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同担と眼鏡について
しおりを挟む「カタリーナ様、こっちこっち~」
翌日、昨日待ち合わせた騎士団鍛錬場の外にある木の下で待っていると、約束とおりカタリーナ様がお一人でやって来た。ちゃんと平民風の服を着ている。上質なものだと思うけど。質素なボンネットをかぶり、顔を隠しているつもりのようだ。
「ちょっと!」
カタリーナ様は慌てて私に駆け寄ってくると腕をグイっと引っ張って顔を寄せてきた。
うわあ、すごくいい匂いがする。
「カタリーナって呼ばないでちょうだい! こんな姿で私だとバレたらどうするつもり!?」
「こんなって。十分綺麗ですよ。綺麗すぎて平民には見えないですね」
「当たり前じゃない! 私を誰だと思ってるの!?」
「あ、お名前呼んじゃだめなら何て呼びます?」
「……貴女、人の話聞いてる?」
「聞いてますよ。名前呼んじゃダメなんでしょう?」
「……」
カタリーナ様は思いっきり眉根を寄せて私を見つめると、額に指をあてて頭を振った。
「……メグでいいわ」
「メグ」
「私の乳母の名前よ」
「分かりました、それじゃ行きましょう、メグ!」
「受け入れるの早いわね」
「あ、これちょっと重いんですけど持ってくれます?」
「これは? 凄くおいしそうな匂いがするわね」
「騎士団の差し入れです。一緒に持って入れば怪しまれないでしょ?」
「……私が荷物持ちをするなんて……」
「ちゃんとメグの分もありますから!」
カタリーナ様、じゃなくてメグの腕を引いて私は騎士団の入口へ向かう。
今日も入口にはイヴァンさま目当ての女性が集まっていて、籠を持つ私の姿に気が付いた何人かが睨みつけてきた。これはいつもの事。普通に出入りしている私が面白くないらしい。
「こんにちは~」
「やあ、ユイ! 今日は一人じゃないんだな」
「ちょっと差し入れが多いから手伝ってもらったの。ライも知ってますよ」
「そうか! 今日もいい匂いだなぁ」
「ミートパイをたくさん焼いてきたの。詰め所に置いてくから食べてね」
「いつも悪いな! ちゃんと俺の分も残すように言っといてくれよ!」
「はーい」
衛兵といつものように言葉を交わし、門をくぐる。前庭を進み詰所の玄関に入り慣れた廊下を進む間に、知り合いの騎士たちと言葉を交わしていると、メグが後ろから声をかけてきた。
「ちょっと貴女、随分騎士の方たちと馴れ馴れしいわね!?」
「あ、みんなうちの店のお客さんなんですよ。この差し入れはまあ店の宣伝って言うか」
「い、イヴァン様も食べられるのかしら!?」
「差し入れとかは食べないらしいですよ。ていうか私、ホントに近くでお見かけしたことないので」
「そ、そうなのね……」
「もう! 私たちの目的を忘れないでくださいね! イヴァンさまに寄ってくる悪い虫を追い払うんでしょう!?」
「そ、そうよ、勿論分かってるわよ!」
心なしかがっかりしている様子のメグをじとりと睨むと、頬を赤らめ、むきになって否定した。かわいいなあ。
「そんな事よりメグ、やっぱり凄く目立ってますね」
「私が? こんなに貧相な格好をしているというのに」
「いやいやいや、めちゃくちゃ目立ってますって。ボンネットかぶってても綺麗ですもん」
「まあ確かに、この程度では私の美しさは隠しきれないわよね」
「ん~、凄く目の保養になるんですけど、あんまり目立つと私たちの任務遂行の邪魔になりますよ」
「任務」
「あ、じゃあこの眼鏡かけてみてください。ほら、大きいし顔隠せますから」
「ちょ、ちょっとそんなダサいのは嫌よ!」
「このくらいダサくないと目立つんですって!」
眼鏡を取ってメグにかけさせようとすると、身を捩って逃げられる。令嬢と言いつつ中々の身のこなしだ。
二人で廊下で押し問答を繰り返していると、眼鏡が手から滑り落ちてしまった。
「あっ!」
メグが小さな声を上げた。
ぼんやりした視界で床に落ちた眼鏡を拾い確認すると、眼鏡のふちにヒビが入ってしまっている。ふちを指でつつくと、ぱきっと音を立てた。
「あら~。これじゃあ掛けられないですね」
「ご、ごめんなさい! 私……」
メグが私の手の中の眼鏡を見て青い顔をした。多分。何この人、ホントにかわいいなあ。
「大丈夫ですよ。よく割れちゃうんですよね」
「でも」
「私の眼鏡ってレンズが厚くて、重みで落としたりしちゃうんですよ。今回はレンズが無事だから大丈夫! 町の眼鏡屋に持っていけばすぐに直してもらえますから」
「そ、それじゃあ私が弁償するわ」
「え、別に大丈夫ですよ、私が悪いんだし」
「駄目よ! 美しい私のせいでもあるんだから」
「そう……なのかな?」
「そうよ! 貴女の眼鏡くらいすぐに直すし、そんなに良く壊すって言うなら予備の眼鏡も作ってあげるわよ!」
「え、それはいらないですよ!」
「今日のお礼よ。いいから黙って受け取りなさい」
「ありがとうございます!」
「受け入れるの早いわね!?」
メグはぶつぶつ何事か呟きながら、小さな鞄から刺繍が施されたハンカチを取り出し、私の眼鏡を包んでくれた。
「また落としては危ないから、これは預かるわ。……どのくらい見えないの?」
メグは私の顔の前で手を振った。
「んー、と、この程度の距離なら顔は分かりますけどぼんやりしてます。知り合いなら間違えないですね。でも足元とかよく分からなくて躓いたりするかな」
「危ないじゃないの!」
「そうなんですよね、だからメグ、私と手を繋いでくれます?」
「は?」
「だって危ないでしょう」
「だったら腕を掴む程度にしてちょうだい! 手なんて繋がないわよ!」
メグはぷいっと顔を逸らすと、私に向かって腕を差し出した。頬が赤い。何それかわいい!
「それから貴女ね、自分の姿分かってる?」
「なんです?」
「貴女……髪型もう少しまともな結い方をしなさいよ。何よその年寄りみたいなひっつめただけの髪は」
「えー、これが楽なんですよ。料理する時だってこの上に三角巾で覆えば全部隠れるし」
「私の隣を歩くならもっとまともな格好をなさい! せっかくの綺麗な亜麻色の髪が台無しだわ!」
「メグのブロンドの方が綺麗ですよ」
「知ってるわよ!」
「ユイ?」
廊下でメグと腕を組みながら話していると、怪訝な声で呼び止められた。
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