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8話
缶詰6日目 森山君と夏目さん【5】
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「社長、忙しいのにお見舞いですか」
私を抱えたままの森山君が言った。普段よりきつい言い方に聞こえた。
「春川の事が心配だったからな。だが、森山君がいるなら大丈夫そうだな」
「ええ、俺がしっかりと看病しますから」
「しっかりとね」
夏目さんの視線がお姫様だっこされた私の方に動いた。
「春川、森山君にはさせるんだな」
夏目さんがフッと寂し気な笑みを浮かべた。
さっきお姫様だっこを断った私を責めてるようで気まずい。
「えーと、その、これは無理矢理で」
歯切れ悪く答えると、夏目さんにポンポンと頭を撫でられた。嬉しいはずなのに、なぜか森山君の前でされると居心地が悪い。
「帰るよ。ちゃんと休むんだぞ」
夏目さんが部屋を出て行った。
ドアが閉まった後も、森山君に抱っこされたままだ。ベッドはすぐ側なのに。
「あの、おろして」
「いやです」
予想外の言葉が返ってくる。
「夏目さんと浮気した罰です」
森山君が怖い目でこっちを見下ろした。
ドアの外で夏目さんとのやり取りを聞いていたんだ。それで私が抱きしめられていた事に気づいたのかも。森山君は鋭いから。
だけど、浮気だなんて言われる筋合いはない。私たちは付き合ってる訳じゃないんだから。
そう言おうとしたら、森山君の表情が険しくなった。
「本当に夏目さんと何かあったんですか?」
今、本当にって言った?もしや抱きしめられた事に気づいてなかったの?浮気だと言ったのは冗談だったの?
「春川さん、どうなんですか?」
森山君が厳しい視線を向けて来た。
「何も……ないよ」
ちょっとの後ろめたさを感じながら答えた。
眼鏡の奥の瞳がじっとこっちを見る。心の中を覗き込むような真っすぐな目で射抜かれて、胸が締め付けられるように痛い。だけど、夏目さんに抱きしめられた事は言えない。言ってしまったら森山君に嫌われてしまう気がして。
頭がくらくらする。きっと熱のせいだ。夏目さんがいた時は気を張っていたけど、森山君と二人きりになったら、急に力が抜けた。
「頭が痛い……」
口にすると、張りつめていた森山君の黒い瞳が、心配そうな物に変わった。
「今、ベッドに降ろしますから」
大切な物を扱うような動作で、森山君がベッドに寝かせてくれた。布団も顎が埋まる所まで掛けてくれて温かい。
森山君はベッドの側に膝をつくと、心配そうに私の顔を覗き込んで、「他に辛い所はありますか?」と聞いてくれた。
とっても優しい声だった。一気に涙が溢れた。泣くなんて情けないけど、森山君には弱い部分を見せてしまう。
この缶詰生活を始めてから、一日ごとに森山君と心が近くなっていくのを感じてた。森山君は葵さんって呼んでくれて、私の事を理解したいと言ってくれて、停電の時は一緒にいてくれた。ターコイズブルーの折り畳み傘も大切に持っててくれて、私と出会った日の事も大切な思い出として覚えててくれた。
森山君はいつも、こんな私を大事にしてくれる。
今だって心配そうにしてて、そばにいてくれる。
ありがたくて、また涙が溢れた。
「なんで泣いてるんですか?泣くほど痛いんですか?」
森山君が慌てたような表情を浮かべて、ティッシュで涙を拭いてくれた。ティッシュ越しに感じる森山君の指が壊れ物に触れるみたいに優しい力加減で、胸がいっぱいになる。
「うん。頭が痛いの」
甘えるように言った。森山君にもっと心配されたい。私だけを見て欲しい。そんな子供じみた想いが沸き上がった。
「頭が痛いから、そばにいて」
布団の中から手を出して、森山君に向けた。
森山君がその手を握ってくれる。男らしい大きな手に包まれて安心する。
「そばにいますよ」
