嫌われ聖女は魔獣が跋扈する辺境伯領に押し付けられる

kae

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第8話 準備

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 その日から、大急ぎで結婚式の準備が進められた。

 結婚許可証は、サラに返事をもらうと同時サインをして、うちの領にある教会に即行で提出した。
 つまり俺とサラは、既に法的には正式に夫婦だ。


 ちょうどヤクルスに追われていた大商隊が、うちの領地に滞在していたところだったので助かった。
 さすがに完成したちょうどいいウェディングドレスはなかったので、サラと一緒に生地を選んで、領地の仕立て職人に大急ぎで作ってもらうことにする。
 ドレスに合わせた装飾品も一緒に選ぶ。
 これについては、商隊よりも領地内の店の方が品ぞろえが良かったので、サラと一緒に実際に見に行く。
 合わせるために、ドレスの生地の端切れも持って行って選んだのだが、どうもしっくりくるものがない。
 ふと思いついて、屋敷に帰って宝飾品等を保管する部屋を探してみたら、ドレスにピッタリのネックレス、イヤリングが見つかって笑ってしまった。灯台下暗しだ。


 レングナー領は代々報奨金ばかりが溜まっていくが、どこかへ呑気に旅行へ行ける訳でもなく、他の事業をできるわけでもなく、忙しく魔獣を倒し続けるしかない。
 そのため誰もが気晴らしに、宝石を買いあさる時期があるものらしい。……すぐに飽きるみたいだが。
 うちの屋敷の宝飾品倉庫をには、そのようにして集められたお宝がゴロゴロと放置されている。

 俺も、もしもサラに似合う宝石があるなら、いくらでも買ってしまいそうだ。
 お金など使い道がなければゴミも同然。それよりもサラに似合う宝石を買うほうが、何十倍も価値がある。


 サラの魔獣退治の実力が分かったので、本人の強い希望もあって、あれ以来魔獣退治を手伝ってもらう事もあった。
 ただし、俺が一緒の時だけだ。確実に、俺がサラを守れるように。

 ――実際はサラの結界に守られている方が多いのだが。

 魔獣は魔獣同士の序列が厳格に決まっているため、フォセットよりも弱い魔獣は、フォセットが防御壁付近をウロウロするだけで寄ってすらこなくなるので、それもとても助かった。
「こうやってフォセットの匂いを付けておくと、1か月くらいは弱い魔獣は寄ってこないんですよ」

 サラがなんでもないことのように、ニコニコと教えてくれた。
 この魔獣退治の専門であるレングナー領の、昔からの膨大な記録にすら、そんな魔獣撃退の方法は載っていない。
 本人はとんでもない発見をしていることに気が付いていないようだ。


 ザカリアス領に魔獣が出現しなくなった原因が、これでいよいよハッキリとしてしまった。
 屋敷の中で祈っている聖女たちの力などではない。そいつらは本当にただ祈っているだけだ。

 実際はサラが防壁にフォセットの匂いを付けて回り、防壁の外で魔獣の数を減らしていたのだろう。



 ――この領地に生まれた時から、俺は魔獣と戦って、死んでいくだけの人生のはずだった。
 ただレングナー領の領主の息子に生まれたからというだけで、死ぬまで、魔獣と戦い続ける運命。
 たった一人の跡取りでは、投げ出して他の領にいくわけにもいかない。

 食うに困って兵士になるため、レングナー領にくる若者たちはひっきりなしにいた。
しかし小さな頃からの知り合い達は、逆に他領へと行ってしまったり、死んだりで、年々その数を減らしている。

 両親が亡くなってからは、一体誰のために戦っているのかすら、良く分からなくなってきて……。


 ――まあバトラーはずっといたけどな。あいつのために命を掛けて戦おうとは思わん。



 だからまさかこんな風に、誰かのために必死になれる日がくるとは夢にも思っていなかった。


*****


「シリウス様。ザカリアス伯爵から、お手紙が届いています」
「きたか」


 そんなある日の事、執務室にいた俺に、バトラーが神妙な顔で手紙を運んできた。
 逸る気持ちで、ひったくるかのように手紙を受け取り、内容を読む。


「……こちらが結婚を断った件、了承したからすぐにサラを返すように、だとよ。一体いつの情報だ。俺がサラとの結婚を断ったのは、1か月以上前だぞ」
「そうですね。いかがいたしましょう」
「その手紙に気が付いていないふりをして、結婚しましたという手紙の返事を書こう。10億だろうがなんだろうが、払ってやる」


 ザカリアスに腹が立って、手紙を破り捨てる。

「……シリウス様。ゴミはゴミ箱に捨ててください」
「…………とりあえず、当初の予定通りだ。できるだけ早く、結婚式をあげてしまうぞ」

 ついつい床に棄ててしまった手紙の残骸を拾い集めながら言う。

 既に法的には夫婦だが、更に大貴族への周知徹底が必要だった。

「国中の大貴族に招待状を送りましたが、お祝いの品と、欠席の連絡が続々と届いています」
「だろうな。ただでさえ誰も来たがらない、魔物が跋扈する辺境の土地だ。しかも1週間後に来いといって、来た方が驚く」


 既に国王や大貴族には、結婚式の招待状を出していた。
 もちろん目的は結婚式に来てもらうことではない。一応付き合いのある貴族は招待するのがマナーだから……というのも建前で。
 本当の目的は、貴族たちの返事の手紙と祝いの品だ。これで多くの貴族たちが、俺とサラの結婚を認めたという既成事実になる。


「バトラー。今日ドレスが完成して、届いたらしいな」
「はい」
「どうせ招待客は来ない。明日、結婚式をやるぞ」
「かしこまりました」




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