雨宮課長に甘えたい

コハラ

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佐伯リカコとの約束

《5》

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「奈々ちゃんの浴衣姿があまりにも可愛すぎてそれ所じゃなかったんだ」

えっ。
課長が素っ気なかったのは私の浴衣姿が原因だったの?

「それに『一緒に貸切風呂に入ってくれるんですか』だなんて。あんな事、言われたら意識するだろ。頭から奈々ちゃんの入浴シーンを消すので必死だったんだ。だから茶わん蒸しの事は注意しそびれた」

課長の戸惑いが伝わって来て胸がドキドキする。
課長の気持ちに全く気づいていなかった。

「私、課長を動揺させていたんですか?」
「物凄くね」
「全然そんな風には見えませんでしたけど」
「隠していたんだ。部下に手を出す訳にはいかないだろ。自分の気持ちに抵抗していたが結局は無理だった。思えば映画館でハンカチを貸したあの瞬間から、奈々ちゃんから目が離せなくなった」

眼鏡越しの瞳が愛しそうにこっちを向く。

「映画館で会った夜、俺、奈々ちゃんだったから、眠いの我慢して朝までファミレスにいたんだと思う。きっと他の子だったら、さっさと帰っていた」

眠いの我慢……。

そういえばあの日、明け方の課長は眠そうだった。

私の為に眠気に耐えてくれていたなんて……。

ヤバい。また感動して泣きそうになる。

「えっ、奈々ちゃん、なんで泣くの?」
「だって課長が嬉しい事ばかり言うから」

大好きな課長に想われていたなんて幸せ過ぎる。

「私も、あの映画館で、課長にハンカチを貸してもらった日から、ずっと課長を想っていました。課長に会う度に好きって気持ちが重なっていって、好きで苦しかった」

最後の言葉を口にすると、柔らかな課長の唇が重なる。チャーハン味のキスが胸に甘く響く。

「奈々ちゃん、好きになってくれてありがとう」
「いえ、私の方こそ」
「東京に帰ったら全部話すと言ったね」
「はい」

課長の表情が深刻なものに変わる。
これから聞く話は覚悟がいりそうな気がして怖い。

「あの、とりあえずご飯を食べてからにしませんか」

今の幸せな時間を消したくなかった。
せめて、課長が作ってくれたチャーハンと卵スープを食べ終わるまでは。

「そうだね。そうしよう」

穏やかな表情を浮かべた課長にほっとする。

課長の隣に座って、すぐ近くに気配を感じながら、ゆっくりとチャーハンと卵スープを平らげた。

それでも話を聞くのが怖くて、食後すぐにキッチンに立ってお皿やフライパンなどを洗う。

それから課長にお茶を淹れようと、結婚式の引き出物で頂いた緑茶のティーバッグを探し始めた。

戸だなを開けて、お茶を探していると、「奈々ちゃん」と課長に声をかけられた。その声はそろそろ話すよと言っているようだった。
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