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在りし日の夕焼け港
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4年前━━━…
『待ちなさいよ!』
人々で賑わう帝都の港、突然呼び止められたクフィールとラッジストは、ほぼ同時に振り返った。
『あら、*シェリラ*じゃない。
どうしたの?』
クフィールは持っていた酒瓶から口を離すと、そこに立っている少女へと微笑みかけた。
隣に立つラッジストは姉の分の荷物まで持たされており、ウンザリとしている表情だ。
『どうしたのって…、アンタ逃げる気なの!?
何がタワン島へ左遷よ!!
私との決着はまだ着いてないのに!!』
そう言ってシェリラは木刀を構えた。
クフィールの剣の腕前はシーナ帝国軍の中でも飛び抜けており、そんな彼女に憧れ挑む軍人は後を絶たなかった。
そして、シェリラはその中でも一番、負けん気の強い挑戦者だった。
『見送りに来てくれたのね。
誰も来ないと思ってたわ、ありがとう』
クフィールはシェリラの頭をポンポンと撫でる。
年齢は3つほどクフィールが上で、食って掛かってくるシェリラを、いつも可愛い妹をあやすように接していた。
『ちっ…違ーーう!!
勝負よ!決闘よ!かかってきなさい…!』
そう虚勢を張りながらも、見る見るうちに涙目になっていくシェリラは、そのうちワンワンと泣きだしてしまった。
『ごめんねシェリラ。
聞いたと思うけど、私酒癖が悪くてね、酔った勢いで街の酒場で大乱闘事件起こしちゃって、帝都に居られなくなっちゃったの』
人目も憚らず大声で泣くシェリラに、流石のクフィールも困ったようにラッジストを見た。
『姉上が自分でどうにかしろ。
荷物まで持たされた上、泣き虫の相手までできるか』
『誰が泣き虫よ!このデカブツ!』
ラッジストの言葉にシェリラはせきを切ったように勢いよく木刀を振り上げた。
『まっ待て!正気か!?
俺は両手がふさがって…!』
回避すらできないままのラッジストの眉間に木刀が炸裂する。
『ぬぅあぁぁぁぁーーー!!』
荷物を地面に落とし、両手で額を押さえて悶絶するラッジストを指差しながら笑うクフィール。
その様子を見ている、シェリラの表情にも思わず笑みが浮かんでいた。
夕焼け空に船出を報せる鐘が鳴り響き、冬の匂いを纏う風が頬を撫でて海へと過ぎてゆく。
『私、雷撃隊への入隊を志願するつもりよ』
別れ際、シェリラが意を決したようにそう言った。
『飛竜雷撃隊は酷い部隊よ。
女には適さないから、やめなさい』
クフィールはいつになく真剣な表情でシェリラを見た。
飛竜雷撃隊とは、帝都や主要施設が敵に占領された場合に、それらを奪還する為に少数精鋭で強襲作戦を行う近接戦闘専門の特殊部隊だ。
*飛竜*という名称こそついているが、所属は陸竜軍であり、訓練は山岳や砂漠といった過酷な場所でばかり行われ、訓練中に死者が出るのも日常茶飯事といった危険な部隊だ。
『嫌よ…。
クフィール、私は貴女を超えるの!
その為には帝国最強の部隊、雷撃隊に身を置き腕を磨くしかない…』
シェリラはそう言うと、再び木刀を構えた。
その瞳は強い信念に燃えている。
『…わかったわ。
次に会う時が楽しみね』
『そうよ!覚えてなさい!
次は私がアンタを泣かすんだから!』
『それなら俺も手伝うぞシェリラ』
ラッジストが額を擦りながら姉へと視線をやる。
『フフ…。じゃあ、またいつか会いましょうシェリラ。
見送り、来てくれてありがとう』
『だっ…だから…見送りなんかじゃ…な…いっ…』
やっぱり子供のように泣き出してしまったシェリラの頭に、クフィールは再び手を添えたのだった。
こんな感情豊かなシェリラを見るのが、これで最後になるとは知るよしもなく…。
『待ちなさいよ!』
人々で賑わう帝都の港、突然呼び止められたクフィールとラッジストは、ほぼ同時に振り返った。
『あら、*シェリラ*じゃない。
どうしたの?』
クフィールは持っていた酒瓶から口を離すと、そこに立っている少女へと微笑みかけた。
隣に立つラッジストは姉の分の荷物まで持たされており、ウンザリとしている表情だ。
『どうしたのって…、アンタ逃げる気なの!?
