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第52話 花筏の妖精。

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話しは戻って、多分桜は満開。
散る前に見に行きたかったので、モーリスさん達から2日開けてアキュビューに向かった。


ムスクナとジュンベルグの間に整備された街道が作られ、アキュビュー村は予想以上の賑わいを見せていた。

駅(この場合馬車を停めて管理して貰う所。または町や村の区間馬車の停留所)に着くと整理券を渡され順番を待った。
「あわわ・・・すっすいませんレイナ様」
「べっ別にそんな大丈夫ですよ」
「バカヤロー!、この方がレイナ様だ。良く覚えとけ」
この駅の管理者は私の顔を見知っていて、本来特別に優先場所に停められる私の豚さん車に整理券を出した事を怒っていた。
「私の豚さん車はアイテム袋に収納出来るので大丈夫ですから」
「それも有りますがレイナ様は特別優先入村扱いの方です」

もう何を言っても始まらなさそうなので、素直に有難うと言って中に入れて貰い、豚さん車を収納して村内を散策した。

凄い人だ。
どうやら桜が咲き始めてから、噂が広まりジュンベルグやムスクナから人が殺到したみたい。
満開で散り際の今日か明日辺りは大変そうだね。
しばらく行くと空き地はテントだらけだった。
あ~来年は何かしら対処が必要かな、だってここ家の建設予定地だから。
まあそこは村長と言うか代官さんに任せたよ。
ひょっとしたら整地の要請が来るかも知れないけど。

いやあ~神様の仕事凄いわ。
見事な花吹雪。
一寸風が吹く度に幻想的な花吹雪。
蓙を敷いて飲食しながら花を愛でる人々。
中には唄い踊る人。
竪琴で謡を披露する吟遊詩人。
ん、あの曲はプルトップの教会に置いた石像の自鳴琴の・・・。
いやいや謡曲だと斬新やん。
様々な花見の楽しみ方が有るね。

わあ~、これは更に幻想的。
泉の周りと桜。
水面に写る桜。
そこに花筏が加わり、それが小川に流れて行くと、たまゆら如く時の流れに川面の揺らめきと、宙に浮く木漏れ日の反射が妖精の様に光る。
まさにこれぞ絶景。
ブエナビスタ~。

本当に花筏の上に乗る妖精が見えた。
そんな幻すら覚える。

村を出て新しく普請の続く山道を登って行く。
流石に村一つ行った所で新街道は止まっていた。
村の上を見ると途中から道普請人足達が働いている姿が目に映る。
ご苦労様と声を掛けて、現場監督者に具材の豊富な(山賊)さんのおにぎりと、色々なお酒やつまみ各種を渡して、上の山道を行かせて貰った。

私は山家だ。
実はこの道を脇に入ると私の家に早く帰れるのだ。
と言っても歩きなので下の主街道と殆ど時間は同じで、魔物の危険性を考えたら冒険者や山家しか使わない。

う~ん久々の魔物探知に警戒フル活動。
こんな近くに居るものだね。
オークにウルフ。
あっ、ビッグレッド一体発見!。
オーク三体は個々にひっそりと近づきショートソードで首を掻いた。
「お肉ゲット」
小声で呟く。
ウルフ十匹はインスタント作り置きの眠り薬で黙らせる。
殺さないのは低ランク冒険者の獲物だから。
オークは時と場合によるのは、武器を扱えるものや魔法を使うものまでいるから。
索敵が出来ないと低ランクでは危ない事も有る。

さて、いたね熊さんの強魔物。
私はそっとインスタントで大量の熱湯を、ビッグレッド(赤毛大熊)の上から豪雨の感じで降らせた。
「すまん、その毛皮が欲しいねん」
苦しみながら死ぬが本当にすまん。


「おっビッグレッドだな。外傷ねえな。どうやって倒した嬢ちゃん」
「それは内緒」
「これ・・・熱湯で煮殺したな」
「何で分かるの?」
「いやいや火でもなけりゃ電撃でもねえ、外傷無いから風でもねえ、溺死なら肺から水が出るしそれでもねえ、油は皮が縮んでまうし・・・残るは恐ろしいが熱湯ぐらいしか思い付かねえ」
「電撃を弱めで撃つとか」
「電撃をお嬢ちゃんは強弱制御出来るのか?」
「あっ・・・一応」
「そいつはすげえな、流石キュプロスレイナだけの事は有るが、そもそも電撃を道具を使わず目標に当てるなど無理だ。投擲物の跡もねえしな」
「電撃は光チューブに包んで当てられるよ・・・あっ!」
「・・・マジか。あ~でも今のは内緒な。聞かなかった事にする。でも電撃の焼け焦げもねえ。有るのは少しの水濡れと体温以上の温もりだ。考えたら熱湯しかねえだろ」
「凄いね、解体の人は皆そうなの」
「大体はな。てかこんな殺し方出来る奴は数えるくらいしか居ねえぞ」
「あはは」
ニューラのギルドの解体のおっちゃんは何気に凄い。
流石元高ランク冒険者。

