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軍事同盟
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『ホント、ずっと見てるんですね…』
洗面台で手を洗っているエリーは、気まずそうな苦笑いを前の鏡に映している。
《はい。艦内で私が確認できない場所はありません。
ですから声をかけて頂ければ、いつでも、どこでも私との会話が可能ですし、必要とあらばこちらから声をかけることもあります》
紅蛍の言葉にエリーは溜息をついて俯いた。
《もしや、トイレ個室内で私が声をかけてきた事を気にしているのですか?
この艦のトイレ設備の正しい使用方法を知らない貴女には、お教えする必要がありましたので、御了承ください》
『まさか、この歳で正しい用の足し方を教えられるなんて…』
エリーはそう言って顔を両手で覆いながら更なる深い溜息をつく。
《御安心ください、私に感情は無いので、便座に座る貴女を見ても何も感じません》
『それは有難いです…。
下から出てきた洗浄水に驚いて立ち上がってしまったことは、どうか誰にも言わないでください…』
エリーは肩を落としトボトボと洗面所を後にした。
天井の蛍光灯が自動で点灯され、綺麗な部屋が姿を現す。
ベッドとソファー、テーブルが設置されているだけのシンプルな空間だ。
ロッカーと冷蔵庫は壁に内蔵されており、一人で過ごすには十分なように設計されている。
約20分前、紅蛍の案内のもとグレンダと団員たちに連れられてエリーはこの部屋に入れられた。
最初は頑丈にロックされた扉を拳で叩きながら喚いていたエリーも時間が経つにつれて平静さを取り戻し、今では冷蔵庫の中に並べられた色とりどりのレトルト食品に目を輝かせているといった、いつもの様子だ。
『飛竜隊は、どうなりました?』
エリーは、レトルトカレーの封を開けながら紅蛍に訊ねる。
スパイスの効いた芳ばしい薫りが部屋に広がりエリーの鼻孔を擽る。
《4騎を艦対空ミサイルで撃墜したのち、25㎜機関砲による対空砲火で1騎を撃墜。
その後、もう1騎を機関砲で狙うも回避され、その対象がレッドゾーンを抜けたので射撃を中止しました》
事務的に淡々と答える紅蛍。
『これから、どうするつもりですか?
私たちは、祖国に帰れるのでしょうか?』
カレーをスプーンで掬いながら、エリーが質問を続ける。
《その件に関して只今、団長のグレンダと話し合い、結果が出ましたのでお伝えします》
『只今…?今は私と話していましたよね?
そういえば、さっき私の所に団長を呼び出した時も…』
《私は、この艦内にいる全員を同時に見ることができ、全員と同時に内容の異なる会話が可能なのです。
つまり、貴女にレトルト食品の開封方法を教えながら、グレンダと会話ができ、それと同時にアフレッタに艦内の案内をできるということです》
常識を超えまくっているその内容に、もはやエリーはひきつった笑いを浮かべるしかなかった。
『…で、その結果とは…?』
そう言って、とりあえずスプーンを口に運ぶエリー。
そのあまりの美味しさに、頬の内側に痛みに似た痺れがはしった。
《まず、あなた方団員と民間人全員をシャーハン国へとお連れします。
その後の事に関しては、シャーハン政府との話し合いで決めます》
『は?政府と話し合いって…何を話し合うんですか…?』
シーナ軍を攻撃した謎の船を港に招き入れるだけでも、シャーハンとしては外交的にかなり危険な賭けになるはずだ。
そのうえ、何かしらの協定や合意を結んだとなると、シーナ帝国はもとより他の国々も黙ってはいないだろう。
エリーの脳裏に、そんな考えがグルグルと回っていた。
そして、それは現実のものとなる…。
《グレンダからの提案により、私はシャーハン国と軍事同盟を結ぶ交渉に入ることに決定しました》
洗面台で手を洗っているエリーは、気まずそうな苦笑いを前の鏡に映している。
《はい。艦内で私が確認できない場所はありません。
ですから声をかけて頂ければ、いつでも、どこでも私との会話が可能ですし、必要とあらばこちらから声をかけることもあります》
紅蛍の言葉にエリーは溜息をついて俯いた。
《もしや、トイレ個室内で私が声をかけてきた事を気にしているのですか?
この艦のトイレ設備の正しい使用方法を知らない貴女には、お教えする必要がありましたので、御了承ください》
『まさか、この歳で正しい用の足し方を教えられるなんて…』
エリーはそう言って顔を両手で覆いながら更なる深い溜息をつく。
《御安心ください、私に感情は無いので、便座に座る貴女を見ても何も感じません》
『それは有難いです…。
下から出てきた洗浄水に驚いて立ち上がってしまったことは、どうか誰にも言わないでください…』
エリーは肩を落としトボトボと洗面所を後にした。
天井の蛍光灯が自動で点灯され、綺麗な部屋が姿を現す。
ベッドとソファー、テーブルが設置されているだけのシンプルな空間だ。
ロッカーと冷蔵庫は壁に内蔵されており、一人で過ごすには十分なように設計されている。
約20分前、紅蛍の案内のもとグレンダと団員たちに連れられてエリーはこの部屋に入れられた。
最初は頑丈にロックされた扉を拳で叩きながら喚いていたエリーも時間が経つにつれて平静さを取り戻し、今では冷蔵庫の中に並べられた色とりどりのレトルト食品に目を輝かせているといった、いつもの様子だ。
『飛竜隊は、どうなりました?』
エリーは、レトルトカレーの封を開けながら紅蛍に訊ねる。
スパイスの効いた芳ばしい薫りが部屋に広がりエリーの鼻孔を擽る。
《4騎を艦対空ミサイルで撃墜したのち、25㎜機関砲による対空砲火で1騎を撃墜。
その後、もう1騎を機関砲で狙うも回避され、その対象がレッドゾーンを抜けたので射撃を中止しました》
事務的に淡々と答える紅蛍。
『これから、どうするつもりですか?
私たちは、祖国に帰れるのでしょうか?』
カレーをスプーンで掬いながら、エリーが質問を続ける。
《その件に関して只今、団長のグレンダと話し合い、結果が出ましたのでお伝えします》
『只今…?今は私と話していましたよね?
そういえば、さっき私の所に団長を呼び出した時も…』
《私は、この艦内にいる全員を同時に見ることができ、全員と同時に内容の異なる会話が可能なのです。
つまり、貴女にレトルト食品の開封方法を教えながら、グレンダと会話ができ、それと同時にアフレッタに艦内の案内をできるということです》
常識を超えまくっているその内容に、もはやエリーはひきつった笑いを浮かべるしかなかった。
『…で、その結果とは…?』
そう言って、とりあえずスプーンを口に運ぶエリー。
そのあまりの美味しさに、頬の内側に痛みに似た痺れがはしった。
《まず、あなた方団員と民間人全員をシャーハン国へとお連れします。
その後の事に関しては、シャーハン政府との話し合いで決めます》
『は?政府と話し合いって…何を話し合うんですか…?』
シーナ軍を攻撃した謎の船を港に招き入れるだけでも、シャーハンとしては外交的にかなり危険な賭けになるはずだ。
そのうえ、何かしらの協定や合意を結んだとなると、シーナ帝国はもとより他の国々も黙ってはいないだろう。
エリーの脳裏に、そんな考えがグルグルと回っていた。
そして、それは現実のものとなる…。
《グレンダからの提案により、私はシャーハン国と軍事同盟を結ぶ交渉に入ることに決定しました》
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