何がタワン島へ左遷よ!!
私との決着はまだ着いてないのに!!』
そう言ってシェリラは木刀を構えた。
クフィールの剣の腕前はシーナ帝国軍の中でも飛び抜けており、そんな彼女に憧れ挑む軍人は後を絶たなかった。
そして、シェリラはその中でも一番、負けん気の強い挑戦者だった。
『見送りに来てくれたのね。
誰も来ないと思ってたわ、ありがとう』
クフィールはシェリラの頭をポンポンと撫でる。
年齢は3つほどクフィールが上で、食って掛かってくるシェリラを、いつも可愛い妹をあやすように接していた。
『ちっ…違ーーう!!
勝負よ!決闘よ!かかってきなさい…!』
そう虚勢を張りながらも、見る見るうちに涙目になっていくシェリラは、そのうちワンワンと泣きだしてしまった。
『ごめんねシェリラ。
聞いたと思うけど、私酒癖が悪くてね、酔った勢いで街の酒場で大乱闘事件起こしちゃって、帝都に居られなくなっちゃったの』
人目も憚らず大声で泣くシェリラに、流石のクフィールも困ったようにラッジストを見た。
『姉上が自分でどうにかしろ。
荷物まで持たされた上、泣き虫の相手までできるか』
『誰が泣き虫よ!このデカブツ!』
ラッジストの言葉にシェリラはせきを切ったように勢いよく木刀を振り上げた。
『まっ待て!正気か!?
俺は両手がふさがって…!』
回避すらできないままのラッジストの眉間に木刀が炸裂する。
『ぬぅあぁぁぁぁーーー!!』
荷物を地面に落とし、両手で額を押さえて悶絶するラッジストを指差しながら笑うクフィール。
その様子を見ている、シェリラの表情にも思わず笑みが浮かんでいた。
夕焼け空に船出を報せる鐘が鳴り響き、冬の匂いを纏う風が頬を撫でて海へと過ぎてゆく。
『私、雷撃隊への入隊を志願するつもりよ』
別れ際、シェリラが意を決したようにそう言った。
『飛竜雷撃隊は酷い部隊よ。
女には適さないから、やめなさい』
クフィールはいつになく真剣な表情でシェリラを見た。
飛竜雷撃隊とは、帝都や主要施設が敵に占領された場合に、それらを奪還する為に少数精鋭で強襲作戦を行う近接戦闘専門の特殊部隊だ。
*飛竜*という名称こそついているが、所属は陸竜軍であり、訓練は山岳や砂漠といった過酷な場所でばかり行われ、訓練中に死者が出るのも日常茶飯事といった危険な部隊だ。
『嫌よ…。
クフィール、私は貴女を超えるの!
その為には帝国最強の部隊、雷撃隊に身を置き腕を磨くしかない…』
シェリラはそう言うと、再び木刀を構えた。
その瞳は強い信念に燃えている。
『…わかったわ。
次に会う時が楽しみね』
『そうよ!覚えてなさい!
次は私がアンタを泣かすんだから!』
『それなら俺も手伝うぞシェリラ』
ラッジストが額を擦りながら姉へと視線をやる。
『フフ…。じゃあ、またいつか会いましょうシェリラ。
見送り、来てくれてありがとう』
『だっ…だから…見送りなんかじゃ…な…いっ…』
やっぱり子供のように泣き出してしまったシェリラの頭に、クフィールは再び手を添えたのだった。
こんな感情豊かなシェリラを見るのが、これで最後になるとは知るよしもなく…。
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