【完結】夢見る転生令嬢は前世の彼に恋をする

かほなみり

文字の大きさ
11 / 40

ユフィール8

しおりを挟む

 ――ユフィール嬢

 今回は、卒業式に参加してほしいという僕の我がままのためにお呼び立てして、申し訳ありません。
 馬車での移動は大変だったことと思います。
 体調はいかがですか? 何か不自由はしていないでしょうか。部屋は快適ですか? 不足しているものはありませんか?
 もし何か困ったことや辛いことがあったら、どうか遠慮せず言ってください。
 
 領地から離れ、一人寂しく過ごされていないか心配しています。無理をさせてしまったことを、とても申し訳なく思っています。
 けれど、やっとあなたに会えるのだと思うと、嬉しくてたまらない自分がいます。本当は今すぐにでもあなたの元へ駆けつけたい。そんな気持ちを抑えるのに、とても苦労しています。
 卒業後は近衛騎士隊に入隊することが決まっていますが、少しの間お休みをいただけることになっています。そうしたら二人で、あなたの行きたいところに出かけませんか。
 王都を二人で散策するのも楽しそうです。
 本屋や図書館、美術館、歴史博物館。それらをたくさん見て回り、二人でレストランで食事をしたり、花が美しく咲き誇る湖畔の別荘に出かけて、馬で遠乗りをしたり。
 あなたと共にしたいことをして、たくさん話をしたいと思っています。七年という年月を、開いてしまった距離を、あなたと過ごし、早く満たしたい。
 これまで手紙で書き切れなかった気持ちを、早くあなたに伝えたい。
 そしてお会いした時に、昔二人で交わした約束を果たしたい、そんなことばかり考えています。
 どうかもう少し、僕の我がままにお付き合いください。
 
 ユフィール、あなたに会えることを心から楽しみにしています。

 アレク

 * * *
 
 ――美しい文字で書かれた手紙を読み終え、バタンとベッドへ仰向けに倒れ込む。手にしていた白い便箋を、胸の前で抱きしめ大きく息を吐きだした。
 
 食事から戻り部屋で寝支度をしていると、家令のハンスが手紙を届けてくれた。受け取ったそれは、サーシャ様の部屋にあったというアレク様からの手紙。開封はされておらず、私は受け取るとアナに下がるよう伝えて一人、ベッドで読んだのだけれど。

(これじゃあ、ラブレターみたいだわ……)

 顔が熱い。
 なんだか恥ずかしくて、気持ちがむずむずする。

 アレク様は今までの手紙で、こんな風に甘い文章を書いたことは一度もなかった。
 確かに会いたいと思うことは何度かあったし、お互いに早く会えるといいですね、というようなニュアンスでやり取りをしたこともあるけれど、これは恋焦がれる相手に出すような文面だ。誰かに書いてもらったのかとも思ったけれど、筆跡はアレク様のもの。それに彼は、そんなことはしないだろう。

(一体どうしてこんなに私に会いたいと思うのかしら)

 一度だけ会った婚約者と手紙のやり取りをしているだけなのに、なぜこんなに会いたいと思ってくれるのか。

 ――お会いした時に、昔二人で交わした約束を果たしたい
 
 手紙に書かれた文字をもう一度追う。そこからジワリと熱が放たれているような気がして、また顔が熱くなった。
 
『僕が……僕が成人したら、必ずお話します』

 そう言っていたあの美しい顔をした少年。
 アレク様も婚約式のことを覚えているということだろう。それは純粋に嬉しかった。

(この手紙へのお返事は、明日にしよう)

 とてもじゃないが、こんなのぼせたような状態では何を書いていいのかわからない。一晩寝たら落ち着くのを期待しよう。
 手紙をベッド脇のチェストにしまおうと起き上がり引き出しを開けると、中にある深緑色の本が目に飛び込んできた。心臓がドキリとひとつ鳴る。

(あ、ダメ。こんなむずむずする気持ちではとてもじゃないけど読めないわ!)

 恋愛小説であり、官能的な場面も描かれているこの本は、とても文章が美しいもので、とても読み応えがあった。
 心が強くまっすぐなヒロインと、そのしなやかさに溺れるように恋に落ちるヒーローの身分を超えた純愛物語は、王都の女性たちを熱狂させているという。
 それとなく最近流行している本についてアナに尋ねたところ、彼女もこの小説の存在を知っていてとても興味を持っていた。

(持っているなんて、やっぱり恥ずかしくて言えないわ)

 騎士であるヒーローが情熱的な言葉でヒロインに愛を伝え、やっと通じ合った思いを確かめ合うように互いの口付けに溺れていく場面は思わず薄目になってしまったほどだ。
 直視できない! 素敵な場面になればなるほど赤裸々に描かれる二人の愛し合う姿に、とてもじゃないけれど平常心では読めないのだ。

(前世では平気で読んでいたはずだけれど、一体どんな気持ちで読んでいたのかしら! 何も感じなかった? ううん、絶対ドキドキしていたはず)
 
 閨教育があるとはいえ、前世の世界ほど開放的ではない今の世界では、平気なふりをして読めるほど当たり前のものではない。
 ドキドキを求めて、切なさや胸がきゅんとする物語を求めてこう言った本を読むのだろうし、前世もそうしていたはずだけれど、今の私ではなかなかに向き合うのが難しい。
 物語はとても気になるけれど、本を読むのも明日以降にしよう。
 私はひとつ大きなため息をつくと、本と共に手紙も引き出しへしまい、鍵をかけてベッドへ潜り込んだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜

織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。 侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。 学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました

ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」 政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。 妻カレンの反応は—— 「それ、契約不履行ですよね?」 「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」 泣き落としは通じない。 そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。 逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。 これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。

誰も愛してくれないと言ったのは、あなたでしょう?〜冷徹家臣と偽りの妻契約〜

山田空
恋愛
王国有数の名家に生まれたエルナは、 幼い頃から“家の役目”を果たすためだけに生きてきた。 父に褒められたことは一度もなく、 婚約者には「君に愛情などない」と言われ、 社交界では「冷たい令嬢」と噂され続けた。 ——ある夜。 唯一の味方だった侍女が「あなたのせいで」と呟いて去っていく。 心が折れかけていたその時、 父の側近であり冷徹で有名な青年・レオンが 淡々と告げた。 「エルナ様、家を出ましょう。  あなたはもう、これ以上傷つく必要がない」 突然の“駆け落ち”に見える提案。 だがその実態は—— 『他家からの縁談に対抗するための“偽装夫婦契約”。 期間は一年、互いに干渉しないこと』 はずだった。 しかし共に暮らし始めてすぐ、 レオンの態度は“契約の冷たさ”とは程遠くなる。 「……触れていいですか」 「無理をしないで。泣きたいなら泣きなさい」 「あなたを愛さないなど、できるはずがない」 彼の優しさは偽りか、それとも——。 一年後、契約の終わりが迫る頃、 エルナの前に姿を見せたのは かつて彼女を切り捨てた婚約者だった。 「戻ってきてくれ。  本当に愛していたのは……君だ」 愛を知らずに生きてきた令嬢が人生で初めて“選ぶ”物語。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

処理中です...