【完結】相棒の王子様属性キラキラ騎士が甘い言葉で誘惑するの、誰かなんとかしてください

かほなみり

文字の大きさ
17 / 25

17

しおりを挟む

 手を繋いだまま、私たちは先日も訪れた店にやってきた。美しく着飾った人ばかりの場所に騎士の隊服のままの私たちはやや目立っていたけれど、個室に入ってしまえば気にならない。
 メニューを見ながらいくつか注文し、ワイングラスで乾杯をした。

「五人相手は疲れたな」
「でも、さすがだったわよ」
「それはゾーイにそのまま返すよ」

 ふはっと笑いながら白ワインを傾けるレンナルトは、夜の照明に照らされて金髪を美しく輝かせる。

「私はだめ。あれしかできないもの」
「十分動けてた」

 その言葉にふるふると首を振る。

「持続できないの。あれ以上時間がかかってたら駄目だった」
「……そうか」

 そう言って黙るレンナルトは、私の言葉を持っているのだろう。
 私は手元のグラスに視線を落とし、そこに映る自分を見つめながら口を開いた。

「隊長に、返事をしてきたわ」
「……打診の?」
「そう、指導者の件。……引き受けることにした」
「だろうな。ゾーイに鍛えられたあの四人、かなり動けるようになってたから」

 レンナルトは笑いながらグラスを煽り、空にする。

「……アイツは?」
「アイツ?」

 レンナルトはウェイターが置いていったボトルで自らグラスにワインを注ぐ。はちみつ色の液体がゆらりと揺れた。

「あの、ひょろっとした奴」
「ひょろっとって。ヨルクさんのことね」
「結婚申し込まれたの?」
「……お断りした」
「そうか」

 もう一度「そうか」と言って、レンナルトはじっと自分のグラスを見つめる。

「打診されたのはどこの施設?」
「……東部の、訓練施設」
「遠いな」
「来月には引っ越すわ。引き継ぎもあるし、引っ越し先も早く向こうで探さなくちゃいけないし、だから」
「ゾーイ」

 レンナルトがぎゅっとテーブルの上の私の手を握る。

「返事が欲しい」

 強く握るその手が熱い。
 伝えなきゃ。ちゃんと伝えて。
 レンナルトと一緒にいられないって。仕事で滅多に会えなくなるって。言わなくちゃ――
 
「……離れ離れになる、し」
「そうだな」
「レンは隊長になって、忙しくなるし」
「ああ」
「時間を合わせるのも大変だし」
「会いにいくよ」
「レ、ンナルトは人気あるから、きっときれいな女性がたくさん近付いてくる」
「興味ない」
「自分の子どもだって、難しいかも」
「それは、俺との結婚を考えてくれてるってこと?」
「そ、れは」
「ん?」

 長い指が、私の手の甲をすりすりと撫でる。レンナルトの甘い声に声が震える。

「……私、この仕事が好きなの」
「知ってる。俺は、そんなゾーイが好きだ」

 レンナルトの言葉にじわりと視界が揺れた。

「……わ、私なんかと結婚しても、きっと仕事を優先するわよ」
「わかってる」
「家のことだって大してしないかも」
「そんなの、一緒にしたらいいだろ」

 自覚してしまうと、もう駄目だった。
 まともにレンナルトの顔を見ることができない。

「俺のことが好きだろ?」

 レンナルトの宥めるような甘い声に、視界を覆っていた膜がぽたりとテーブルクロスに落ちた。
 一度落ちてしまうと、とめどなくポタポタと白いクロスに丸いシミを作っていく。
 本当は離れたくない。
 私たちはずっと一緒にいると、信じて疑わなかった。
 けれどお互い年齢を重ね、立場も変わり、それぞれ責任ある仕事に就かなくてはならなくなった。それは素晴らしいことであり、喜ばしいことでもある。
 この関係を改めて俯瞰してみて、やはり続けられないのだ。このままではいられない。