そう言って、森山君は微笑んだ。その笑顔に心が満たされる。頭が痛いけど、幸せ。私を幸せにしてくれる人は森山君しかいないって、今頃気がついた。
私を抱えたままの森山君が言った。普段よりきつい言い方に聞こえた。
「春川の事が心配だったからな。だが、森山君がいるなら大丈夫そうだな」
「ええ、俺がしっかりと看病しますから」
「しっかりとね」
夏目さんの視線がお姫様だっこされた私の方に動いた。
「春川、森山君にはさせるんだな」
夏目さんがフッと寂し気な笑みを浮かべた。
さっきお姫様だっこを断った私を責めてるようで気まずい。
「えーと、その、これは無理矢理で」
歯切れ悪く答えると、夏目さんにポンポンと頭を撫でられた。嬉しいはずなのに、なぜか森山君の前でされると居心地が悪い。
「帰るよ。ちゃんと休むんだぞ」
夏目さんが部屋を出て行った。
ドアが閉まった後も、森山君に抱っこされたままだ。ベッドはすぐ側なのに。
「あの、おろして」
「いやです」
予想外の言葉が返ってくる。
「夏目さんと浮気した罰です」
森山君が怖い目でこっちを見下ろした。
ドアの外で夏目さんとのやり取りを聞いていたんだ。それで私が抱きしめられていた事に気づいたのかも。森山君は鋭いから。
だけど、浮気だなんて言われる筋合いはない。私たちは付き合ってる訳じゃないんだから。
そう言おうとしたら、森山君の表情が険しくなった。
「本当に夏目さんと何かあったんですか?」
今、本当にって言った?もしや抱きしめられた事に気づいてなかったの?浮気だと言ったのは冗談だったの?
「春川さん、どうなんですか?」
森山君が厳しい視線を向けて来た。
「何も……ないよ」
ちょっとの後ろめたさを感じながら答えた。
眼鏡の奥の瞳がじっとこっちを見る。心の中を覗き込むような真っすぐな目で射抜かれて、胸が締め付けられるように痛い。だけど、夏目さんに抱きしめられた事は言えない。言ってしまったら森山君に嫌われてしまう気がして。
頭がくらくらする。きっと熱のせいだ。夏目さんがいた時は気を張っていたけど、森山君と二人きりになったら、急に力が抜けた。
「頭が痛い……」
口にすると、張りつめていた森山君の黒い瞳が、心配そうな物に変わった。
「今、ベッドに降ろしますから」
大切な物を扱うような動作で、森山君がベッドに寝かせてくれた。布団も顎が埋まる所まで掛けてくれて温かい。
森山君はベッドの側に膝をつくと、心配そうに私の顔を覗き込んで、「他に辛い所はありますか?」と聞いてくれた。
とっても優しい声だった。一気に涙が溢れた。泣くなんて情けないけど、森山君には弱い部分を見せてしまう。
この缶詰生活を始めてから、一日ごとに森山君と心が近くなっていくのを感じてた。森山君は葵さんって呼んでくれて、私の事を理解したいと言ってくれて、停電の時は一緒にいてくれた。ターコイズブルーの折り畳み傘も大切に持っててくれて、私と出会った日の事も大切な思い出として覚えててくれた。
森山君はいつも、こんな私を大事にしてくれる。
今だって心配そうにしてて、そばにいてくれる。
ありがたくて、また涙が溢れた。
「なんで泣いてるんですか?泣くほど痛いんですか?」
森山君が慌てたような表情を浮かべて、ティッシュで涙を拭いてくれた。ティッシュ越しに感じる森山君の指が壊れ物に触れるみたいに優しい力加減で、胸がいっぱいになる。
「うん。頭が痛いの」
甘えるように言った。森山君にもっと心配されたい。私だけを見て欲しい。そんな子供じみた想いが沸き上がった。
「頭が痛いから、そばにいて」
布団の中から手を出して、森山君に向けた。
森山君がその手を握ってくれる。男らしい大きな手に包まれて安心する。
「そばにいますよ」
そう言って、森山君は微笑んだ。その笑顔に心が満たされる。頭が痛いけど、幸せ。私を幸せにしてくれる人は森山君しかいないって、今頃気がついた。
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