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月夜の密会
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その日の深夜━━…。
満月に照らしだされた王宮最上階のバルコニーに、1つの影が這い上がってきた。
『待っていたぞ。
随分と遅かったな』
その声に、影は一瞬だけ動きを止めたが、やがておもむろに立ち上がると、その顔を月光に晒す。
『申し訳ありません皇女。
議場を出た後、長老たちに呼び止められまして』
『そうか、なら良い。
しかし…毎度の事だが、警備団長ともあろう者が、これではまるでコソ泥だな』
満月の下、グレンダとリノハルが向かい合う。
リノハルの背後には二人の巫女が無表情で立っていたが、リノハルが手を翳すと、部屋の奥へと消えて行った。
『海でドラゴンに襲われたと聞いた時は驚いた。
怪我は無かったのか?』
議場での服装とは違い、リノハルは真っ白なドレスを身に纏っている。
『団員の一人が負傷しましたが命に別状はありません』
『そうか…』
『そして、貴重な警備船を一隻失ってしまいました。
申し訳ありません』
そう言ってグレンダはその場に片膝をつき頭を垂れた。
『違うぞグレンダ』
リノハルはグレンダへ歩み寄ると、そっと抱きついた。
『お立ち上がりください皇女。
御身服が汚れてしまいます』
グレンダは冷静に言葉をかける。
『違うのだ。
妾が気にかけておるのはグレンダ、お前のことだ』
優しい声がグレンダの鼓膜を撫でる。
『勿体無きお言葉です。
しかし、こんなところを誰かにでも見られたら大変なことに…。
どうか、お離れください』
『ここより高い場所は、この国には無い。
巫女たちも今は部屋の外に出ておるし、誰も妾たちを見ることはできぬ』
『しかし、皇女…』
『皇女、ではなく、昔のようにリノハル様と呼ばぬか』
リノハルはそう言うと寂しそうな笑みを浮かべた。
『皇…リノハル様…貴女様も私も、あの頃とは立場が違います。
これ以上、このような密会を続けていくのは…』
『だから何だ。
"銀剣の巫女"から警備団長になったら、もう妾の傍に居る必要はないと?』
『いえ、決してそのようなことはありません。
立場がいくら変われど、私グレンダの、この命がリノハル様をお守りする為にあることだけは、不変で御座います』
『ならば答えよ。
妾は…どうすれば良い…』
リノハルがポツリと溢す。
それは、議場で響かせた凛とした声とは違い、弱々しく繊細な少女のような声だった。
『巨船ベニボタルと、軍事同盟を締結してください』
『何だと…?』
リノハルはグレンダから身を離し、その目を見つめた。
『元老院は今、交渉を長引かせる為の交渉に向けた原稿を作成中だぞ?』
『私は、ベニボタル殿の言動を直接見てきたから分かります。
ドラゴンを瞬滅できる実力よりも恐ろしかったのは、あの、感情も善悪も排除した効率だけに特化した決断力と行動力です…。
異世界より現れたアレは、一刻も早くに、僅かでも多くの、この世界のあらゆる情報を欲しています。
今回の交渉が長引くと判断したら、その時点で迷うことなく別の国へ向かい交渉を持ち掛けることでしょう』
『ならば何故、あの議場でそれを長老たちに申さなかったのだ?』
『それこそ、議論が長引くだけで御座います。
とにかく時間が無いのです。あの巨船が他国に奪われるようなことは絶対にあってはなりません』
『し、しかし…いくら妾が皇女でも、議会で決定したことを独断で覆すなど民主主義国家として…』
『私は…』
グレンダはリノハルの背に手を添えて、その体をそっと抱き寄せた。
『私は、リノハル様にお願い申し上げておるのです。
ご安心下さい、何があろうと必ずや私がお守り致します。
銀剣の巫女としてでも警備団長としてでもなく…グレンダという1つの命として』
