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王宮襲撃
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破竜大戦の終結の日、シャーハン帝国皇女ツクヨミは、瓦礫の山と化した首都の中心部にある王宮前に集まった群衆に向けて、敵連合国から突き付けられていた無条件降伏の要請を受け入れることを発表した。
集まった人々が、哀しみや虚しさに俯き嘆き膝から崩れ落ちる中、当時まだ10歳にも満たなかった皇女ツクヨミは唇を噛みしめ涙を堪えて真っ直ぐと前を見据えていた。
その日を境に、シャーハンには占領軍が大勢入ってきて、皇女を除く政治や軍の中枢にいた者たちは全員投獄され処刑された。
王宮は占領統治の本部となり、皇女は事実上の軟禁生活を強いられることとなった。
そんな中、既に解体が決定していたシャーハン帝国軍に所属していた精鋭部隊40数名が、占領軍が警備していた陸竜基地を襲撃するという事件が発生した。
双方に大勢の死者を出したその事件は、生き残ったシャーハン帝国兵が数個の竜の卵を強奪し姿をくらましたまま未解決状態に終わっていた。
『*シャーハン帝国軍陸竜暗部*。
我々はかつて、そう呼ばれていた存在だ』
ズラリと並んだ青の軍服たちの中央に立つ男がそう告げた。
『陸竜暗部…』
グレンダはその名を父から聞いたことがあった。
精鋭中の精鋭が集結し、戦時中にはあらゆる過酷な任務を成功させ連合国を苦しめたシャーハン帝国最後の懐刀であり、
戦後、それを参考にしてシーナ帝国が飛竜雷撃隊を創設したことは、あまりにも有名な話だと。
『近衛兵は…!
近衛兵は何をしてるの!?』
アメディスの声が響く。
王宮には100人近くの近衛兵がいるはずだが、誰一人とて駆けつけて来る様子がない。
『敗戦し、徹底的に牙を抜かれた国は憐れというより滑稽なものだ。
国家元首の居城を護る兵の装備が、棒キレ一本のみとはな…』
青い軍服集団の中央に立つ男が、背後へと何やら指で合図を送った。
すると、1つの塊のようなものが放られ、グレンダとリノハルの頭上を飛び越えてアメディスの足下に鈍い音をたてて落ちた。
『キャアァァァーーー!!』
床に転がるソレを目にした途端、アメディスは悲鳴を上げて座り込んだ。
ソレは、近衛兵のものであろう生首だったのだ。
グレンダはリノハルの視界を塞ぐように、震えている幼い体を抱きしめた。
『殆んどの見張りは殺し、使用人どもは拘束した。
もはや、この王宮は我々の制圧下にある』
戦後、シャーハン国民の戦争アレルギーは凄まじいもので、外敵から国を防衛する国家警備団とは違い、国内で治安維持にあたる*治安科*には刃物を有する武器の携帯は許されず、武装は長尺棒のみとされていた。
そして、王宮の近衛兵も治安科から選出されており、その装備と錬度では軍刀を握る特殊部隊による不意討ちの襲撃には成す術もなく、あっという間に倒れていったのだった。
『巫女たちよ、我々は無益な血は流したくはない。
ましてや、お前たちのような若者なら尚更だ…。
その子供を置いて今すぐこの場を去るなら、お前たちに危害はくわえない』
男の言葉に、グレンダは唇を噛み締めた。
軍服たちの冷徹な視線に晒され、恐怖で膝の震えが止まらない。
その時だった…━━━。
『二人とも!今すぐ逃げよ!』
突然、皇女の間の扉が勢いよく開き、皇女ツクヨミが姿を見せ、そう声を響かせたのだ。
『う…うう…』
座り込んでいるアメディスが大粒の涙を溢しながらツクヨミを見上げた。
『これは皇女である妾からの命令だ。
さあ、行くのだ』
手を引かれ立ち上がったアメディスに、ツクヨミは優しい眼差しで声をかけた。
『でも…私たちは…巫女としての…』
『急げ。振り返らず走れ』
嗚咽混じりのアメディスの言葉を遮り、ツクヨミはそっと彼女の背中を押す。
『ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…』
アメディスは念じるようにすがるように声を落としながら、軍服たちとは反対方向に駆け出して行った。
『グレンダ、お前もだ。
リノハルを置いて逃げろ』
グレンダはその言葉に弾かれるように走り出した。
両腕で力いっぱいにリノハルを抱きかかえたまま…。
そして、皇女の前まで来ると真横に方向を変え開いていた扉から部屋へと滑り込むなり叫んだ。
『皇女!!早く中へ!!』
グレンダの行動に戸惑いの表情を見せながらもツクヨミは、並んだまま微動だにしない軍服たちへと一瞬だけ目をやると、部屋へと入り扉の鍵を閉めたのだった…━━━。
集まった人々が、哀しみや虚しさに俯き嘆き膝から崩れ落ちる中、当時まだ10歳にも満たなかった皇女ツクヨミは唇を噛みしめ涙を堪えて真っ直ぐと前を見据えていた。
その日を境に、シャーハンには占領軍が大勢入ってきて、皇女を除く政治や軍の中枢にいた者たちは全員投獄され処刑された。
王宮は占領統治の本部となり、皇女は事実上の軟禁生活を強いられることとなった。
そんな中、既に解体が決定していたシャーハン帝国軍に所属していた精鋭部隊40数名が、占領軍が警備していた陸竜基地を襲撃するという事件が発生した。
双方に大勢の死者を出したその事件は、生き残ったシャーハン帝国兵が数個の竜の卵を強奪し姿をくらましたまま未解決状態に終わっていた。
『*シャーハン帝国軍陸竜暗部*。
我々はかつて、そう呼ばれていた存在だ』
ズラリと並んだ青の軍服たちの中央に立つ男がそう告げた。
『陸竜暗部…』
グレンダはその名を父から聞いたことがあった。
精鋭中の精鋭が集結し、戦時中にはあらゆる過酷な任務を成功させ連合国を苦しめたシャーハン帝国最後の懐刀であり、
戦後、それを参考にしてシーナ帝国が飛竜雷撃隊を創設したことは、あまりにも有名な話だと。
『近衛兵は…!
近衛兵は何をしてるの!?』
アメディスの声が響く。
王宮には100人近くの近衛兵がいるはずだが、誰一人とて駆けつけて来る様子がない。
『敗戦し、徹底的に牙を抜かれた国は憐れというより滑稽なものだ。
国家元首の居城を護る兵の装備が、棒キレ一本のみとはな…』
青い軍服集団の中央に立つ男が、背後へと何やら指で合図を送った。
すると、1つの塊のようなものが放られ、グレンダとリノハルの頭上を飛び越えてアメディスの足下に鈍い音をたてて落ちた。
『キャアァァァーーー!!』
床に転がるソレを目にした途端、アメディスは悲鳴を上げて座り込んだ。
ソレは、近衛兵のものであろう生首だったのだ。
グレンダはリノハルの視界を塞ぐように、震えている幼い体を抱きしめた。
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もはや、この王宮は我々の制圧下にある』
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そして、王宮の近衛兵も治安科から選出されており、その装備と錬度では軍刀を握る特殊部隊による不意討ちの襲撃には成す術もなく、あっという間に倒れていったのだった。
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その子供を置いて今すぐこの場を去るなら、お前たちに危害はくわえない』
男の言葉に、グレンダは唇を噛み締めた。
軍服たちの冷徹な視線に晒され、恐怖で膝の震えが止まらない。
その時だった…━━━。
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突然、皇女の間の扉が勢いよく開き、皇女ツクヨミが姿を見せ、そう声を響かせたのだ。
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