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二日目 朝のカフェテラスとパンケーキ2
しおりを挟む「美味しい……!」
「よかった!」
人気のカフェは諦めて、マリウスに促されるまま近くにある違うカフェへ向かった。
キラキラと可愛らしい先ほどのカフェとは違い、落ち着いた佇まいのここの売りはパンケーキだと言う。マリウスの勧めるままにそれを頼めば、いい笑顔の店主がいい香りの紅茶とパンケーキを用意してくれた。
「とてもふわふわなのにもっちりしてるわ。このバターが甘くて美味しいわね!」
私の頼んだものは甘くふわふわのバターと果物やナッツが添えられたデザートのようなパンケーキ。マリウスはウィンナーやポーチドエッグ、サラダが添えられたしっかりとしたパンケーキだ。添えられたポタージュもとても美味しい。
「そっちも美味しそうね。明日も来ようかしら」
「よかった、お気に召していただけて嬉しいです。この後は何かご予定が?」
「ええ、以前から約束していた人たちと商談があるの」
「商談! 凄いですね」
「せっかく来たんだもの、たくさんの人に品を知ってもらいたいから」
「それじゃあ、せっかくの王都で何か楽しみは決めていないんですか?」
「楽しみ……」
考えてみれば晩餐会などは出席予定だけれど、日中の予定は特に入れていない。この期間は王都全体がお祭りなので、あちこち見て回ろうと漠然としか考えていなかった。
「この期間は演劇や舞台の鑑賞も出来ますし、画廊も力を入れて展覧会を開いていますよ。王立図書館や美術館なんかも開放されていて見応えがあります」
「美術館は興味あるわ! 王都をぶらぶら歩いてみようかしら。ここに来るまでも、気になるお店もあったから」
「では明日は僕が案内しますよ」
「え?」
目の前で陽の光を浴び金髪をキラキラ煌めかせたマーロウ、もといマリウスが、にこにこと笑顔であっという間にパンケーキを平らげながらそんな事を言う。
昨日は分からなかったけれど、マリウスの瞳は薄い湖のような瞳をしている。絵本に出てくる王子様のような甘いマスクに人懐こい笑顔で、ご令嬢方に人気なのはよく分かる。つまり、かなり顔がいい。
「おいしいカフェやレストランも知っていますし、王都のことはよく知っていますから」
「そうかもしれないけれど、でも貴方にも用事があるでしょう」
一緒に食事をして確信したけれど、マリウスは貴族だ。
目の前で美しく食べるその所作は、早く食べることに目が行きがちだけれどとても美しい。家名を聞いてもピンとこないのは私が貴族名鑑を暗記などしていないからだけれど、貴族であるのなら、この期間に暇を持て余すはずがない。
「用事と言うか、今夜の晩餐会は僕も出席するんです」
「やっぱり。ごめんなさい、昨日名前を伺ったのに存じ上げなくて」
「いえ! あの、違うんです、騎士の時は母方の姓を名乗るので、ご存じないのも当然ですから」
もごもごと紅茶を飲みながら、マリウスは言いにくそうに視線を彷徨わせた。
「どういうこと?」
「あの、えっとですね……、僕はマリウス・ハインリヒ・フォン・ビューロウ=カイネルとして、今夜の晩餐会に出席します」
「カイネル……カイネル? もしかして、カイネル伯爵のカイネル?」
「……はい」
「……っ、な」
カイネル伯爵家と言えば王家の盾と呼ばれるほど有名な武の一門だ。歴代当主は陛下直属の近衛騎士隊長として王家に仕える、田舎の男爵の娘でさえ知っているほど有名な家門。
――そうだ、マリウスも昨日名乗っていた。この若さで『副長』と。
「……マーロウ……」
「え?」
「なんでもないわ」
思わず頭を抱えてしまう。
私なんかがこんな風に話すような相手ではない、高位貴族じゃない!
黙っているとマリウスが気まずそうに話し出した。
「あの、アメリア嬢、僕は三男なので。家督は継がないですし、自分の力で功績を上げて生きて行かねばならない立場ですから、実家が何であれ関係ないんです」
「……貴方が自分の力でその立場まで昇り詰めたのは、とても素晴らしいと思うわ」
「ありがとうございます。普段は決して家名は名乗らないんですけど、でも今回は」
マリウスはきれいになった皿の上にカトラリーを置いて姿勢を正した。
「今夜の舞踏会に、僕をパートナーとしてご一緒させていただけませんか」
「……え?」
「僕はこれでも顔が広い方だと思うんです。ご一緒できればアメリア嬢に友人を紹介できますし、お仕事のお手伝いができると思って」
それはとても有難い申し出だわ。知り合いのいないこの土地で、闇雲に人に声を掛けるより、知人を通して紹介してもらった方が遥かに動きやすい。しかも高位貴族。彼を通せば私の怪しさも薄まるだろうし。
でも。
「……どうして?」
「え?」
「どうしてそんなに親切にしてくれるの? 昨夜会ったばかりなのに」
テラスで一人でいたのを声を掛けられ、コンサバトリーでちょっとしたハプニングがあった。ただそれだけなのに。
マリウスはそっと視線をお皿に落とし、少しだけ目元を赤く染めた。
ああ、頭に金色の耳が見える気がする。
「昨日、僕のせいで靴を駄目にしてしまったお詫びもありますし……、それに、貴女があんまり美味しそうに食べてらしたので、また貴女と食事が出来たらいいなと思っていたんです」
そう言って笑うマリウスの笑顔は日の光で輝いて、やっぱり私にはマーロウにしか見えないのだった。
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