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悪魔と謎謎
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とある国の城に、フィリリアという名の姫がいた。
黄金色の滑らかな髪と透きとおるような白い肌は、まさに女神そのものと言っても過言ではないほどに、それはそれは美しい姫だ。
だが、その性格は美しい見た目からは想像できないほどに残忍なものだった。
『ああ…素敵…』
悲鳴と断末魔が響き渡る広場を見渡せる高台で椅子に座っているフィリリアは
恍惚に頬を染めて、その華奢な体を身震いさせている。
『飛び散る鮮血と声…。
本当クセになっちゃうわ。ねぇ、そうは思わない?』
フィリリアは隣に立っている使用人のスカーレットへと愉しげに声を投げた。
『国王様に知られると、また叱られてしまいますよ。
罪人が処刑される様を好き好んで見物するなんて悪趣味なことは、やめよと言われていたはずです』
スカーレットは無表情でそう言うと、溜め息をついた。
『何よ、アナタだって私についてここに来てるくせに』
『私はフィリリア様にお仕えするのが仕事ですので、常にフィリリア様のお傍に…。
それが国王様からの御命令ですから』
唇を尖らすフィリリアに構わず、スカーレットは仮面をつけているかのような表情で言葉を返した。
『国王様、国王様、国王様…。
全くアナタはいつもそればかりね。
可愛い娘にこんな女をあてがうなんて、父上は一体何を考えているのかしら』
フィリリアは椅子から立ちあがると、スカーレットの胸を両手で力強く押した。
体勢を崩したスカーレットは近くの台ごと地面に倒れた。周りに居た衛兵たちが一瞬ざわついたが、すぐに沈黙する。
『どちらへ?』
目の前をドレスを翻し颯爽と歩いてゆくフィリリアに、座り込んだままのスカーレットが訊く。
『興が醒めたわ。
少し散歩するから、ついて来ないでね』
フィリリアはそう言い残し、刑場広場を後にしたのだった。
刑場広場を出ると、すぐ上階へと続く長い階段がある。
そこを登ると、城の従者や衛兵たちがせわしなく往来する大きな廊下に続くのだが、フィリリアはその階段の途中にあるものを見つけた。
『あら、こんなところに…』
それは壁に埋め込まれている鉄の扉だった。
全体的に錆びて赤茶けており、随分と昔からここにあったようだ。
この城はまるで常に成長し続けているかのように、フィリリアに昨日と違う景色を見せてくれていた。
見知らぬ部屋、見知らぬ廊下、見知らぬ階段、見知らぬ人間…。
この城がフィリリアを飽きさせることはなく、毎日のように通っている階段で見知らぬ扉を見つけても、フィリリアは不思議に思うことなどはなく躊躇もせずに、手をのばし開け放つ。
『フフ…真っ暗ね』
フィリリアは目の前に立ち塞がる暗闇に微笑みかける。
暫くすると、少し目が慣れてきたのか下に降る階段がうっすらと見えてきた。
『これも地下に続くのかしら!』
フィリリアは胸を踊らせ、軽やかな足取りでその階段の先へと消えたのだった。
『ほう…
人間がここを訪れるのは何十年ぶりにか…』
階段を降りきったフィリリアを出迎えてくれたのは、地の底から響いてくるような邪悪な声だった。
『私はフィリリア、この国の王女よ。
アナタは誰?こんな暗くてカビ臭い所で何をしてるの?』
フィリリアは行く手を遮る鉄柵に触れ、向こう側に居る「何か」に声をかけた。
『吾は、この城を創りし悪魔だ…。
1000年前より、ここに存在しておる…』
その「何か」は、そう言うなり突然鉄柵の側に顔を近づけてきた。
毛むくじゃらの醜い獣が牙を剥き出してフィリリアの美しい顔へと舌をのばしてきた。
『悪魔…。
フフ…この城には色々な者が居るけど、自らを悪魔と名乗ったのは、アナタが初めてよ』
驚く様子も恐れる様子も見せず愉しげに微笑んでいるフィリリアに、悪魔はつまらなそうに顔を遠ざけた。
