雨宮課長に甘えたい

コハラ

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番外編

《11》

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【Side拓海】

「拓海さん、奈々子を連れ帰った方がいいんじゃないんですか?」

奈々ちゃんを寝かせて寝室からリビングに戻ると、奈々ちゃんのお母さんが心配そうに眉を寄せた。

「拓海さんから話を聞いた時は信じられなかったけど、奈々子は本当に記憶がないみたいですし」

はぁ、とお母さんが息をつく。
いつも明るいお母さんが深刻な表情を浮かべているのは胸が苦しい。

「この目で見るまで信じられなかったけど、拓海さんに対してあんなによそよそしくなって……」

お母さんの言うように奈々ちゃんの態度は別人のようによそよそしい。
病室で奈々ちゃんと対面した時は信じられなかった。

何があっても自分の事は覚えていてくれる。そんな風に思っていた事に気づかされる。そんな確証なんてどこにもないのに。

だけど、記憶がなくても奈々ちゃんは奈々ちゃんだ。愛しい存在に変わりはない。

「お母さん、普段の生活に戻った方が記憶を取り戻しやすいと主治医の先生もおっしゃっていました。僕に奈々ちゃんを任せてくれませんか? 一緒にいたいんです。生活の面でも、仕事の面でも僕だったらサポートできると思います」
「拓海さん、奈々子によそよそしくされて辛くないんですか?」
「奈々ちゃんと離れて暮らす方が辛いです」

お母さんが「もう、この人は」と言って俺の腕を軽く叩きながら笑みを浮かべた。

「奈々子を想ってくれてありがとう。わかりました。奈々子の事は拓海さんにお任せします。手伝える事があったら言って下さいね。オーストラリアから帰って来たら駆けつけますから」

「はい。何かあったらお母さんに甘えます。旅行楽しんで来て下さい」

*

お母さんが帰ったあと、寝室に行くと、奈々ちゃんは可愛らしい寝息をたてて眠っていた。

とりあえず奈々ちゃんが帰って来て良かった。

昨日、久保田君から映画館の階段から落ちて、救急車に乗せられたと聞いた時は心臓が止まるかと思った。

後頭部を強打し、その後遺症で一年分の記憶が失われるなんて……。

白いネットで覆われた栗色の頭は見る度に痛々しく感じる。
見た目程、大した怪我ではなく、傷跡も残らないと主治医は言ったが、大切な人が怪我を負ったというだけで、身が切れる想いだ。

代わってやれたらどんなにいいのだろう。

ベッドの端に腰をかけ、時折苦しそうに眉間に皺を寄せる寝顔を覗き込む。
悪い夢でも見ているんだろうか。

「奈々ちゃん、大丈夫だよ。俺がついてるから」

白い頬を撫でてやると、少しだけ険しい表情が緩む。

「……拓海さん」

ラズベリー色の唇がゆっくりと動く。

「……拓海さん」

二度、名前を呼ばれて心臓がどくんっと高鳴る。

今、雨宮課長ではなく、拓海さんって呼ばれた。
奈々ちゃん、俺を思い出したのか?

「どこにもいかないで……拓海さん……」

不安げな声に胸が強く締め付けられた。

「俺はここにいるよ」

奈々ちゃんの額に口づけると、奈々ちゃんが安心したように微笑んだ。
次に目を覚ます時は奈々ちゃんは俺を思い出しているかもしれない。そんな淡い期待を持ちながら、眠る奈々ちゃんの隣に横になり、いつものように添い寝をする。

「愛しているよ。奈々ちゃん。何があっても俺は離れないから」

細い体を抱きしめると大好きな奈々ちゃんの匂いがした。
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