【完結】ディープキス―実は一途な年下男子に溺愛されていました!―

コハラ

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最終話

半年後【2】

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「お姉さんはどうしてパリに来たの?」

 ホテルの受付で東京から来た中年のご夫婦に聞かれた。

 うーん、それは……東京とパリの距離はおよそ1万3千キロ。飛行機では12時間半。徒歩だったら106日かかる距離。それぐらい遠くに来ないと忘れられない事があったからと、つい言いそうになり、言葉を飲み込んだ。

「パリの美しい街に憧れてたんです」と、無難な事を口にし、それからご夫婦にルーブル美術館とエッフェル塔の行き方をご案内した。よく聞かれる名所なのでパッと答えられるようになった。パリに来て半年。この街に少しは馴染んだ気がする。

「お気をつけていってらっしゃいませ」

 ご夫婦をお見送りした後は客室の掃除に入った。日本人のお客様の対応と客室の清掃が与えられた仕事だった。
 ホテルは6階建てで2階から6階までが客室になってて、各フロアに5部屋ずつあった。今日の私の担当は5階と6階。一基しかないエレベーターはお客様用なので、階段で6階まで上り、チェックアウトした客室から掃除を始める。

 まずはノックをして一応、確認。ごく偶に情報が正しく伝わっておらず、お客様がいる事がある。先週はそれで酷い目にあった。ハネムーンに来た新婚さんが泊まってて、丁度エッチの最中に遭遇してしまった。あんなに気まずいのはない。その事で一日中同僚にからかわれた。「葵はお子様だから目に毒だったね」って。多分、私が顔を赤くしてその事を話していたせいだ。

 よし、返事はない。チェックアウト済みだ。教わった手順通りに入口から清掃を始めて奥の寝室まで丁寧に掃除をした。
 寝室にたどり着く頃には汗がびっしょり。結構な運動量だ。でも、体を動かすのはいい。余計な事を考えずに済むから。

 *

 ホテルの仕事は午後4時ごろ終わる。パリに来たばかりの時は仕事終わりはあてもなく街中を歩いていたけど、今はセーヌ河ほとりのカフェでぼんやり過ごす事が多い。
 最近のお気に入りは赤い屋根が可愛いお店だ。このカフェは店員さんがみんな感じがいい。特に気にいってる店員さんは長身の黒髪で後ろ姿が少しだけ森山君に似てる。

 あ、今日も彼がいた。目が合うとすぐに私のテーブルまで来て、いつものって聞いてくれる。
 一週間ぐらい通ったら、聞いてくれるようになった。覚えてもらってるのが嬉しい。今日もいつものカフェオレをお願いした。
 それから窓の外を眺めながら、カフェオレが来るのを待った。

 カップルが歩いているのが見える。楽しそうに腕を組んだりして。前はそういう人たちを直視できなかったけど、今は微笑ましい景色に思えるようになった。

 時間が解決してくれるって、本当かもしれない。心臓がえぐられるような、苦しかった想いも、半年経てば薄れる。
 夏目さんのメールにもちゃんと返信出来たし。でもパリにいるって書いたのはちょっとまずかったかな。日本にいる知り合いにパリにいる事は言ってない。言ってしまったら森山君が追いかけてくる気がしたから。

 自意識過剰かな。そこまでする訳ないか。

「カフェオレです」

 店員さんがテーブルに置いてくれた。

「メルシー」

 やっぱり後ろ姿がちょっとだけ森山君に似てる。
 森山君、元気かな。
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