この熊の魔物の毛革は品質が高く防寒防水に適しているし、対刺針刃物用の皮鎧としても重宝される。
だけど値段は高く低ランク冒険者には買えない。
それは世の中の仕組みとして仕方の無いが、傷付けないで卸す事で安くなれば良いと思っている。
「・・・・・・」
「どしたい嬢ちゃん?」
「インスタント5回がけ!」
バサッ。
「へっ?、何だこりゃ」
「プロテクタって名前の防具」
「はっ?・・・」
「こうして、こうして、こうやって着るの」
私はベスト型のプロテクターを装備して見せた。
「ああ・・・ベストか」
「そうベストな防具」
「・・・何だそりゃ」

「おっちゃんそこの剣でこのベスト刺してみて」
「馬鹿な事言うなよ、刃がついてんぞこの剣」
「だから良いのよ」
「もしかしてそれ、鎧か」
「鎧ほど完璧じゃ無いけど、レイピアやその剣の刃ぐらいなら大丈夫よ」
「本当に」
「本当にだよ」

おじさんはおもむろに剣を取り私のベストに軽く突き当てた。
「う~ん、もっと強く突いてくれないかな」
「もっとか、もっとだな」
そう言って先程より少し強めに突いた。
「あっあ~ん」
「・・・大人をからかうなあぁ~」
「いやだって真剣にしないから。お願い、もっともっと強くう~」
バシッ!。
剣の腹で頭をしばかれた。
「いったあ~」
「じゃあ、行くぞ。強くだな」
ドスッ。
「うっ!」
「だっ大丈夫か?」
「へへ、ほら大丈夫」
「本当だな傷がねえ」
「これ売れるかな」
「無理だな」
「えっ」
「それはこの世の物じゃねえだろ。世に出すには危険すぎる。つまりお前が狙われる。その辺は自重しろ。軍用には持って来いだ。だから狙われる」
「分かりました。有難うねおじさん」
「ああ気を付けろ、子爵様からも言われている。お前さんの造り出す物は大小なり危険だとな」
「じゃあこれとか、これとかこれも」
「・・・汗・・・。この真珠のネックレスはまあギリギリ大丈夫かな。胡椒の小瓶もいけそうだな。これは完全にアウトだ」
そう言っておじさんは最後の瓶を奥にしまった。

「真珠のネックレスは大粒を真ん中に1個だけにして、後は金か銀の鎖にするか、連珠にしても大きさを変えろ、鑑定証明書が必要なネックレスは駄目だ。胡椒は個人では卸せないんだぞ、国の専売品には酒・塩・砂糖・胡椒等の香辛料それから金銀銅宝石が含まれる。だから金銀銅は鎖にすると加工品を買ったと思われるから大丈夫だ。さっきの酒はこの世界にはおそらく存在しないレベルの物だな。砂糖や塩は大量に出すことや売る事はするな、相場が乱れるしお上に睨まれる。そうだな兎も角も大量に出すのは止めろ。てか色々やらかしてるだがなお嬢ちゃんは」
「さっきのブランデーはおじさんにあげるからこっそり飲んでね」
「いいのか?」
「だって出しちゃったもの」
「これ普通の火酒と違うよな」
「凄いねそれインペリアルだよ。何で分かったの」
「何かな、出る時オーラが見えたからな」


この時レイナが出したSUN○ORYインペリアルは幻の酒で有る。
既に販売はされていない。
うん十年前で2・3万円の酒。
SUN○ORYの最高級のブランデーとウヰスキーなのだ。
オーラはいざ知らず、これが普通の火酒では無いと見抜いたこのおっさんは、相当の酒呑みだろう。

ただ既にレイナはヘネシーナポレオンを他の人に呑ませる暴挙をしてしまっている。


────────────────

ロイヤルは王室の、インペリアルは皇室のだから、インペリアルの方が言葉としては上位になる。

私は1度飲んだ事が有る。
値段に対して少し物足りない。
当時で2万円の代物だ。
今は販売していない。

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