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青い軍服
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銀剣の巫女の主な役割は3つある。
まずは、皇女の身の回りの世話だ。
その仕事は、朝決まった時間に皇女の間へと足を踏み入れた時から始まる。
次に、議会や祭りの場で儀式を行うことだ。
その際に、巫女は銀剣を携え伝統的な所作を行う。
『そして…最後は、その身を盾にしてでも皇女の身の安全を守ること…。
その覚悟は絶対に捨てないでね』
先輩巫女のアメディスがそう言うと、熱心に聞き入っていたグレンダは強く頷いた。
王宮での生活と、ヒラヒラした巫女の衣装にもだいぶ慣れてきて十数日、いつもと同じく、早朝に王宮最上階の扉の前で皇女の起床を待つこの時間は、グレンダにとってアメディスと色々な会話ができる貴重な一時だ。
アメディスはグレンダよりも2歳上だ。
それにより、巫女として皇女に仕えている期間も2年上となる。
その、綺麗な黒髪が似合う美しい彼女を一目見た瞬間からグレンダは恋心を抱いていた。
『それにしても、グレンダって…まるで男みたいな名前ね。
こんなに可愛いのに』
アメディスに顔を覗き込まれ、グレンダは頬を赤らめて慌てた。
『り…両親は男の子が、欲しかったみたいで…。
まあ、でも…俺…じゃなくて、私は気に入ってます…』
『ふ~ん。
でも、残念ね』
『残念…?
何がですか?』
アメディスの言葉にグレンダが首をかしげた。
『グレンダが男だったら良かったのに…ってこと!』
『え…と、それは…その、どういう…』
思わぬ展開にグレンダが顔を更に赤くしてると、背後の扉の奥から透き通ってくるかのように鈴の音色が聞こえてきた。
『時間ね。
さあ、行くわよ』
この鈴の音は、巫女が皇女の間に入室することを許可されたことを示している。
直ぐ様、アメディスが扉を開けようと手をのばしたその時だった。
『グレンダ!』
横からの声に、アメディスは手を止めグレンダと同時に声がした方へと顔を向けた。
広い廊下の真ん中に一人の幼女がポツンと立っている。
それは、皇女*ツクヨミ*の娘であり正統皇位継承者のリノハルだった。
皇女の子は、乳離れと同時に寝室も親とは別々になる。
リノハルが母と会えるのは大広間での食事の時間だけであり、それはまだ3歳の彼女にとっては待ち遠し過ぎるものだった。
よって、リノハルは毎朝誰よりも早く大広間に向かうのだが、こうやって皇女の部屋の前まで来るのは珍しかった。
『リノハル様。
どうなさいました?』
グレンダが駆け寄り床に片膝をつき頭を垂れる。
アメディスも扉から手を離し、その場で身を屈めた。
『さっき、大きな箱が門から入ってきてたが、あれは何だ?』
リノハルは目上の窓を指さしながらグレンダへと訊く。
『箱…ですか?』
グレンダが後方へと視線をやると、すぐにアメディスが答えた。
『それは、民からの献上品で御座いましょう』
王宮でふるまわれる料理や飲料の殆んどが、皇女崇拝者やクジョー神信者、王宮で働く者たちの家族や友人たちからの献上品で賄われている。
『でも、おっきい箱はときどき揺れていたぞ!
中にオバケが入ってるのかもしれん!』
『牛や豚だと思いますよ』
両手を上げて必死で訴える幼いリノハルに、グレンダは優しく返す。
『生きた家畜を王宮に入れることは禁止されているわ。
きっと、荷車が揺れたか何かで…』
後ろからのアメディスの言葉がそこで途切れた。
同時に、何かの気配を察知したグレンダが顔を上げる。
『え…?』
グレンダが目を見開く。
そこには、いつの間にか数十人の同じ青い服を着た集団が、目の前の広い廊下に壁を作るかのように並んでいた。
『な…何ですかアナタ方は!