『吾も貴様のような人間と出会ったのは初めてだ…。
どうだフィリリアよ、吾と一つ勝負をしてみんか?』
『勝負?』
悪魔の突然の提案に、フィリリアは首を傾げた。
『お互いに謎を出し合い、答えられなかった方が負け。
貴様が勝てば望む願いを何でも叶えよう…。
但し、貴様が負ければ、その寿命の半分を頂く…。どうだ?』
『面白そうね。いいわ、やりましょう。
でも、18年しか生きていない私と1000歳を超すアナタでは、知識量が違い過ぎるわ。
そんなのズルいから、先に私から謎を出してもいいかしら?』
フィリリアがそう訊くと、悪魔はケラケラと笑いながら頷いた。
『よかろう…。
先だろうと、後だろうと小娘風情が吾に勝てるとは思えんがな』
『それじゃあ、まずは私が謎を出すわね』
フィリリアは人差し指を頬に添えると何かを考えるように斜め上を見つめた後、こう言った。
『この部屋で最も大きくて、この城で最も小さいものとは何?』
フィリリアが口にした謎に、悪魔は黙って考え込む。
1000年の歳月で様々な知識を持っている悪魔。
しかし、どんなに思考を巡らせ過去を思い出そうにも答えが全く浮かんでこない。
『むぅ…解らん…。
降参だ、答えは何だ?』
『私の勝ちね。
約束通り、私の願いを叶えてもらうわ』
フィリリアは嬉しそうにそう言うと、続けた。
『私の願いは、不老不死よ。
永遠に、この姿のままで生きていたいの』
『不老不死か…。
よかろう、その願いを叶えてやる』
悪魔は鋭く尖った爪を、フィリリアの胸に当てると、何やら呪文を唱えた。
すると、爪先から黒い霧が現れフィリリアの胸の中に吸い込まれるようにして消えた。
『これで貴様は老いることも死ぬこともない化物になった』
悪魔の言葉に、実感の沸かないフィリリアはキョトンとした表情で自分の体を両手でさすっている。
『さて、願いは叶えた。
先程の謎の答えを言え…』
悔しそうな悪魔に、フィリリアは自信満々の顔でこう答えた。
『悪魔さん、約束通り
私の寿命の半分を差し上げますわ』
~完~
黄金色の滑らかな髪と透きとおるような白い肌は、まさに女神そのものと言っても過言ではないほどに、それはそれは美しい姫だ。
だが、その性格は美しい見た目からは想像できないほどに残忍なものだった。
『ああ…素敵…』
悲鳴と断末魔が響き渡る広場を見渡せる高台で椅子に座っているフィリリアは
恍惚に頬を染めて、その華奢な体を身震いさせている。
『飛び散る鮮血と声…。
本当クセになっちゃうわ。ねぇ、そうは思わない?』
フィリリアは隣に立っている使用人のスカーレットへと愉しげに声を投げた。
『国王様に知られると、また叱られてしまいますよ。
罪人が処刑される様を好き好んで見物するなんて悪趣味なことは、やめよと言われていたはずです』
スカーレットは無表情でそう言うと、溜め息をついた。
『何よ、アナタだって私についてここに来てるくせに』
『私はフィリリア様にお仕えするのが仕事ですので、常にフィリリア様のお傍に…。
それが国王様からの御命令ですから』
唇を尖らすフィリリアに構わず、スカーレットは仮面をつけているかのような表情で言葉を返した。
『国王様、国王様、国王様…。
全くアナタはいつもそればかりね。
可愛い娘にこんな女をあてがうなんて、父上は一体何を考えているのかしら』
フィリリアは椅子から立ちあがると、スカーレットの胸を両手で力強く押した。
体勢を崩したスカーレットは近くの台ごと地面に倒れた。周りに居た衛兵たちが一瞬ざわついたが、すぐに沈黙する。
『どちらへ?』
目の前をドレスを翻し颯爽と歩いてゆくフィリリアに、座り込んだままのスカーレットが訊く。
『興が醒めたわ。
少し散歩するから、ついて来ないでね』
フィリリアはそう言い残し、刑場広場を後にしたのだった。
刑場広場を出ると、すぐ上階へと続く長い階段がある。
