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それぞれの覚悟
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ザッザッザッと調った軍靴の音が近づき、扉の向こうで一斉に止まる。
『皇女、我々の目的は敗戦及び、敵国からの占領を赦した罪により貴方を処刑し、その子であるリノハル様を人質にして、再びこの国を戦時下に戻すことです』
閉ざされた扉の前に集まった軍服が声を張る。
『何を考えておる…』
ツクヨミが扉の方へと身体を向けたままグレンダに訊く。
『この鉄製の扉は王宮内で最も頑丈な造りだと聞きました。
いくら屈強な軍人たちが集まろうと、そう簡単には開けないでしょう。
その間にバルコニーから下に降りる方法を考えましょう』
グレンダは半ベソ状態のリノハルの背中を擦りながら言う。
『そうではない!
何故、妾の命令に逆らったのかを訊いておるのだ!
それに、既に王宮の中庭にも敵は大勢いる!逃げ場などない…』
『皇女の身の安全を護ることが私の使命だからです!』
グレンダは強い眼差しをツクヨミの背中に向けた。
『巫女の使命など、お前ら子供の未来に比べたら塵に等しいことだ』
『リノハル様も、子供です』
『ああ、そうだな。
だが…妾の子供だ。
例え赤子であろうと、それが皇女の子である以上は、その命は国民の為に使うべきだ』
ツクヨミは振り返ると、リノハルを見据えた。
その瞳に宿る何かを感じとったリノハルが、涙を堪えながら自分の傍に立つグレンダを見上げて言う。
『グレンダ…。
私とお母様が出ていくから…どこかに隠れていろ…』
リノハルはそう言って泣きながら笑って見せた。
グレンダを安心させる為の、そのひきつった作り笑顔には、まだ3つという年齢で背負うにはあまりにも酷な運命が映っていた。
『お二人にっ…!
お二人に謝らなければならないことが御座います!!』
グレンダは叫んだ。
その声量に、リノハルとツクヨミが思わず目を丸くする。
『実は私は…いや、俺は…男です!!
お二人を騙し、男なのに巫女として仕えておりました!
申し訳御座いませんでした!!』
グレンダはそれだけを言い終えると、床に片膝を付き頭を垂れた。
『こんな時に何を…
そんなことくらい一目見た時から知っておったわ』
暫くの間の後、ツクヨミがそう言ってクスクスと笑いだした。
『え!?』
驚いたグレンダが顔を上げる。
『妾の眼力を侮るでない、小僧。
リノハルやアメディスは騙せても、妾はそうはいかん』
『では、何故…何も言わずに俺を…』
『面白かったからじゃ。
男の御主が一生懸命に女を演じている様がな…。
それと同時に、その愚直さがひどく愛おしくてな』
ツクヨミはグレンダへと歩み寄ると、ゆっくりと立ち上がらせた。
目の前にいる美しい皇女に見つめられ、グレンダは頬を赤らめて俯く。
その様子に、リノハルはポカンと口を開けたまま母親とグレンダへ交互に視線をやっている。
『ドラゴンを連れて来い!!
ここを突き破らせる!!』
一瞬だけ解けていた緊張の糸を再び張りつめさせたのは、扉の向こうからの怒声だった。
『ドラゴンだと…?
ドラゴンが王宮内におるのか…!?』
ツクヨミの表情が青ざめる。
竜武装を放棄したこの国に、ドラゴンがいるはずがない。
しかし、ツクヨミには心あたりがあった。
『盗まれた卵…』
グレンダも父親から聞いた言葉を思い出す。
そう…彼らは敗戦直後に奪った幾つかの陸竜の卵を羽化させることに成功し、そうして産まれた竜同士を交配させてこの日まで育て上げてきたのだ。
『何をしておる!』
ツクヨミは、自分をかわして扉の前に立ったグレンダの肩を掴んだ。
『俺は…巫女や使命などではなく!
一人の男として、貴女方に命を捧げます!』
『愚か者!
その命をこんな所で散らしてはならん!
