バイバイ、課長

コハラ

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バイバイ、課長

《2》

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 次の日、課長の家に行った。
 そうするように誰かに言われた気がした。   
 
 彩さんを尾行して何度か課長の家に行っていたので、道は知っている。
 駅から徒歩十分の距離を歩いた。閑静な住宅街の中にあって、課長の家は秋でも薔薇が見事だった。 

 課長が休日に庭の薔薇をいじっているといつか話していた。その薔薇の中には奥さんと同じ名前の薔薇や、娘さんの名前のもあるって照れ臭そうに言っていた。  
 
 手をちゃんとかけてやれば薔薇は美しい花を咲かせてくれる。それは人も同じだと冗談めかして課長は言った。

「じゃあ、課長は私にもちゃんと手をかけてるんですか?」って聞いたら、
「そうだよ」と優しい笑顔を浮かべてくれた。  
 
 課長に教わった事は沢山ある。それこそ判子の押し方から、人との接し方まで。一人で仕事を抱え込んでると、「仕事は一人でするもんじゃない。人を信頼して仕事を頼む事も大事な事だ」とよく課長に言われた。

 煮詰まっていると、課長が突然変な事を言って笑わせてくれた。それで心が軽くなって仕事に向き合えた。課長の笑顔に救われた事も数えきれないぐらいあった。課長の笑顔はあったかくてほっとして、いつも私を受け入れてくれる気がした。 

「島本くん」

 そう課長に呼ばれるのが好きだった。
 優しい声で、時には厳しい声で。
 叱られた事も沢山あったけど、叱ってもらえて嬉しかった。課長のおかげで気づけなかった事に気づけるようになった。  
 
 どうして今、こんなに課長の事を思い出すんだろう。会社での事、二人でランチに行った事、ランチの帰りに一緒にひこうき雲を見つけた時の事……。  
 
 涙が溢れてくる。拭っても拭っても止まらない。立っていられず、課長の家のインターホンの前に座り込んだ。そうしていると背中から声がかかった。 

「どうされました?」 

 振り向くと買い物袋を持った彩さんが立っていた。  
 慌てて立ち上がり、「すみません」と言って立ち去ろうとした。 

「島本さん?」

 呼びかけられ、足が止まった。 

「はい」  

 返事をすると、彩さんが微笑んだ。 

「父から伺ってます。さあ、どうぞ」  
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