「ゾーイ」

 レンナルトは私の手を持ち上げ、そっと指先に口付けをした。その美しく伏せられた顔をじっと見つめる。
 
「俺はゾーイの帰る場所でありたい。ゾーイがこれからも好きなことをして、ちゃんと俺のもとに戻ってきてくれたらそれでいい」
 
 するりと長い指が私の指を絡め取る。

「それに、二人でいればゾーイが心配してることなんて大した問題じゃないだろ」

 ぎゅうっと胸が締め付けられる。
 いつだって私たちは二人で乗り越えてきた。戦場でも互いを信用し信頼し、命を預けてきた。レンナルトと一緒なら、何ひとつ臆することなく乗り越えられたのだ。

「……不安になる」
「俺のこと?」
「離れるの、初めて、だし」
「信用してないな」
「してる。……でも」

 言葉がうまく続かず黙ると、レンナルトはふはっと声を上げて笑った。

「俺がどれだけゾーイを好きか、全然わかってないな」
「そ、んなこと」
「他になんて興味も関心もない。俺の全てはゾーイに向いてるんだよ」
「よ、よくそんな恥ずかしげもなく……」
「本当のことだ。まあ、俺も心配してることはあるけど」
「え?」
「ゾーイに群がる男たちだ。離れてたら威嚇できないだろ」
「わ、私は……」
「気にしてるのはそれだけ?」

 レンナルトは立ち上がり私の横に来ると、跪いて私を見上げた。その顔には、期待と不安とが入り交じる。じっと私を見上げるその顔を見つめ、レンナルトの髪を撫でた。少しくせ毛の、柔らかい金色の髪。
 こうすることも、できなくなる。
 そう思うと、もっと早くこの気持ちに名前をつけて伝えればよかったと、後悔が押し寄せて、苦しくて仕方ない。

「……わたし、私ね」
「うん」

 手の甲で涙を拭う。拭っても拭っても、涙が溢れて止まらない。
 レンナルトは黙って私の言葉を待つ。

「い……、一緒に、いられないことが……、辛い、わ」

 喉の奥から絞り出すように本音を零すと、レンナルトが大きな手のひらで私の後頭部を掴み、下から噛みつくような口付けをした。

「……んんっ」

 椅子からずり落ち、レンナルトに覆い被さるように肩に手を乗せると、レンナルトは私の腰に腕を回しぎゅうっと強く抱き締めた。
 強くしがみつきレンナルトの唇に噛みつく。激しく唇を食み合い、分厚い舌がぬるりと顎や唇を舐め、その舌に吸い付き擦り合わせた。
 私の隊服を握り締めるように強く掴み、これ以上ないほど身体を強く合わせ、貪るように互いの唇を合わせる。
 どちらともなく息苦しさに唇を離すと、銀色の糸が互いを結ぶ。 

「……わかってる」

 はあっと熱い息を吐いてレンナルトが強い瞳で私の顔を覗き込んだ。大きな掌が私の顔を挟むように包み込み、親指で頬を濡らす涙を拭った。

「俺も、ずっと一緒にいたいよ、ゾーイ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~

双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。 なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。 ※小説家になろうでも掲載中。 ※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。

カラダからはじめる溺愛結婚~婚約破棄されたら極上スパダリに捕まりました~

結祈みのり
恋愛
結婚間近の婚約者から、突然婚約破棄された二十八歳の美弦。略奪女には生き方を全否定されるし、会社ではあることないこと噂されるしで、女としての自尊心はボロボロ。自棄になった美弦は、酔った勢いで会ったばかりの男性と結婚の約束をしてしまう。ところが翌朝、彼が自社の御曹司・御影恭平と気がついて!? 一気に青くなる美弦だけれど、これは利害の一致による契約と説明されて結婚を了承する。しかし「俺は紙切れ上だけの結婚をするつもりはないよ」と、溺れるほどの優しさと淫らな雄の激しさで、彼は美弦の心と体を甘く満たしていき――。紳士な肉食スパダリに愛され尽くす、極甘新婚生活!

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~

イシュタル
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。 王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。 そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。 これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。 ⚠️本作はAIとの共同製作です。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...