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旧シャーハン帝国
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『かつて━━』
皇女リノハルの声が静まった空間に落とされる。
『この国がまだ、シャーハン帝国と呼ばれていた時代。
この椅子には妾の母が座り、その円卓を囲っていたのは、旧シャーハン帝国軍の指揮官たちだった』
ノスカリアなどを併合しシャーハン帝国となっていた当時のシャーハンは、世界屈指の竜軍大国であり、しかも破竜3頭を持つ世界唯一の破竜保有国だった。
『今では考えられぬほど突出した軍事政権は、多くの戦死者を出した挙げ句に敗戦による占領という苦難を、国民に与えてしまった。
だがな…過程はどうあれ、結果はどうあれ、あの時代、この議場に居た者たちは皆、同じ方向を向いていた。
右か左か、押すか引くか…意見を対立させ、相手を罵倒することもあったであろう。
それでも彼らは等しく、シャーハンという国の方角だけを見据えていたのだ』
リノハルは紡ぎだすように語りかけるように、ゆっくりと穏やかな口調で話を続ける。
『そして、敗戦を経て占領下から独立の条件として、竜武装の放棄と元老院の設置を受け入れた我が国の言論府は今…一体どこを向いて喋っておるのだ』
『お言葉ですが』
リノハルの話の間に差し込むように、ジンリュウが声を上げた。
その不敬に当たる行為に、二人の巫女が銀剣を円卓へと向けるが、リノハルの白い手が翳されると、巫女たちは銀剣を再び胸の位置に構えた。
『それではまるで、我々が外国に利する為に発言していると仰っているかのように聞こえますな。
言うまでにもありませぬが、シャーハンは軍事力を持たぬ国故に、外交に関する問題は話し合い、交渉のみで解決していかねばなりませぬ。
だからこそ、シーナやユーナイトなど大国との連携が不可欠であり、それはシャーハンの為を思えばこその手段なのですぞ』
ジンリュウは諭すようにリノハルへと言葉をやる。
『逆を申せば、他国との連携がなければ一国では何もできないというのが現状!
軍事力というものは、行使せずとも外交における最大のカードだ!
竜武装を放棄した時点で、我々は大いなる外交力を失っているのと同じこと!』
マヤがそう語気を強めると、カーガが白々しく咳払いをした。
『非武装精神であるクージョ神の教えは、シャーハン国が世界に誇るべきものの1つですよ。
マヤ殿は、そんなに戦争がしたいのですかな?』
キリシマが呆れたように笑う。
『そんなに素晴らしい教えなら、今すぐノスカリアにでも行って布教されたら良い!!
武器を棄て、国民の命を盾にしたら平和主義国家を名乗れるぞ、とな!!』
マヤの怒鳴り声が議場にこだますが、他の長老たちは誰も賛同することはない。
そして、銀剣が交わり、リノハルが口を開く。
『巨船との交渉は妾が直接行う。
それが交渉の条件であろう?
他に良案がある者は申せ』
議場内がどよめきに包まれる中、ジンリュウは無言でグレンダを見据えた。
皇女が交渉するなら、巨船をテロリストという定義から外さなければならないのは確実。
港にいる陸警備団は、皇女の護衛目的による派遣だという理由に変わり、それと同時に、警備団を救出してくれた巨船に入港許可書を発行したガウロッサやグレンダが処罰される理由は無くなる。
『全ては警備団長殿の計画通り…か』
カイテンがボソリと呟いた。
『皇女リノハル様。
身の安全はどうするおつもりで御座いますか?
貴女様の身は、貴女様だけのものではありませぬぞ』
『皇女の護衛には警備団の精鋭部隊をつけます。
武器や火器の持ち込みは禁止されていますが、彼らなら命がけで皇女様の身を守ってくれるでしょう』
カーガの発言にグレンダが返す。
『何人が乗船できる?』
『皇女と護衛を含めて、10人までと』
カイテンが訊き、グレンダが答える。
『ならば、できる限り護衛に人数を割くべきか…』
シデンが眉間に皺をよせる。
『その巨船、ベニボタルの言っておることは…、信用できるのか?』
ジンリュウがおもむろに言葉をやると、グレンダは確信に満ちた瞳で頷き、胸を張って言った。
『私の進退、いや…私の命にかけて誓います!
