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桂馬じゃ有るまいし。

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町の取ってた宿の部屋に一旦転送して貰い、宿の主人に引き払う事を告げ荷物を背負ってハンターギルドへ向かった。

「あっ、良かった。お三方いらしたんですね」
「「「おや崇くん」どした?」問題でも起きたか?」
「はい、一寸町を出ると言うか、その~」


「「「成る程」」」
「もう会えませんので、最期にお別れをと思いまして。直ぐに門を出てメスティアに帰艦します」
「そうか気を付けてな」
「寂しくなるな」
「頑張れよ」
「はいそれでは皆様もお元気で。急いでお暇しますね。ご免なさい」


町の門を出ると見えない所から直ぐにメスティアヘ帰艦した。

ソアは僕が帰艦すると操縦室へ連れて行ってくれた。


「えっ、僕が運転するの?」
「飛行体の軌道を逸らす時だけです。側まではメスティアのAIが自動運転しますよ」

「おおお、なんかフワフワする」
「固定力バランスを最初は取りにくいですが直ぐに慣れます」
「固定力?」
「まあ引力的なものですね」
「ああ・・・」

少しず今住んでいた星スバネティを離れだしたメスティア。
惑星スバネティが周回する恒星を大きく回り込むと幾つかの惑星も見えた。

しばらくその恒星から離れた位置に移動すると、スバネティに衝突するであろう飛行体が見える。
ただのでっかい岩石だ。
ただ、歪な楕円だが直径を言うなら数10キロメートルは有りそう。
小天体ってこんなんだ。
確かにスバネティが滅亡しそうだよね。

「はいゆっくりゆっくり」
音はしないが少し火花が見えた。
「無事に接岸しましたのでゆっくりこのまま恒星から離れるよう、そう、その方向へ球体の上で手を滑らせて下さい」
僕が手を置いているのは方向舵の球体なのだが、宙に浮いている。

「結構な速度で恒星から離れているね」
「この辺で良いでしょう。飛行体から離れます」
メスティア号がどんどん小天体から離れて行く。
「この辺でよろしいですね。ご主人様主砲一門とバラスト砲十問の発射号令をお願いいたします」
メスティアさんに言われたので。
「各砲発射!!」
光が一つ飛ぶと、続いて少し鈍い光の波が十程飛んで行った。

「わあ粉々だ!。あっ、鈍い光の波動が岩を粉塵に変えてる。凄い」
「これでスバネティに多少当たっても流れ星に見えるだけです。有り難う御座いましたご主人様。それでは長期スリープモード室へ行きましょう」
「えっスリープって?」
「往復百二十年ですし、カプセルに入りませんと身体に影響が出ますから」
「えっ、アル○ディアみたいに外を見ながら航行するんじゃ・・・」
「色々な素粒子から身体を守るのと、異空間航行の時に異常な景色の変化や歪みに脳神経がおかしく成りますから」
「もしかして百二十年殆ど寝てるとか」
「ですから帰ってきた時には15・6ぐらいの年齢に見えるとご説明いたしました」
「・・・・・・」


本当に寝た切りと言うか偶に起きるとずっと同じ景色だったよ。

どうやら着いたけど。
ただの丸い富士山の5・6倍かな?、そんな岩の天体を破壊して粉塵にして帰ってきただけだった。

宇宙海賊も艦隊戦も素晴らしき大航海も無かったぞ。
「ハー○ック~ウゥ!」
「何ですかそれ?」
「いや別に何でも無いです。はい」
まるで桂馬だよ。
ポンポンって飛び飛びに進んで帰ってきただけの旅・・・虚しい。



「ご主人様メスティアのAIが降り立つ町を考えておりますので、ご説明致しますね」
「うんソアお願い」


降り立つ町はルメーリアと言って王都から馬車で5日の所に有るらしい。


例によってAI偽造の通行証に、硬貨のデザインが変わったので、新しい硬貨3ヶ月分。
服も靴も今風のデザイン。

「良かった森が近くて」
1キロ程歩いて町に着いた。
前は10キロ歩いたよね。
「森も近くて魔物も少ないのでハンター登録して新米でも採取依頼から出来ますよ」


ルメーリアは綺麗な街並みだった。
穀倉地帯の真ん中に有る人口も3万程の小洒落た西洋風かな。
高い建物は無いがオレンジの瓦が綺麗な屋根が多い。
町の周りの麦畑にはサイロが立つ農家が所々に見える。
一応城壁は有るがそんなに高く無い。麦畑の外周は木の柵だ。
その外はなだらかな牧草地で牛らしき動物が見える。
こちらもサイロと牛舎と民家がちらほら。
穏やかな暮らしが垣間見得る。
僕が来た近い森の更に奥が魔物の生活圏らしく、出回る肉はほぼ牛肉らしい。
逆に魔物肉の方が高級なんだとか。

牧草地の向こうにはなだらかな山地が連なるが、強い魔物はいないとか。
だからか城壁は低いのかな。



「キャアー!」
若い女の人がハンターに襲われていた。
「何をしてるあんた」
ドス。
ハンターは女の人に当て身を食らわして気絶させた。
「ちぇ、これから楽しむのにガキが邪魔しやあがって」
なんだこいつ?。
「ご主人様この者は婦女暴行殺人の常習犯の様です。ダガーを構え撃って下さい」
「えっ、人に・・・」
「早く危ない」
見るとハンターの男は僕に斬りかかっていた。
「ビッビーム!」
ボスッ。
男は声もあげられず絶命した。
「あっ・・・」
「大丈夫です。どうやら森の奥に隠れ住んで婦女子を襲っていたようです。その記録と似顔絵は既に調査済みですから。ご主人様が気になさる必要は有りません」

まさかギルドに登録初日から犯罪者とは言え人をあやめるとは。
正当防衛でしかも賞金が貰えた事件だった。
襲われたご婦人は未だ若く僕と同じ歳で十六歳の少女だった。
恐かったろうなあ。

6人も人を殺めていた強姦殺人魔と言う事で、ギルドで表彰されてしまった。
なんかいきなり目立ったなあ。
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