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5.再会
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結論から言うと、俺はレオンハルトに食われた。
性的な意味で。めちゃくちゃがっつり。
覚醒した魔王として、いきなり元勇者に食われてるのはどうなんだ? これは心底恥じ入るべきところだよな?
しかも、今の俺からしてみれば、こいつは国王で、元婚約者の養父で、23歳年上の男。駄目な理由しか見当たらない。致してしまっても大丈夫と言える点が一個もない。
あ、大丈夫な点が一つだけあった。レオンハルトは独身だ。愛人も隠し子もいない。
だがその理由が、かつて殺してしまった魔王に一方的な思慕を募らせ過ぎたせいで他の女に興味を持てなかった、というのが、やっぱり正気とは言えないわけだが。
(まあ、狂気の愛とか、魔王の感性的には面白い話だと思うんだが)
だが、それも相手が狂った目で押し倒して来なければの話だ。
全く、レオンハルトの言う通りだ。あいつの腕の一本や二本は断ち切って逃げるべきだった。
戦いようはあった。俺が魔王として生きた生涯は二百年弱。年の功で、もっと狡猾に立ち回れたはずなのだ。
だが、そこまで抵抗もせず、あいつに(性的な意味で)食わせてしまった。正直に言うとだ、俺は途中から協力までした。奴が完全に狂っていたので、その勢いに飲まれたのもある。でも、一番大きな理由は……なんか、こいつと俺、因縁深いよなあとか思っちゃったせいだ。別に、ふわふわした恋愛模様だの、どっろどろの愛欲劇があったわけではないが、俺の人生で一番大きい存在を挙げなきゃならないとなったら、結局こいつなんだろう。俺はこいつほど、とち狂った感情を持ち合わせているわけじゃないけれど……とかぐるぐる考えていたら食われていた。で、割と満更でもなくなってきたのでそのまま流された。
責任は取って貰えるみたいだが。何度でも言うけど、俺、魔王だぞ?
「それで、魔王殿はこの国の女王に成られるのですかな? なんでも、レオンハルト陛下は、貴女が望むのであれば王冠を譲り渡すと仰っておられましたが」
トン、トン、と机の上を叩く音が聞こえる。
俺はソファにだらりと伸びたまま、半目になって首を振り向けた。かつての俺の居室は、今ではレオンハルトの私室になっているそうで(あいつ、俺の部屋で何をしてるんだ。返せ)、俺が今過ごしているのはその隣の控えの間だ。
この数日で溜め込んだ仕事を消化すべく、レオンハルトが渋々出掛けて行ったので、代わりに俺のお守り役、もとい監視役として派遣されてきた奴がいる。かつての勇者付き魔術師、現在の宰相のグリュードだ。
「ああ? ならねえよ」
「そうなのですか? 呪詛と混沌の女王陛下は、国の頂点に座すのがお好きだったようですが」
「好きだぜ? 今だって、この国を乗っ取ってやる気はあるんだが。レオンハルトが何を考えているのか分からん、不気味すぎる。だから提案には乗れない」
「ここ数日間、昼も夜も共にされていたのに?」
「あいつが狂ってるってことだけは骨身に沁みて分かった」
会話はほとんどしていない。ただ狂うままに交わって貪られていただけだ。
それも悪くはなかった。だが、こうして冷静になる時間を持ってみれば、意味が分からない。俺は溜息をついた。
「俺、魔王だったんだけど? あいつのことは敵で、勇者としてしか見てなかったし。一体何がきっかけで、あいつはあそこまで拗らせたんだ?」
「さあ。私は陛下の趣味嗜好には興味がありませんので」
トン、と指が動く。
グリュードは机の上に書類を積み上げていて、俺の監視ついでに仕事をしていた。半ば俺、半ば紙の上、と交互に視線を振り向け、そのどちらにも大して関心が無さそうに見える。たまに指が机を叩くのは、無意識の動作だろう。
以前から、そういう奴だった。何事にもあまり興味を見せない。無表情に近い、つまらなそうな顔をしている。いかつい造作も相まって、常に年齢より老けてみえた。
今はより老けて見える。40代なのに、50代のようだ。片足が不自由で、杖をついてぎこちなく動くせいもあるだろう。
「……その杖」
「はい?」
「不便だろ? 治してやろうか?」
気まぐれだった。
彼の不具は、俺が原因なのだ。そもそも、こいつが俺に仕掛けてきたのがきっかけではあるのだが。俺の呪詛の力を封印するため、その代償として怪我を負い、魔力を失った。
「その魔力も戻してやれるぜ? 使えた方がいいだろ」
「……代わりに、貴女の呪詛封じを解けと?」
「いや。あのとき、ただの人間のくせに、魔王相手に狡猾な手管で封印を掛けた。魔力を失って魔術師でいられなくなったら、頭の回転だけで宰相に登りつめた。お前のそういう、しぶとくて老獪なところ、俺はかなり気に入ってるんだよ。だから、気まぐれ」
笑顔で話しながら、くるっと指先を回してグリュードの心臓に向ける。
口の中で、数語の呪文を解放した。パチッと音がして、グリュードが瞬きした。
「……………確かに、魔力が戻りました」
長々と沈黙した後、グリュードが重苦しい声で言う。
「お礼を申し上げた方が宜しいですかな?」
「お礼を言いたい気分じゃないだろ? ずっと魔力無しで生きてきて、それで十分やれるって証明してきたんだからさ。だから、それはオマケとでも思ってろよ。俺もお前のことなんかどうでもいいし」
「……なるほど」
グリュードは何かに納得したように頷き、
「それでは、代わりに一つ、忠言を申し上げましょう」
「うん?」
「魔王殿、今しばらく、騎士王陛下に対して媚をお売り下さい」
は? こいつは何を言い出したんだ?
