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1話
記憶喪失と決断<6>
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「希美と別れるってどういうこと?」
思いっきり眉を寄せた律子さんが僕を見る。
病院のカフェで僕は律子さんと向き合っていた。
「希美の記憶喪失はおそらく精神的なものです。医者にそう言われて、本当は思い当たることがあったのですが、あの場では恥を晒すようで言えませんでした」
律子さんの表情が険しくなる。
「まさか、涼介くん、浮気しているの?」
律子さんが思った通りの方に勘違いしてくれてほっとする。
「……申し訳ございません」
深々と僕は頭を下げる。
「嘘でしょ?」
そう聞かれるが肯定も否定もせず黙ったままでいた。
ガッカリしたようなため息が聞こえ、頭を上げると、律子さんは軽蔑するような目で僕を睨んでいた。
「最低ね」
「本当にすみません。実は僕たちは離婚しようという話をしていまして。慰謝料として僕がマンションの住宅ローンを全額払う方向で話していました」
律子さんが驚いたように眉を上げる。
「希美から、そんな話、聞いてないんだけど」
「きっと律子さんに心配をかけたくなかったからだと思います。それで記憶喪失の希美に辛いことを思い出させるのもどうかと思いまして、僕は希美の前から姿を消すことにします」
記入済みの離婚届の入った封筒を律子さんの前に置いた。
中身を見た律子さんが目を見開く。
「これを私から希美に渡せと?」
「はい。今すぐじゃなくてもいいので、折を見て渡して頂ければ」
「そうね。入院中の今はやめた方がいいわね。わかったわ。涼介くんのことは長期出張にでも言ったと話しておくから」
「助かります」
嘘が苦手な僕にとって、一世一代の大嘘だった。希美の為だったら、詐欺師になれる。
「それから、これを希美に」
僕の連絡先を消したスマホを律子さんに渡す。
「希美のスマホね」
「よろしくお願いいたします」
律子さんがため息をつく。
「希美と離婚してあなたは浮気相手と一緒になるの?」
不意の質問に目が泳ぐ。
「本当、最低ね」
僕の反応をイエスと受け取ったのか、律子さんは鋭く僕を睨み、立ち上がる。
「涼介くんには幻滅したわ」
怒った声で言われ、ぐっと胸が痛くなる。
「すみません」
苛立ったようにカツカツと靴底を鳴らして律子さんはカフェから出て行く。
その後ろ姿を見ながら、これで良かったんだと自分に言い聞かせた。
思いっきり眉を寄せた律子さんが僕を見る。
病院のカフェで僕は律子さんと向き合っていた。
「希美の記憶喪失はおそらく精神的なものです。医者にそう言われて、本当は思い当たることがあったのですが、あの場では恥を晒すようで言えませんでした」
律子さんの表情が険しくなる。
「まさか、涼介くん、浮気しているの?」
律子さんが思った通りの方に勘違いしてくれてほっとする。
「……申し訳ございません」
深々と僕は頭を下げる。
「嘘でしょ?」
そう聞かれるが肯定も否定もせず黙ったままでいた。
ガッカリしたようなため息が聞こえ、頭を上げると、律子さんは軽蔑するような目で僕を睨んでいた。
「最低ね」
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律子さんが驚いたように眉を上げる。
「希美から、そんな話、聞いてないんだけど」
「きっと律子さんに心配をかけたくなかったからだと思います。それで記憶喪失の希美に辛いことを思い出させるのもどうかと思いまして、僕は希美の前から姿を消すことにします」
記入済みの離婚届の入った封筒を律子さんの前に置いた。
中身を見た律子さんが目を見開く。
「これを私から希美に渡せと?」
「はい。今すぐじゃなくてもいいので、折を見て渡して頂ければ」
「そうね。入院中の今はやめた方がいいわね。わかったわ。涼介くんのことは長期出張にでも言ったと話しておくから」
「助かります」
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「それから、これを希美に」
僕の連絡先を消したスマホを律子さんに渡す。
「希美のスマホね」
「よろしくお願いいたします」
律子さんがため息をつく。
「希美と離婚してあなたは浮気相手と一緒になるの?」
不意の質問に目が泳ぐ。
「本当、最低ね」
僕の反応をイエスと受け取ったのか、律子さんは鋭く僕を睨み、立ち上がる。
「涼介くんには幻滅したわ」
怒った声で言われ、ぐっと胸が痛くなる。
「すみません」
苛立ったようにカツカツと靴底を鳴らして律子さんはカフェから出て行く。
その後ろ姿を見ながら、これで良かったんだと自分に言い聞かせた。
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