この国の未来には御主のような男が必要なのだ!どうか…頼む、生きてくれ…』
グレンダの肩を掴むツクヨミの手が震えている。
見なくても、グレンダには皇女が泣いているのが分かった。
いつもは凛々しく透き通っている声が、微かに震えていたからだ。
『嫌です!!』
グレンダはそれを振り払うかのように声を上げる。
『ここで使えぬ命なら、死んでいるのと同じこと…。
俺は、女の後ろに隠れて生きるくらいなら、女の前で死にます!!』
『これはなかなか…
女の格好をさせておくには勿体無い小わっぱじゃな』
突然、背後から吹きつけた風と男の声が部屋に居た三人を振り返らせた。
『皇女、我々の目的は敗戦及び、敵国からの占領を赦した罪により貴方を処刑し、その子であるリノハル様を人質にして、再びこの国を戦時下に戻すことです』
閉ざされた扉の前に集まった軍服が声を張る。
『何を考えておる…』
ツクヨミが扉の方へと身体を向けたままグレンダに訊く。
『この鉄製の扉は王宮内で最も頑丈な造りだと聞きました。
いくら屈強な軍人たちが集まろうと、そう簡単には開けないでしょう。
その間にバルコニーから下に降りる方法を考えましょう』
グレンダは半ベソ状態のリノハルの背中を擦りながら言う。
『そうではない!
何故、妾の命令に逆らったのかを訊いておるのだ!
それに、既に王宮の中庭にも敵は大勢いる!逃げ場などない…』
『皇女の身の安全を護ることが私の使命だからです!』
グレンダは強い眼差しをツクヨミの背中に向けた。
『巫女の使命など、お前ら子供の未来に比べたら塵に等しいことだ』
『リノハル様も、子供です』
『ああ、そうだな。
だが…妾の子供だ。
例え赤子であろうと、それが皇女の子である以上は、その命は国民の為に使うべきだ』
ツクヨミは振り返ると、リノハルを見据えた。
その瞳に宿る何かを感じとったリノハルが、涙を堪えながら自分の傍に立つグレンダを見上げて言う。
『グレンダ…。
私とお母様が出ていくから…どこかに隠れていろ…』
リノハルはそう言って泣きながら笑って見せた。
グレンダを安心させる為の、そのひきつった作り笑顔には、まだ3つという年齢で背負うにはあまりにも酷な運命が映っていた。
『お二人にっ…!
お二人に謝らなければならないことが御座います!!』
グレンダは叫んだ。
その声量に、リノハルとツクヨミが思わず目を丸くする。
『実は私は…いや、俺は…男です!!
お二人を騙し、男なのに巫女として仕えておりました!
申し訳御座いませんでした!!』
グレンダはそれだけを言い終えると、床に片膝を付き頭を垂れた。
『こんな時に何を…
そんなことくらい一目見た時から知っておったわ』
暫くの間の後、ツクヨミがそう言ってクスクスと笑いだした。
『え!?』
驚いたグレンダが顔を上げる。
『妾の眼力を侮るでない、小僧。
リノハルやアメディスは騙せても、妾はそうはいかん』
『では、何故…何も言わずに俺を…』
『面白かったからじゃ。
男の御主が一生懸命に女を演じている様がな…。
それと同時に、その愚直さがひどく愛おしくてな』
ツクヨミはグレンダへと歩み寄ると、ゆっくりと立ち上がらせた。
目の前にいる美しい皇女に見つめられ、グレンダは頬を赤らめて俯く。
その様子に、リノハルはポカンと口を開けたまま母親とグレンダへ交互に視線をやっている。
『ドラゴンを連れて来い!!
ここを突き破らせる!!』
一瞬だけ解けていた緊張の糸を再び張りつめさせたのは、扉の向こうからの怒声だった。
『ドラゴンだと…?
ドラゴンが王宮内におるのか…!?』
ツクヨミの表情が青ざめる。
竜武装を放棄したこの国に、ドラゴンがいるはずがない。
しかし、ツクヨミには心あたりがあった。
『盗まれた卵…』
グレンダも父親から聞いた言葉を思い出す。
そう…彼らは敗戦直後に奪った幾つかの陸竜の卵を羽化させることに成功し、そうして産まれた竜同士を交配させてこの日まで育て上げてきたのだ。
『何をしておる!』
ツクヨミは、自分をかわして扉の前に立ったグレンダの肩を掴んだ。
『俺は…巫女や使命などではなく!
一人の男として、貴女方に命を捧げます!』
『愚か者!
その命をこんな所で散らしてはならん!
この国の未来には御主のような男が必要なのだ!どうか…頼む、生きてくれ…』
グレンダの肩を掴むツクヨミの手が震えている。
見なくても、グレンダには皇女が泣いているのが分かった。
いつもは凛々しく透き通っている声が、微かに震えていたからだ。
『嫌です!!』
グレンダはそれを振り払うかのように声を上げる。
『ここで使えぬ命なら、死んでいるのと同じこと…。
俺は、女の後ろに隠れて生きるくらいなら、女の前で死にます!!』
『これはなかなか…
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