目を合わせるグレンダとリノハル。
寄り添う二人を満月だけが見つめていた━━…。
満月に照らしだされた王宮最上階のバルコニーに、1つの影が這い上がってきた。
『待っていたぞ。
随分と遅かったな』
その声に、影は一瞬だけ動きを止めたが、やがておもむろに立ち上がると、その顔を月光に晒す。
『申し訳ありません皇女。
議場を出た後、長老たちに呼び止められまして』
『そうか、なら良い。
しかし…毎度の事だが、警備団長ともあろう者が、これではまるでコソ泥だな』
満月の下、グレンダとリノハルが向かい合う。
リノハルの背後には二人の巫女が無表情で立っていたが、リノハルが手を翳すと、部屋の奥へと消えて行った。
『海でドラゴンに襲われたと聞いた時は驚いた。
怪我は無かったのか?』
議場での服装とは違い、リノハルは真っ白なドレスを身に纏っている。
『団員の一人が負傷しましたが命に別状はありません』
『そうか…』
『そして、貴重な警備船を一隻失ってしまいました。
申し訳ありません』
そう言ってグレンダはその場に片膝をつき頭を垂れた。
『違うぞグレンダ』
リノハルはグレンダへ歩み寄ると、そっと抱きついた。
『お立ち上がりください皇女。
御身服が汚れてしまいます』
グレンダは冷静に言葉をかける。
『違うのだ。
妾が気にかけておるのはグレンダ、お前のことだ』
優しい声がグレンダの鼓膜を撫でる。
『勿体無きお言葉です。
しかし、こんなところを誰かにでも見られたら大変なことに…。
どうか、お離れください』
『ここより高い場所は、この国には無い。
巫女たちも今は部屋の外に出ておるし、誰も妾たちを見ることはできぬ』
『しかし、皇女…』
『皇女、ではなく、昔のようにリノハル様と呼ばぬか』
リノハルはそう言うと寂しそうな笑みを浮かべた。
『皇…リノハル様…貴女様も私も、あの頃とは立場が違います。
これ以上、このような密会を続けていくのは…』
『だから何だ。
"銀剣の巫女"から警備団長になったら、もう妾の傍に居る必要はないと?』
『いえ、決してそのようなことはありません。
立場がいくら変われど、私グレンダの、この命がリノハル様をお守りする為にあることだけは、不変で御座います』
『ならば答えよ。
妾は…どうすれば良い…』
リノハルがポツリと溢す。
それは、議場で響かせた凛とした声とは違い、弱々しく繊細な少女のような声だった。
『巨船ベニボタルと、軍事同盟を締結してください』
『何だと…?』
リノハルはグレンダから身を離し、その目を見つめた。
『元老院は今、交渉を長引かせる為の交渉に向けた原稿を作成中だぞ?』
『私は、ベニボタル殿の言動を直接見てきたから分かります。
ドラゴンを瞬滅できる実力よりも恐ろしかったのは、あの、感情も善悪も排除した効率だけに特化した決断力と行動力です…。
異世界より現れたアレは、一刻も早くに、僅かでも多くの、この世界のあらゆる情報を欲しています。
今回の交渉が長引くと判断したら、その時点で迷うことなく別の国へ向かい交渉を持ち掛けることでしょう』
『ならば何故、あの議場でそれを長老たちに申さなかったのだ?』
『それこそ、議論が長引くだけで御座います。
とにかく時間が無いのです。あの巨船が他国に奪われるようなことは絶対にあってはなりません』
『し、しかし…いくら妾が皇女でも、議会で決定したことを独断で覆すなど民主主義国家として…』
『私は…』
グレンダはリノハルの背に手を添えて、その体をそっと抱き寄せた。
『私は、リノハル様にお願い申し上げておるのです。
ご安心下さい、何があろうと必ずや私がお守り致します。
銀剣の巫女としてでも警備団長としてでもなく…グレンダという1つの命として』
目を合わせるグレンダとリノハル。
寄り添う二人を満月だけが見つめていた━━…。
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