【完結】相棒の王子様属性キラキラ騎士が甘い言葉で誘惑するの、誰かなんとかしてください

かほなみり

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 事件後、隊長から休養を言い渡され私は自宅謹慎となった。

「隊長、一人でずっと寮にいるなんてしんどすぎます。せめて騎士団に来るだけでも駄目ですか?」

 隊長室で通知を受け取り執務机に座る隊長に申し出ると、思いっきり顔を顰めた隊長が呆れた声を出した。

「お前な、それじゃ罰則の意味がないだろう」
「まあ、それはそうですね」
「反省しろ、ゾーイ。お前が後輩の手本にならずどうするんだ」
「申し訳ありません」
「今はとにかく怪我を治せ。話はそれからだ」
「……はい」

 隊長室を後にして、騎士団の廊下を歩く。何人かとすれ違い軽く挨拶を交わして、ふと廊下の窓から鍛錬場に視線を向けた。
 レンナルトが他の隊員と訓練をしている姿が見える。
 打ち合いをしていたのだろう、手には模造剣を持ち
、時折笑い声がこちらまで届く。楽しそうに話しているレンナルトと隊員たちの姿が、自分とは全く関係ない世界に見えた。いつもなら、私もあそこにいるはずなのに。

(……騎士を辞める、か)

 これまで、騎士以外の人生なんて考えたことがなかった。騎士になるためだけにここまで駆け抜けたのだ。これ以外に何ができるのかなんて分からない。
 けれど今、私の気持ちとは関係なく二つの道が示されている。私は今、それを選ばなければならない。
 ふと、レンナルトがこちらを見ているような気がした。動きを止め、じっとこちらを見つめているようなその姿に、なぜか責められているような気がして、声を掛けることなく足早にその場を去った。

 *

「ゾーイ、アンタに手紙が来てるよ」
「ありがとう」
 
 寮に戻ると寮母から何通か手紙を受け取ると、実家の母からの手紙が含まれていた。部屋に戻り中身を確認して、大きなため息が漏れる。
 実家には今回の件は伝えていない。わざわざ心配させるようなことを言う必要がないし、騎士という仕事柄、いちいちそんなことをしていてはきりがない。そこは家族も理解しているので問題はないのだけれど。

「にしても、すごいタイミングね」
 
 思わず笑い声が漏れ、もう一度手紙に視線を落とす。

『お見合い相手の方は王都の人だから、時間を作って一度会ってみて』

 そう書かれた手紙には、相手にも連絡済みだとある。

「いつまでも返事をしないから先手を打ったわね」

 母のやりそうなことだと思わず一人、ごちる。

(結婚か……)

 自分が大人しく家庭に入るなんて考えられない。夫を立てる? 支える? 私にそんなことを求められても無理だろうし、相手も困惑するだけだ。

(ちゃんと会わないと失礼だよね)

 どうせ時間はある。断るなら相手と話をしてからでも遅くないかも。
 こんなこと、もし騎士団で普通に勤務していたら思いもしなかっただろう。時間の無駄とばかり、実家に適当に連絡をして手紙ひとつで断ればいいだけだ。
 けれど今、このタイミングなのだ。私の人生の何かが変わるかもしれないこのタイミングで名前が挙がる人物。
 踏ん切りがつかなくて勝手にこの出来事に意味を見出して、会う口実を作ろうとしているだけのことなのかもしれないけれど。

「取り合えず、動き回ってもいいようになってから会うことにしようかな……」

 手紙には相手の名前と住所も記されている。私は便箋を取り出し、手紙を送ることにした。
 
 *

 休養に入り一週間ほど経った頃、やっと身体を少しずつ動かしてもいいと医師の許可が下りた。ただし、現場復帰はまだ駄目だと言われている。
 それならと、寮の敷地内でランニングするのを日課にしていた。

「ゾーイ、来客よ」
「来客?」
 
 ランニングから戻ると寮母に玄関前で呼び止められた。
 不思議に思いながら、どうせ騎士団の誰かだろうと汗だくのまま来客者のいるラウンジへ向かうと、ソファに座っている見覚えのない男性が一人。プラチナブロンドが日の光に煌めいている。
 男性は私の姿を見るとパッと立ち上がった。

「ゾーイ・バーンズさん?」
「はい、貴方は……?」
「あ、失礼しました、ヨルク・アルホフです」
「……え、あっ!?」
「はじめまして」

 ヨルクと名乗った男性は、優しげに薄水色の瞳を細め目尻を下げて微笑んだ。

「は、はじめまして……!」

 お見合い相手、と言われ私が先日手紙を送った相手、ヨルク・アルホフ。やや細身の彼はそっと小さな花束を私に差し出し、小さく笑った。

「突然の訪問、申し訳ありません」
「い、いいえ……」
「これを。お好きかは分からないのですが」
「私に? ……ありがとう、かわいいわ」
(こんな格好なのに……!)

 花束なんてもらうのはいつ以来だろう。何だか恥ずかしい。この格好も恥ずかしい。

「ご丁寧なお手紙をありがとうございました。あの、お怪我をしたと書かれていたので、ご迷惑かと思ったのですがお見舞いにと思いまして」
「ありがとう。もう怪我はなんともないんです。ただ、外でお会いするにはひどい顔なので」
「そんなことはありません! お元気そうでよかった」
「……ありがとう」

 ふふふ、と笑い合っていると、急に背後に視線を感じ振り返れば、寮母や同僚たちがこちらをソワソワと見ている。

(ななな、何してんのよ!)

 絶対に後で色々聞かれるやつだわ!
 
「そ、外を少し歩きませんか!?」

 キラキラした目でこちらを見る彼女たちに背を向けて、私は慌ててヨルクを散歩に連れ出した。
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