そこを登ると、城の従者や衛兵たちがせわしなく往来する大きな廊下に続くのだが、フィリリアはその階段の途中にあるものを見つけた。
『あら、こんなところに…』
それは壁に埋め込まれている鉄の扉だった。
全体的に錆びて赤茶けており、随分と昔からここにあったようだ。
この城はまるで常に成長し続けているかのように、フィリリアに昨日と違う景色を見せてくれていた。
見知らぬ部屋、見知らぬ廊下、見知らぬ階段、見知らぬ人間…。
この城がフィリリアを飽きさせることはなく、毎日のように通っている階段で見知らぬ扉を見つけても、フィリリアは不思議に思うことなどはなく躊躇もせずに、手をのばし開け放つ。
『フフ…真っ暗ね』
フィリリアは目の前に立ち塞がる暗闇に微笑みかける。
暫くすると、少し目が慣れてきたのか下に降る階段がうっすらと見えてきた。
『これも地下に続くのかしら!』
フィリリアは胸を踊らせ、軽やかな足取りでその階段の先へと消えたのだった。
『ほう…
人間がここを訪れるのは何十年ぶりにか…』
階段を降りきったフィリリアを出迎えてくれたのは、地の底から響いてくるような邪悪な声だった。
『私はフィリリア、この国の王女よ。
アナタは誰?こんな暗くてカビ臭い所で何をしてるの?』
フィリリアは行く手を遮る鉄柵に触れ、向こう側に居る「何か」に声をかけた。
『吾は、この城を創りし悪魔だ…。
1000年前より、ここに存在しておる…』
その「何か」は、そう言うなり突然鉄柵の側に顔を近づけてきた。
毛むくじゃらの醜い獣が牙を剥き出してフィリリアの美しい顔へと舌をのばしてきた。
『悪魔…。
フフ…この城には色々な者が居るけど、自らを悪魔と名乗ったのは、アナタが初めてよ』
驚く様子も恐れる様子も見せず愉しげに微笑んでいるフィリリアに、悪魔はつまらなそうに顔を遠ざけた。
『吾も貴様のような人間と出会ったのは初めてだ…。
どうだフィリリアよ、吾と一つ勝負をしてみんか?』
『勝負?』
悪魔の突然の提案に、フィリリアは首を傾げた。
『お互いに謎を出し合い、答えられなかった方が負け。
貴様が勝てば望む願いを何でも叶えよう…。
但し、貴様が負ければ、その寿命の半分を頂く…。どうだ?』
『面白そうね。いいわ、やりましょう。
でも、18年しか生きていない私と1000歳を超すアナタでは、知識量が違い過ぎるわ。
そんなのズルいから、先に私から謎を出してもいいかしら?』
フィリリアがそう訊くと、悪魔はケラケラと笑いながら頷いた。
『よかろう…。
先だろうと、後だろうと小娘風情が吾に勝てるとは思えんがな』
『それじゃあ、まずは私が謎を出すわね』
フィリリアは人差し指を頬に添えると何かを考えるように斜め上を見つめた後、こう言った。
『この部屋で最も大きくて、この城で最も小さいものとは何?』
フィリリアが口にした謎に、悪魔は黙って考え込む。
1000年の歳月で様々な知識を持っている悪魔。
しかし、どんなに思考を巡らせ過去を思い出そうにも答えが全く浮かんでこない。
『むぅ…解らん…。
降参だ、答えは何だ?』
『私の勝ちね。
約束通り、私の願いを叶えてもらうわ』
フィリリアは嬉しそうにそう言うと、続けた。
『私の願いは、不老不死よ。
永遠に、この姿のままで生きていたいの』
『不老不死か…。
よかろう、その願いを叶えてやる』
悪魔は鋭く尖った爪を、フィリリアの胸に当てると、何やら呪文を唱えた。
すると、爪先から黒い霧が現れフィリリアの胸の中に吸い込まれるようにして消えた。
『これで貴様は老いることも死ぬこともない化物になった』
悪魔の言葉に、実感の沸かないフィリリアはキョトンとした表情で自分の体を両手でさすっている。
『さて、願いは叶えた。
先程の謎の答えを言え…』
悔しそうな悪魔に、フィリリアは自信満々の顔でこう答えた。
『悪魔さん、約束通り
私の寿命の半分を差し上げますわ』
~完~
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