異世界で山家として生きる者。

hikumamikan

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第51話 そうだ桜を植えよう。

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ほのかで優しい薫風に絆された心が解放される様だ。
一寸不思議なのは梅の季節が私の記憶より暖かい。
もっと寒い記憶が有るが、そもそも私が梅花を愛でるのは、此が初めてなんだよね。
そう言えば山で見なかったな。
野生の梅って無いのかな。
ん~、山桜も見ないな?。
薔薇科は野生でプラムや桃を見るから、それ自体は有るのかな。

そう言えばチェリー食べたよ。
あれ?、見落としてた。
いやいや、いや魔物が跋扈した中でそんな花を愛でる気力は無いよ。
花を眺めて死んじゃったら、(花よりも我はまた)って辞世の句に成るやん。


花を眺めるなら安全な所だね。
「あっ、そうだアキュビューに桜を植えよう!」
「あら、桜って何かしら?」
しまった声に出てたよ。
「えっと、梅に似た花でもっと沢山咲いてて、散り際が凄く美しくて儚い花です」
「それは何故植えるの」
カトレアさんの次はメノーラさんが質問して来る。
「花見専門の木ですね。今から1本出して植えてみますね」
「「えっ、出すの?」」

既に書簡で伯爵様には、お酒の神様と時空神様の祠を、梅林の近くに置く許可を貰っている。

梅林の丘陵の東側に少し低く成っている所が有る。
一寸斜面だが土魔法で整地した。
小径を付け普通の祠より大きめの祠を置く。
コンクリートは景観的に不粋なので止めた。
祠の色も山吹色に萌黄色の迷彩をあしらい、周りの景観に同調させた。
「「凄いねレイナって」」
「いえいえ少し前に造ってたおいたので」
「「・・・何、それ」」
「あっ、ああ・・・桜植えますね」
土魔法で穴を掘り3メートルに成長した苗をインスタント五回掛けで植えた。
ついでに水魔法で散水する。

『『よし、わしが成長を促す加護を授けよう』では私はこの木だけ時間を一寸早めましょう』

「なっ、何これ!」
「レイナ・・・花が咲き始めたよ。何で?」
「ほっ祠の神様が一寸悪戯を」

「「・・・。まあ良いとして、綺麗ね」」
いきなり満開で花吹雪とか・・・。
まあ神様だからね。
「えっと・・・これが桜です」
「梅の様な香りは無いけど、この花びらが散り行く様は綺麗ね。香りは少し青臭いかしら、でも割りと良い香り」
「まあ香りは梅の方が上ですが、花の美しさはこちらですね」
「成る程これをアキュビューに植える訳ね」
「これは見に行かないとね。何本ぐらい植えるの?」
「え~と、せっ千本ぐらいかな?」
千本桜って何か格好いいから言ってみた。
「「あんた、そんな事したら魔力切れで一週間くらい寝込むわよ」」
「だっ大丈夫ですよ」
「「そんなわけ無いでしょ」数回に分けてしなさい」
いやあ祠を20個くらいインスタントで造った時も大丈夫だったし。
多分大丈夫、多分。


しかし私は魔力切れが怖いのでインスタント5回がけの染井吉野を、アキュビューに行くまでの間に1日百本アイテム袋に貯め始めた。


そう言えば花よりも我は・・・って誰の歌だっけ?。
「浅野内匠頭だよ」
「たくみ君」
「・・・まあそうだね内匠君だね」
そんなに春が待ち遠しかったのね。
「春は春でも天皇の時代って意味でね」
「天皇?」
「知らなくていい事だけど、彼は山鹿流の信念を家臣を犠牲にしてまで貫いたからね」
「家臣って、彼は貴族か何か?」
「領主だけど貴族では無いよ」
「家臣を犠牲って?」
「改易で当人は切腹って死刑ね」
「何故そんな事したの?」
「天皇の勅使の扱いについてだね。天皇ってこの国で言えば国王だ。だけどこの時はその臣下の一族が政治を実効支配してたんだよ。だから外国の使いが来たらその支配者を立てて勅使が下座に座る。けど浅野家は天皇の臣下を重視してそれに異議を申し立てた。そこで接待指南役とトラブルに成って斬り付けたから死刑に成った。これはわざと異議を申す為に浅野内匠頭が行ったんだね。それから百年後かな・・・勅使の立場を上に置く改善がされたよ」
「国って面倒だね」
「だよね」


どうやらレイナには忠臣蔵の記憶は無いみたいだけど、断片的に色々な記憶が有るのでいつか話さないと。

「今日は私どもの魔導車で夜営したいと思いますが、女性の方々は大丈夫ですか?」
「「「私は大丈夫」うちも」私もトイレは祠に設置したし」
「「「「「「「えっ」」」」」」」
「あの二人の神様の祠にトイレ設置したよ・・・」
「「「「「「「ナイスJob」」」」」」」


モーリスさんは祠の近くに豚さんマイクロを移動してくれた。
これで夜中にもよおしても大丈夫。
いやいや、そんな歳じゃ無いよ。
「はあ夜中に行きたく成るから助かるなあ」
ゴドルフさん・・・。
「いやあ本当に」
モーリスさんも。
「親父や護衛の人も今日は少しワインを飲んでたからね」
「あ~そう言えば」
「レイナちゃんはもっと強いの飲んでたよね」
「えっ見てたの?」
「随分お酒強いね」
「そりゃ仕事で無い時は毎日ブランデー飲んでるからね」
「キィー!」
「あはは」
ううう、クルト君にバレてしまった、南無三。


後にこのトイレ事情が大事件の発覚に繋がるなんて思いもしなかった。


「ねえキィ・・・私の頭の中の記憶が変なのだけど、もしかして何か知ってる」
「やっとだね」
「やっと?」
「そう、やっと。・・・その事についてはアキュビューに桜を植え終わってから話そうか」
「やっぱり何か知ってたんだ」
「イシタント様も呼んで話さないといけないからね。ゆっくりとね」



ゴドルフさんとモーリスさんは揃って夜中に祠に用を足しに行った。
「ふう~未だ寒いですなゴドルフさん」
「そうですね。こう寒いと近くて敵いません」
「もっとも・・・んっ」
「いやあー止めて!。お願い止めて」
「「悲鳴ですね」あっちからみたいです」
二人は急いで向かったそうだ。

二人が向かった前では若いレイナぐらいの女性が男にのし掛かられ。
だが既に男は本懐を遂げたようで、モーリスさんの光魔法でその惨劇の様子は見て取れた。
女性は下着を剥ぎ取られ出血と男の体液がそこには見えた。
夜中に用足しか何かで出た所を手篭めにされたのだろう。
二人はあわてて男を取り押さえたが、その時こちらに走って来る数人の人間が見える。

「エルザー!、何があった」
どうやら悲鳴は彼等にも聞こえていた様だ。

この異変は私や他の冒険者やクルト君にも解り、直ぐに数人の人だかりに成った。
駆けつけた私は事態を悟り直ぐに血を拭うコットンや下着と上着を、彼女の体型を見てインスタント5回がけで出した。
私やゴドルフさん達で蓙を盾にして彼女に着替えて貰った。


そこへ駆けつけた例の侯爵の一行は事態を呑み込むと男を縛り上げた。
この女性は侯爵の息子である18位の男性の、妹だと見て取れた。
可愛そうな事だ。


「こやつ・・・ギンバスか」
そう言うと侯爵の息子は剣を抜いた。
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