性的な意味で。めちゃくちゃがっつり。
覚醒した魔王として、いきなり元勇者に食われてるのはどうなんだ? これは心底恥じ入るべきところだよな?
しかも、今の俺からしてみれば、こいつは国王で、元婚約者の養父で、23歳年上の男。駄目な理由しか見当たらない。致してしまっても大丈夫と言える点が一個もない。
あ、大丈夫な点が一つだけあった。レオンハルトは独身だ。愛人も隠し子もいない。
だがその理由が、かつて殺してしまった魔王に一方的な思慕を募らせ過ぎたせいで他の女に興味を持てなかった、というのが、やっぱり正気とは言えないわけだが。
(まあ、狂気の愛とか、魔王の感性的には面白い話だと思うんだが)
だが、それも相手が狂った目で押し倒して来なければの話だ。
全く、レオンハルトの言う通りだ。あいつの腕の一本や二本は断ち切って逃げるべきだった。
戦いようはあった。俺が魔王として生きた生涯は二百年弱。年の功で、もっと狡猾に立ち回れたはずなのだ。
だが、そこまで抵抗もせず、あいつに(性的な意味で)食わせてしまった。正直に言うとだ、俺は途中から協力までした。奴が完全に狂っていたので、その勢いに飲まれたのもある。でも、一番大きな理由は……なんか、こいつと俺、因縁深いよなあとか思っちゃったせいだ。別に、ふわふわした恋愛模様だの、どっろどろの愛欲劇があったわけではないが、俺の人生で一番大きい存在を挙げなきゃならないとなったら、結局こいつなんだろう。俺はこいつほど、とち狂った感情を持ち合わせているわけじゃないけれど……とかぐるぐる考えていたら食われていた。で、割と満更でもなくなってきたのでそのまま流された。
責任は取って貰えるみたいだが。何度でも言うけど、俺、魔王だぞ?
「それで、魔王殿はこの国の女王に成られるのですかな? なんでも、レオンハルト陛下は、貴女が望むのであれば王冠を譲り渡すと仰っておられましたが」
トン、トン、と机の上を叩く音が聞こえる。
俺はソファにだらりと伸びたまま、半目になって首を振り向けた。かつての俺の居室は、今ではレオンハルトの私室になっているそうで(あいつ、俺の部屋で何をしてるんだ。返せ)、俺が今過ごしているのはその隣の控えの間だ。
この数日で溜め込んだ仕事を消化すべく、レオンハルトが渋々出掛けて行ったので、代わりに俺のお守り役、もとい監視役として派遣されてきた奴がいる。かつての勇者付き魔術師、現在の宰相のグリュードだ。
「ああ? ならねえよ」
「そうなのですか? 呪詛と混沌の女王陛下は、国の頂点に座すのがお好きだったようですが」
「好きだぜ? 今だって、この国を乗っ取ってやる気はあるんだが。レオンハルトが何を考えているのか分からん、不気味すぎる。だから提案には乗れない」
「ここ数日間、昼も夜も共にされていたのに?」
「あいつが狂ってるってことだけは骨身に沁みて分かった」
会話はほとんどしていない。ただ狂うままに交わって貪られていただけだ。
それも悪くはなかった。だが、こうして冷静になる時間を持ってみれば、意味が分からない。俺は溜息をついた。
「俺、魔王だったんだけど? あいつのことは敵で、勇者としてしか見てなかったし。一体何がきっかけで、あいつはあそこまで拗らせたんだ?」
「さあ。私は陛下の趣味嗜好には興味がありませんので」
トン、と指が動く。
グリュードは机の上に書類を積み上げていて、俺の監視ついでに仕事をしていた。半ば俺、半ば紙の上、と交互に視線を振り向け、そのどちらにも大して関心が無さそうに見える。たまに指が机を叩くのは、無意識の動作だろう。
以前から、そういう奴だった。何事にもあまり興味を見せない。無表情に近い、つまらなそうな顔をしている。いかつい造作も相まって、常に年齢より老けてみえた。
今はより老けて見える。40代なのに、50代のようだ。片足が不自由で、杖をついてぎこちなく動くせいもあるだろう。
「……その杖」
「はい?」
「不便だろ? 治してやろうか?」
気まぐれだった。
彼の不具は、俺が原因なのだ。そもそも、こいつが俺に仕掛けてきたのがきっかけではあるのだが。俺の呪詛の力を封印するため、その代償として怪我を負い、魔力を失った。
「その魔力も戻してやれるぜ? 使えた方がいいだろ」
「……代わりに、貴女の呪詛封じを解けと?」
「いや。あのとき、ただの人間のくせに、魔王相手に狡猾な手管で封印を掛けた。魔力を失って魔術師でいられなくなったら、頭の回転だけで宰相に登りつめた。お前のそういう、しぶとくて老獪なところ、俺はかなり気に入ってるんだよ。だから、気まぐれ」
笑顔で話しながら、くるっと指先を回してグリュードの心臓に向ける。
口の中で、数語の呪文を解放した。パチッと音がして、グリュードが瞬きした。
「……………確かに、魔力が戻りました」
長々と沈黙した後、グリュードが重苦しい声で言う。
「お礼を申し上げた方が宜しいですかな?」
「お礼を言いたい気分じゃないだろ? ずっと魔力無しで生きてきて、それで十分やれるって証明してきたんだからさ。だから、それはオマケとでも思ってろよ。俺もお前のことなんかどうでもいいし」
「……なるほど」
グリュードは何かに納得したように頷き、
「それでは、代わりに一つ、忠言を申し上げましょう」
「うん?」
「魔王殿、今しばらく、騎士王陛下に対して媚をお売り下さい」
は? こいつは何を言い出したんだ?
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