ベニボタル殿は、必ずや我がシャーハンに大いなる国益をもたらしてくれるでしょう!』
皇女リノハルの声が静まった空間に落とされる。
『この国がまだ、シャーハン帝国と呼ばれていた時代。
この椅子には妾の母が座り、その円卓を囲っていたのは、旧シャーハン帝国軍の指揮官たちだった』
ノスカリアなどを併合しシャーハン帝国となっていた当時のシャーハンは、世界屈指の竜軍大国であり、しかも破竜3頭を持つ世界唯一の破竜保有国だった。
『今では考えられぬほど突出した軍事政権は、多くの戦死者を出した挙げ句に敗戦による占領という苦難を、国民に与えてしまった。
だがな…過程はどうあれ、結果はどうあれ、あの時代、この議場に居た者たちは皆、同じ方向を向いていた。
右か左か、押すか引くか…意見を対立させ、相手を罵倒することもあったであろう。
それでも彼らは等しく、シャーハンという国の方角だけを見据えていたのだ』
リノハルは紡ぎだすように語りかけるように、ゆっくりと穏やかな口調で話を続ける。
『そして、敗戦を経て占領下から独立の条件として、竜武装の放棄と元老院の設置を受け入れた我が国の言論府は今…一体どこを向いて喋っておるのだ』
『お言葉ですが』
リノハルの話の間に差し込むように、ジンリュウが声を上げた。
その不敬に当たる行為に、二人の巫女が銀剣を円卓へと向けるが、リノハルの白い手が翳されると、巫女たちは銀剣を再び胸の位置に構えた。
『それではまるで、我々が外国に利する為に発言していると仰っているかのように聞こえますな。
言うまでにもありませぬが、シャーハンは軍事力を持たぬ国故に、外交に関する問題は話し合い、交渉のみで解決していかねばなりませぬ。
だからこそ、シーナやユーナイトなど大国との連携が不可欠であり、それはシャーハンの為を思えばこその手段なのですぞ』
ジンリュウは諭すようにリノハルへと言葉をやる。
『逆を申せば、他国との連携がなければ一国では何もできないというのが現状!
軍事力というものは、行使せずとも外交における最大のカードだ!
竜武装を放棄した時点で、我々は大いなる外交力を失っているのと同じこと!』
マヤがそう語気を強めると、カーガが白々しく咳払いをした。
『非武装精神であるクージョ神の教えは、シャーハン国が世界に誇るべきものの1つですよ。
マヤ殿は、そんなに戦争がしたいのですかな?』
キリシマが呆れたように笑う。
『そんなに素晴らしい教えなら、今すぐノスカリアにでも行って布教されたら良い!!
武器を棄て、国民の命を盾にしたら平和主義国家を名乗れるぞ、とな!!』
マヤの怒鳴り声が議場にこだますが、他の長老たちは誰も賛同することはない。
そして、銀剣が交わり、リノハルが口を開く。
『巨船との交渉は妾が直接行う。
それが交渉の条件であろう?
他に良案がある者は申せ』
議場内がどよめきに包まれる中、ジンリュウは無言でグレンダを見据えた。
皇女が交渉するなら、巨船をテロリストという定義から外さなければならないのは確実。
港にいる陸警備団は、皇女の護衛目的による派遣だという理由に変わり、それと同時に、警備団を救出してくれた巨船に入港許可書を発行したガウロッサやグレンダが処罰される理由は無くなる。
『全ては警備団長殿の計画通り…か』
カイテンがボソリと呟いた。
『皇女リノハル様。
身の安全はどうするおつもりで御座いますか?
貴女様の身は、貴女様だけのものではありませぬぞ』
『皇女の護衛には警備団の精鋭部隊をつけます。
武器や火器の持ち込みは禁止されていますが、彼らなら命がけで皇女様の身を守ってくれるでしょう』
カーガの発言にグレンダが返す。
『何人が乗船できる?』
『皇女と護衛を含めて、10人までと』
カイテンが訊き、グレンダが答える。
『ならば、できる限り護衛に人数を割くべきか…』
シデンが眉間に皺をよせる。
『その巨船、ベニボタルの言っておることは…、信用できるのか?』
ジンリュウがおもむろに言葉をやると、グレンダは確信に満ちた瞳で頷き、胸を張って言った。
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