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佐伯リカコとの約束
《6》
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「今、お茶を淹れますから。もう少し待って下さい」
お茶を淹れながら、心を落ち着ける。
大丈夫。何を聞いても大丈夫。
例え課長が犯罪者だったとしても私の気持ちは変わらない。
「お待たせしました」
お客様用のカップに注いだお茶をテーブルの上に置いた。
「ありがとう。いただきます」
課長が静かにお茶を飲んだ。
ちゃんと課長の表情を見ながら聞きたかったから、今度は課長の隣には座らず、テーブルを挟んだ正面に座り背筋を伸ばした。
「奈々ちゃん、いや、中島さん。今から話す事は決して誰にも言わないで欲しい。まずそれをお願いしたい」
じっと課長に見つめられて、頷いた。
「はい。他言しません」
「ありがとう」
課長も背筋を伸ばして、緊張したような表情を浮かべた。
部屋の空気が少しだけピリッとする。
「実は俺は30歳の時に離婚している。結婚していた相手というのが佐伯リカコでね。彼女との間に子どもが一人いたんだ。彼女は今は人気女優だ。だから俺と離婚していて、子どもまでいた事はスキャンダルになるかもしれない。それで他言しないで欲しいとお願いした」
佐伯リカコと結婚……。
子どもが一人……。
胸を大きく揺らす、衝撃的な言葉が次々と課長から出てきた。
心臓がドクドクと脈打ち、指先が冷たくなる。
課長があの佐伯リカコと結婚していたなんて……。
お子さんもいて……。
知らなかった。
だけど、打ち明けてもらえて良かった。
ショックだけど、知らない方がもっとショックだ。
それに、課長のお子さんには興味を持った。
課長に似ているのかな? 課長の分身に会ってみたい。
「お子さんは、佐伯リカコさんが引き取ったんですか?」
課長が深いため息をつく。
「亡くなったんだ。小児ガンでね。まだ5歳だった」
えっ……。亡くなった……。
「優しい真と書いて優真という名は俺がつけた。優真が病気になってから俺はその事実を直視できず、病院にはあまりいかなった。全部、母親の彼女に押し付けてしまったんだ。俺は酷い父親だった。優真が亡くなった後は彼女とギクシャクしてね。顔を合わせればケンカになって、それで優真が亡くなってから一年も経たないうちに、彼女とは離婚した。その方がお互いにとっていいと思ったんだ」
なんて悲しい話なのだろう。
お子さんを亡くすなんて……。
涙が溢れる。
「やっぱり、中島さんは泣いてくれるんだね」
課長が私の瞳に浮かぶ涙を拭ってくれた。
「だって、課長の気持ちを想像したら、胸が痛くて、悲しくて。それに優真君の事を考えたら……すみません。泣きたいのは課長なのに。私が泣いている場合じゃないのに……」
「ううん。優真の為に泣いてくれてありがとう。俺こそごめん。つまり俺はそういう重たい事を引きずっているんだよ。その上で俺とつき合うかどうかは決めて欲しい。車でキスした時、そう思ったんだ。しかし、また状況が変わってしまった」
課長がさらに深いため息をついた。
「中島さん、ごめん。今はつき合えない」
課長が頭を下げる。
お茶を淹れながら、心を落ち着ける。
大丈夫。何を聞いても大丈夫。
例え課長が犯罪者だったとしても私の気持ちは変わらない。
「お待たせしました」
お客様用のカップに注いだお茶をテーブルの上に置いた。
「ありがとう。いただきます」
課長が静かにお茶を飲んだ。
ちゃんと課長の表情を見ながら聞きたかったから、今度は課長の隣には座らず、テーブルを挟んだ正面に座り背筋を伸ばした。
「奈々ちゃん、いや、中島さん。今から話す事は決して誰にも言わないで欲しい。まずそれをお願いしたい」
じっと課長に見つめられて、頷いた。
「はい。他言しません」
「ありがとう」
課長も背筋を伸ばして、緊張したような表情を浮かべた。
部屋の空気が少しだけピリッとする。
「実は俺は30歳の時に離婚している。結婚していた相手というのが佐伯リカコでね。彼女との間に子どもが一人いたんだ。彼女は今は人気女優だ。だから俺と離婚していて、子どもまでいた事はスキャンダルになるかもしれない。それで他言しないで欲しいとお願いした」
佐伯リカコと結婚……。
子どもが一人……。
胸を大きく揺らす、衝撃的な言葉が次々と課長から出てきた。
心臓がドクドクと脈打ち、指先が冷たくなる。
課長があの佐伯リカコと結婚していたなんて……。
お子さんもいて……。
知らなかった。
だけど、打ち明けてもらえて良かった。
ショックだけど、知らない方がもっとショックだ。
それに、課長のお子さんには興味を持った。
課長に似ているのかな? 課長の分身に会ってみたい。
「お子さんは、佐伯リカコさんが引き取ったんですか?」
課長が深いため息をつく。
「亡くなったんだ。小児ガンでね。まだ5歳だった」
えっ……。亡くなった……。
「優しい真と書いて優真という名は俺がつけた。優真が病気になってから俺はその事実を直視できず、病院にはあまりいかなった。全部、母親の彼女に押し付けてしまったんだ。俺は酷い父親だった。優真が亡くなった後は彼女とギクシャクしてね。顔を合わせればケンカになって、それで優真が亡くなってから一年も経たないうちに、彼女とは離婚した。その方がお互いにとっていいと思ったんだ」
なんて悲しい話なのだろう。
お子さんを亡くすなんて……。
涙が溢れる。
「やっぱり、中島さんは泣いてくれるんだね」
課長が私の瞳に浮かぶ涙を拭ってくれた。
「だって、課長の気持ちを想像したら、胸が痛くて、悲しくて。それに優真君の事を考えたら……すみません。泣きたいのは課長なのに。私が泣いている場合じゃないのに……」
「ううん。優真の為に泣いてくれてありがとう。俺こそごめん。つまり俺はそういう重たい事を引きずっているんだよ。その上で俺とつき合うかどうかは決めて欲しい。車でキスした時、そう思ったんだ。しかし、また状況が変わってしまった」
課長がさらに深いため息をついた。
「中島さん、ごめん。今はつき合えない」
課長が頭を下げる。
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