雨宮課長に甘えたい

コハラ

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深夜のファミレスで

《6》

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「もう空が明るいね」

雨宮課長が窓の外に視線を向ける。

本当だ。いつの間にか夜が明けている。

何時? えっ、六時!

うそ。

私、一晩中、雨宮課長と映画の話をしていた。

感覚的には一時間ぐらいだと思っていたけど、五時間も経っていたんだ。

「まさかファミレスでオールナイトをするとは思わなかった」

雨宮課長が笑った。

「そうですね。映画館で過ごす予定が。あ、でも、課長は途中で席を立ちましたよね?」

「『ショーシャンクの空に』を観たら帰ろうと思っていたんだ」

という事は私が引きとめてしまったという事?

「す、すみません! 長々とお付き合いをさせて」
「気にしないで。コーヒーを飲もうと誘ったのは僕だし。それに帰ったって誰か待っている訳でもないしね。でも、眠いな。中島さんと違っておじさんだからそろそろ限界」
「おじさんだなんて、そんな」
「37歳。立派なおじさんだよ」

おじさんだなんて、とんでもない。雨宮課長からは色気がだだ漏れている。

今だってテーブルに肘をついて、こっちを見る何気ない表情が色っぽく見えて困る。

映画の話で夢中になって気づかなかったけど、雨宮課長は魅力的な男性だ。



ファミレスを出て、雨宮課長の隣を歩く。
土曜日の朝、夜は煌々としていた繁華街も眠りについたように静か。

昨夜は思いがけない事が続いたせいか、気持ちが高揚している。ふと雨宮課長の広い肩が目についた。

男らしくて頼りがいのありそうな肩。

雨宮課長の肩に寄り掛かって眠ったらよく眠れそう。

雨宮課長の肩……。

って、何、考えているの!

男の人の肩に寄り掛かって眠りたいなんて私らしくない。私はそんなキャラじゃない。

「奈々子は強すぎて可愛げがないんだよ。守ってあげたい感ゼロ。俺、無理だわ」

初めてつき合った人に言われた言葉だった。
十年前の事なのに、呪いの言葉のように私の中に残っている。

可愛げがない。

守ってあげたい感ゼロ。

それが私。

しっかりしなきゃ。

雨宮課長の肩に寄り掛かりたいなんて思っちゃいけない。部署は違うけど上司。プライベートを一緒に過ごす人じゃない。

線引きしなきゃ。
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