ここは、神聖なる王宮ですよ!』
アメディスが戸惑いながらも鋭い声を飛ばす。
グレンダは怯えるリノハルを両手で抱き寄せながら、ゆっくりと後退る。
グレンダは彼らが着ている服に見覚えがあった。
『旧シャーハン帝国軍…?』
そう、それはグレンダの父親が持っていた軍服と全く同じものだったのだ。
まずは、皇女の身の回りの世話だ。
その仕事は、朝決まった時間に皇女の間へと足を踏み入れた時から始まる。
次に、議会や祭りの場で儀式を行うことだ。
その際に、巫女は銀剣を携え伝統的な所作を行う。
『そして…最後は、その身を盾にしてでも皇女の身の安全を守ること…。
その覚悟は絶対に捨てないでね』
先輩巫女のアメディスがそう言うと、熱心に聞き入っていたグレンダは強く頷いた。
王宮での生活と、ヒラヒラした巫女の衣装にもだいぶ慣れてきて十数日、いつもと同じく、早朝に王宮最上階の扉の前で皇女の起床を待つこの時間は、グレンダにとってアメディスと色々な会話ができる貴重な一時だ。
アメディスはグレンダよりも2歳上だ。
それにより、巫女として皇女に仕えている期間も2年上となる。
その、綺麗な黒髪が似合う美しい彼女を一目見た瞬間からグレンダは恋心を抱いていた。
『それにしても、グレンダって…まるで男みたいな名前ね。
こんなに可愛いのに』
アメディスに顔を覗き込まれ、グレンダは頬を赤らめて慌てた。
『り…両親は男の子が、欲しかったみたいで…。
まあ、でも…俺…じゃなくて、私は気に入ってます…』
『ふ~ん。
でも、残念ね』
『残念…?
何がですか?』
アメディスの言葉にグレンダが首をかしげた。
『グレンダが男だったら良かったのに…ってこと!』
『え…と、それは…その、どういう…』
思わぬ展開にグレンダが顔を更に赤くしてると、背後の扉の奥から透き通ってくるかのように鈴の音色が聞こえてきた。
『時間ね。
さあ、行くわよ』
この鈴の音は、巫女が皇女の間に入室することを許可されたことを示している。
直ぐ様、アメディスが扉を開けようと手をのばしたその時だった。
『グレンダ!』
横からの声に、アメディスは手を止めグレンダと同時に声がした方へと顔を向けた。
広い廊下の真ん中に一人の幼女がポツンと立っている。
それは、皇女*ツクヨミ*の娘であり正統皇位継承者のリノハルだった。
皇女の子は、乳離れと同時に寝室も親とは別々になる。
リノハルが母と会えるのは大広間での食事の時間だけであり、それはまだ3歳の彼女にとっては待ち遠し過ぎるものだった。
よって、リノハルは毎朝誰よりも早く大広間に向かうのだが、こうやって皇女の部屋の前まで来るのは珍しかった。
『リノハル様。
どうなさいました?』
グレンダが駆け寄り床に片膝をつき頭を垂れる。
アメディスも扉から手を離し、その場で身を屈めた。
『さっき、大きな箱が門から入ってきてたが、あれは何だ?』
リノハルは目上の窓を指さしながらグレンダへと訊く。
『箱…ですか?』
グレンダが後方へと視線をやると、すぐにアメディスが答えた。
『それは、民からの献上品で御座いましょう』
王宮でふるまわれる料理や飲料の殆んどが、皇女崇拝者やクジョー神信者、王宮で働く者たちの家族や友人たちからの献上品で賄われている。
『でも、おっきい箱はときどき揺れていたぞ!
中にオバケが入ってるのかもしれん!』
『牛や豚だと思いますよ』
両手を上げて必死で訴える幼いリノハルに、グレンダは優しく返す。
『生きた家畜を王宮に入れることは禁止されているわ。
きっと、荷車が揺れたか何かで…』
後ろからのアメディスの言葉がそこで途切れた。
同時に、何かの気配を察知したグレンダが顔を上げる。
『え…?』
グレンダが目を見開く。
そこには、いつの間にか数十人の同じ青い服を着た集団が、目の前の広い廊下に壁を作るかのように並んでいた。
『な…何ですかアナタ方は!
ここは、神聖なる王宮ですよ!』
アメディスが戸惑いながらも鋭い声を飛ばす。
グレンダは怯えるリノハルを両手で抱き寄せながら、ゆっくりと後退る。
グレンダは彼らが着ている服に見覚えがあった。
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そう、それはグレンダの父親が持っていた軍服と全く同じものだったのだ。
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