【完結】私の推しはしなやかな筋肉の美しいイケメンなので、ムキムキマッチョには興味ありません!

かほなみり

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昨日会ったばかりなのに

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「ライ!」
「何してるんだお前……眼鏡は?」

 ぼんやりとしていても、その体の大きさと声でライだと分かる。

「あは、落としちゃって」
「はあ? 危ないだろ、何してんだ」
「あのね! こちら私のお友達のメグ。メグ、この人が私の幼馴染のライ」

 ライのお説教が始まりそうだったので言葉を遮りメグを紹介する。ライはすぐにメグに向き合い、腰を曲げて騎士の挨拶をした。

「ライです。ユイからお話は伺っています」
「か……メグよ」
「ユイがご迷惑をかけているようでお詫びを。お手を煩わせてしまい申し訳ありません」
「この程度なら問題ないわ」
「この程度」
「寛大なお心に感謝します、レディ」
「この程度って何ですかメグ」

 ライは胸に手を当てふわりと微笑み、挨拶をした。田舎とは言え、男爵家の次男であるライはこういう振舞いがとても上手い。身体が大きくて威圧感があるけれど、こうして口を開くと柔らかく人当たりがいいのだ。
 私以外には。
 
「え!? ユイちゃん?」

 ライの後ろからこれも聞き覚えのある声が。

「あ、アデルさん、こんにちは!」
「なになに、眼鏡どうしたの?」
「壊れちゃって」
「なんだよ、凄くかわいいじゃん! かわいい!」

 人懐っこく声を掛けてくるアデルさんはライの先輩騎士でお店の常連さん。いつもお店で私の作った料理を褒めてくれる人だ。
 ライの前で眼鏡が壊れたことを蒸し返さないで欲しい。

「あはは、ありがとうございます~」
「いやいや、お世辞じゃなくてさ、ホントに!」
「でも見えないんですよ。眼鏡がないと」
「よし、俺がユイちゃんの目になってあげよう」
「アデル」

 地響きのような低い声でライがアデルさんを諫めるように制した。アデルさんはそんなライにニヤニヤと笑いを含んだ顔を向ける。

「なんだよ、牽制?」
「……レディにご挨拶は」
「おっと、これは失礼! ご挨拶が遅れて申し訳ありません、レディ。私はアデル。アデル・グ……」

 アデルさんはメグに向き直り胸に手を当てて腰を折ったところで、不自然に言葉を区切った。目を真ん丸に見開いてメグを凝視している。

「……カタリーナ?」
「メグよ」

 メグはものすごく不機嫌な声でアデルさんを睨みつけた。

「お知り合いですか?」
「違うわ」「そうだよ」
「……どっちですか」

 はははっとアデルさんは楽しそうに笑い声をあげた。メグはむっつりと口を尖らせぷいっと顔を逸らした。

「もう帰りましょう、ユイ」
「え? あの、籠を届けないと……」
「私が持ちましょう」

 ライが手を差し出すと、メグはにっこりと笑い籠を渡した。

「ありがとう。お優しいのね」
「いえ。我々が戴くものですし」
「あ、じゃあ俺はユイちゃんの籠を持ってあげるよ」
「それも俺が持つ」
「んじゃ、ユイちゃんの手は俺が繋いであげようか」
「それは私がするから結構よ」
「あの……」
「では、その籠はお任せいたしますので、私たちはこれで失礼するわ」
「え? 待ってメグ、鍛錬場は……」
「今日はお店が忙しいのでしょう。もう帰りましょう」
「ユイ」

 ライが慌てたように声を上げた。ぼんやりした視界でも、私にはライがどんな表情か分かる。

「うん?」
「……今日は店に行くから」
「あ、うん分かった。待ってるね」
「……早く帰れ」
「はーい」

 メグはもう一度ライにだけ一つ頷き、いつまでもニヤニヤ笑っているアデルさんを睨みつけると、私の手を取り歩き出してしまったのだった。



「どうしたんですか? メグ」

 騎士団の詰め所を出て門をくぐる。
 すぐに出てきた私たちに不思議そうな顔を向ける衛兵と挨拶をして、近くにある公園のベンチに腰掛けた。

「どうもしないわ」
「イヴァンさまを守る会は?」
「ちょっと今日は気分じゃないだけよ」
「そうですか。じゃあまた今度にしましょう」
「……貴女って」
「なんです?」

 隣に腰掛けるメグが私の顔をまじまじと見つめてくる。こんな綺麗な人にそんなに見られたらなんだか恥ずかしい。メグはふうっと息を吐きだすと、公園の噴水に視線を向けた。陽の光を浴びた水がキラキラと輝き、そばでは男女が肩を寄せ合って座っている。

「あの幼馴染って人。貴女の婚約者?」
「ふえっ!?」

 突然の言葉におかしな声が出た。

「そ、そんな訳ないじゃないですか!」
「そう? 婚約者は別な方なの?」
「婚約者なんていません! ライはただの幼馴染ですから!」
「素敵な方じゃない。騎士だしあの身体つきなら活躍もしてるでしょうし」
「素敵……」

 確かに、ライは昔からモテる。
 見た目とは反対に柔らかな物腰、丁寧な振る舞いが女性に好印象を持たせるらしい。
 初めは怖いと感じていた人間が、実は優しく物腰の柔らかな紳士だと知ると、一転、評価は高くなり乙女心が突然爆発するのだと友人が話していた。私にはよく分からないけど。

「確かに、ライは絶えず彼女がいる感じですけど」
「そうなの?」
「はい。来る者は拒まず、ですかね?」
「それは聞こえが悪いわね」
「とっかえひっかえってわけじゃないんでしょうけど、なんか常に女の人がそばにいるような」
「紹介されたりするの?」
「いいえ」
「……貴女……」

 またしてもメグが眉根を寄せて私を珍獣を見るような顔で見つめてきた。

「私、貴女のことは大体分かった気がするの。いえ、分かったわ」
「昨日会ったばかりなのに」
「まずは貴女の身なりを整えましょう。それから今日はお店を手伝えばいいわ」
「メグ、話が見えないです」

 メグは一人で納得すると片手をさっと上げた。すると間髪をいれずに公園の木の陰や茂みの中から見たことのない隊服を纏った騎士たちが現れた。公園の入り口には立派な馬車が横付けされ、黒いお仕着せの女性が馬車から降り立った。
 ごめんちょっと待って、この人たち誰?

「心配しないで、私の家の私兵よ。さあ行きましょう」
「どこへ!? ていうかメグって何者!?」
「もうメグでいいわ」

 メグは私を立ち上がらせると、見たことのない立派な馬車へ私を押し込んだ。

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