲を騎士たちが見回り警戒している。

「内部の様子は」
「静かなものです」

 ユーレクがチラリと後方の騎士に視線を送ると、騎士は一つ頷いた。

「一刻は経った。どうやら我々を迎え入れる気はないようだ」

 ユーレクの言葉にロイドが頷き、片手を高く上げた。

「門を開けよ!」

 その声に、控えていた騎士達が門に押し寄せ、掛け声と共に城門を押す。ミシミシと音を立て、分厚く重い門が軋む音を立てた。

 その様子を馬上から眺めていたユーレクはサッと馬を降りた。

「殿下!? 何をされるおつもりです!?」

 その動きにロイドがギョッとした声を上げた。ユーレクは気にせず馬の手綱を近くにいる騎士へ渡す。

「のんびり待ってられるか。ここは任せたぞ、ロイド」
「お待ち下さい! 殿下!」

 行軍の先頭を離れたユーレクは地面を蹴ると高く舞い上がり、一気に城を囲む堀を飛び越え天端に飛び移った。
 青筋を立てユーレクを呼ぶロイドを振り返り、まるで軽い挨拶を交わすように片手を上げると、素早く向こうへ飛び降りて行った。

「殿下!」

 あーあ、と笑う騎士たちの声が背後から上がる。

「殿下が大人しく待ってられるはずないよな」
「まあ、堪えた方じゃないか?」
「お前たち! 馬鹿なことを言うな!」
「ロイド、僕も行くから大丈夫だよ。あとは任せたね」
「エーリク殿!」

 エーリクもヒラリと馬を降り、ユーレクの後を追い同じく高く飛び上がると、塀を飛び越え静かに王城内に舞い降りた。
 ユーレクと同じ能力を持つエーリクのギフトを目の当たりにした騎士たちから、感嘆の声が漏れる。
 残されたロイドは額に青筋を立てギリギリと手綱を握りしめた。
 騎士達はそんなロイドをこれ以上刺激しないよう息を潜め、辺りには門戸に体当たりする音と掛け声だけが響き渡った。

 *

 王城内は静まり返り、人気がなかった。
 暫く火も入れられていないのだろう、ひんやりと冷え込んだ薄暗い廊下の向こうには暗闇しかない。

 ふと、鼻につく嫌な匂いが漂って来た。何度も戦場で嗅いだことのある匂い。ユーレクはエーリクに視線を送ると、エーリクは頷き腰の剣に手を沿わせた。
 匂いを辿り暗い廊下を進む。二人の白い息だけが廊下に残る。

 一段と匂いが強くなり、そこに人の気配を感じた。
 大きな両開きの扉が開け放たれ、その向こうに広がるであろうホールから僅かな灯りが漏れている。
 ユーレクは静かに立ち止まり、剣に手を沿わせるエーリクを制した。知っている気配に、ユーレクは眉根を寄せ奥歯を噛み締める。

「遅い到着でしたね」

 その静かな声には抑えきれない殺気が滲んでいる。
 ユーレクは静かに室内に入ると、奥の椅子に腰掛ける一人の男を視界に捉えた。
 ホールと思われる室内の床には幾多もの死体が横たわり、血の海が広がっている。壁に掛けられている絵画、高い天井から下がるシャンデリアにも血飛沫が飛んでいた。
 男女の差も分からないほど血に塗れた遺体は、着ているものから王族のものだろう事が窺える。

 後から入って来たエーリクは、辺りを見渡し眉根を寄せた。
 誰一人、状況を見てとったのだろう。

「ティエルネ」

 ユーレクは無意識に拳を握り締め、革の手袋からギチッと音がした。

「話し合いの場を持ったのですが、徒労に終わりました」
「何をしている」
「為すべきことを為すために」
「王太子殿下はどうした」
「北の塔の地下にいるそうです。まだ生きていると」

 そう言うと椅子から立ち上がり、足元の石を蹴るように遺体の頭を蹴った。それはゴロゴロと音を立て転がり、鈍い音を立てて壁にぶつかった。

「王はここにはいません。一人で逃げ惑っている。なんとも愚かな事だ」

 血の海を渡りティエルネはゆっくりとユーレクの元に近づいて来た。

「シュバルツヴァルド軍は国境で控えている。お前もその場にいるべきだろう」
「私は軍人ではありません。私の為すべきことは王太子の奪還です」
「それは俺の任務だ」
「見届けましょう。貴殿が為し遂げる様を」

 ティエルネは薄紫の瞳に黄金色の針のような虹彩を光らせると、ふと目を細めた。

「……王太子妃殿下に会ったのですね」

 ティエルネはそれだけ呟くと、広間を出て北の塔へ歩き出した。
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