【完結】ディープキス―実は一途な年下男子に溺愛されていました!―

コハラ

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4話

缶詰2日目 恋人代用品【2】

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「そんなに怯えた顔しないで下さい」

 森山君がクスッと笑った。

「シナリオが書き終わるまで、恋人の代用品になってくれませんか?」

 代用品?つまり本物じゃないって事?

「さっき春川さんに手つなぎシーンが書けてないって言われて、恋人が必要だと気づいたんです。シナリオを書いている間は恋をしていないと、ときめきなんて書けません。春川さんに納得してもらえる物が書きたいんです」

 そういう事か。意図がわかってほっとする。
 森山君、真面目なんだな。ちゃんとシナリオに向き合ってくれてるんだ。
 いい物書いてもらいたいし、協力できる事はしてあげたいけど……。

「そういう事なら協力するけど、私でいいの?」
「春川さんしかいませんから」
「確かにシナリオ執筆中に側にいるのは私だけね」
「いや、そういう意味じゃなくて」
「え」

 目が合うと黒い瞳が気まずそうに動いた。

「いえ、何でもありません。シナリオが終わるまでよろしくお願いします」
「うん。こちらこそ」

 かなり照れくさい。代用品と言えども森山君の恋人になるなんて。
 胸がまたドキドキして来た。
 静まれ、私。ただの代用品なんだからそんなにときめくな。

「ところで、恋人としてのスキンシップはどこまでしてもいいですか?」

 森山君がこっちを見た。

「えっ、スキンシップ?」

  裸の森山君とつながっている所を想像してしまい、気まずくなった。
  頭をぶんぶん振って、妄想を打ち消す。

「えーと、手をつなぐぐらいかな」

 森山君がやや不満そうな表情を浮かべた。

「キスは?」
「えっ、キス……」

 鼓動が早くなる。

「いいですよね?一日一回ぐらいは」

 一日一回……。なんて、ハードルが高いの。
 あんな気持ちいいキスされたら理性が吹き飛ぶよ。

「えーと、その、唇以外だったら」
「唇はダメなんですか?」
「だ、ダメです」
「どうして?」
「だって、気持ち良過ぎるから」

 次の瞬間、森山君の両手が私の顔を挟むように持ち上げた。
 やや強引に顔を向けさせられる。

「葵さん、顔、真っ赤」

 森山君が小さく笑った。

「いじめないで」
「可愛い人だ」
「可愛くなんてありません」
「今は可愛い恋人になって下さい」

 森山君の顔が近づく。
 唇と唇が触れそうな距離まで近づいて……。

 ドンッ!

 背中に強い衝撃を受け、倒れそうになるが、森山君が支えてくれた。
 足元にバレーボールらしき物が転がってる。

「葵さん、大丈夫?」

 森山君が心配そうに私の顔を正面から覗き込んだ。近い距離にドキッ。

「う、うん。一人で立てるから」

 森山君の手から離れて、ボールを拾いあげた。
 これが背中に当たったのか。ちょっと痛かった。

「すみません」

 子どもの声がした。男の子がこっちに向かって走って来た。
 ボールの持ち主かな。

「あの、ぶつけちゃって、ごめんなさい」

 小学生ぐらいの男の子が近くで立ち止まった。

「お前か。ボール投げたのは」

 森山君が険しい表情で子どもを睨む。

「ここは歩道だぞ。ボール投げする場所じゃないだろ」
「ごめんなさい」

 キュッと子どもが唇を噛みしめた。
 今にも泣きそう。

「森山君、まあ、いいじゃない。ちょっと当たっただけだから」

 手に持っていたボールを男の子に差し出した。

「これ、君の?」
「はい」
「歩道でボール投げはダメよ。赤ちゃんとかに当たったら大変だから」

 周りにはベビーカーを引いて歩く家族連れの姿もあった。

「はい。ごめんなさい」

 不安げに眉毛を八の字に下げて、ちょっと可愛い。

「ボールどうぞ」

 男の子に渡してあげた。

「ゆうまー」

 少し離れた所から男性の声がした。

「お父さーん」

 男の子が答えた。
 父親も一緒だったようだ。
 私たちの姿を見つけると、父親が慌てたようにこちらへ走って来た。

「すみません。うちの子が何かご迷惑をおかけしましたか?」

 申し訳なさそうに父親がこっちを見た。
 その顔を見て、息が止まった。
 大学時代につき合っていた彼だった。
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