悪役令嬢は楽しいな

kae

文字の大きさ
3 / 8
エディット編

しおりを挟む
 シャキーン!!


 王宮の使っていない中庭に、関係者だけで移動して始まった決闘の決着は、すぐについた。
 ほんの数回打ち合っただけで、剣が弾かれて飛んでいったのだ。
 誰もいない無人の地面に、剣が転がる。

 パスカルの剣が。


「はあ!? なんだよこれ! ズルだろ、無効だ。なんか剣に細工がしてあるのか!? そうじゃなきゃおかしいだろ! こんなこと。普段から絵しか描いていないヤツがなんで……」

 起きた現実が信じられないのか、パスカルが、決闘の無効を申し立てている。

「いいよ、無効でも。剣を取り換えてまたやろう。なんなら僕の剣は、お前が選んでも良い」

 シャルルはあっさりと、再試合を認めた。

「なっ」
「ほら、早く拾えよ。次の試合をやろう」
「ふ、ふざけんな! こんなズルする奴と、また試合なんてできるわけがないだろう!」

「待てパスカル。ここで去るなら、負けを認めているということになる。いいのか」
「ふん! 別に負けでもいいさ! こんなくだらない勝負やってられないからな!!」

 パスカルは、また絵に描いたような捨て台詞を吐いて、去って行った。


 ――なにが起きたの?

 いったいどんな手品を使ったのだろう。見ていたけれど、全然分からなかった。
 どうしてシャルルが、パスカルに勝つことができたのか。


 だけど理由なんてどうでもよかった。


 勝負に勝ったシャルルが、歩いてくる。私の元へ、迷うことなく、真っ直ぐに。
 もう他の事なんて、目に入らない。
 全神経がシャルルに集中してしまう。


「エディット・アーノン様。ずっと貴女の事が好きでした。私と結婚していただけませんか」
「喜んで」


 気が付いたら、そう答えていた。


 こんな時、エリザベスならなんと答えるだろう?
ふと頭にそんな疑問が浮かんだけれど、なぜかエリザベスはなにもしゃべってくれない。

 胸がいっぱいで、涙が溢れて。
 ただそのままの私が、シャルルの瞳を見つめながら、頷くことしかできなかった。




*****



「ベアトリス! 久しぶり」
「会いたかったわエディット」


 毎日のように王宮で会っていた日々から一転、ベアトリスとは手紙でやり取りをして、週に一度会えるかどうかになっていた。
 今日も一週間ぶりに会ったけど、話したいことが山ほどたまっていた。


「ベアトリス。王妃教育のほうは順調かしら」
「ええ。目の回るような忙しさよ」
「……そうなの。私と会っていて、時間作るの大丈夫?」
「もちろん。エディットとお話しないと、私はストレスで死んでしまうわ」
「まあ! 実は私もなの」


 先日ベアトリスは、ユリウス王子と正式に婚約を発表した。
 今は発表直後で、各所に挨拶周りをしたり忙しいはずなのに、そんなことをおくびにも出さずに、笑顔で私とお茶をしてくれる。

「ねえ、エディット。あなた最近あまり、「悪役令嬢エリザベス」やらなくなったわね。でも、そのままのエディットだけど、強くなったわね」
「そうなの。なぜかエリザベスの真似をしようと思っても、何も思い浮かばないようになってしまって」
「うん。エディットにはもう、そんなの必要ないのかも。……でも私、「悪役令嬢の取り巻き」でいることが気に入っていたから、ちょっと残念かもしれないわ」


 ベアトリスが悪戯っぽくそう言ってくる。
 将来の王妃様が、私の取り巻きだなんて、そんなこととんでもない。だけど……。


「いつかあなたが王妃様になったら、誰かに自慢しようかしら。「王妃様は、私の取り巻きだったのよ」って」
「まあ、それいいわね!」




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転生賢妻は最高のスパダリ辺境伯の愛を独占し、やがて王国を救う〜現代知識で悪女と王都の陰謀を打ち砕く溺愛新婚記〜

紅葉山参
恋愛
ブラック企業から辺境伯夫人アナスタシアとして転生した私は、愛する完璧な夫マクナル様と溺愛の新婚生活を送っていた。私は前世の「合理的常識」と「科学知識」を駆使し、元公爵令嬢ローナのあらゆる悪意を打ち破り、彼女を辺境の落ちぶれた貴族の元へ追放した。 第一の試練を乗り越えた辺境伯領は、私の導入した投資戦略とシンプルな経営手法により、瞬く間に王国一の経済力を確立する。この成功は、王都の中央貴族、特に王弟公爵とその腹心である奸猾な財務大臣の強烈な嫉妬と警戒を引き寄せる。彼らは、辺境伯領の富を「危険な独立勢力」と見なし、マクナル様を王都へ召喚し、アナスタシアを孤立させる第二の試練を仕掛けてきた。 夫が不在となる中、アナスタシアは辺境領の全ての重責を一人で背負うことになる。王都からの横暴な監査団の干渉、領地の資源を狙う裏切り者、そして辺境ならではの飢饉と疫病の発生。アナスタシアは「現代のインフラ技術」と「危機管理広報」を駆使し、夫の留守を完璧に守り抜くだけでなく、王都の監査団を論破し、辺境領の半独立的な経済圏を確立する。 第三の試練として、隣国との緊張が高まり、王国全体が未曽有の財政危機に瀕する。マクナル様は王国の窮地を救うため王都へ戻るが、保守派の貴族に阻まれ無力化される。この時、アナスタシアは辺境伯夫人として王都へ乗り込むことを決意する。彼女は前世の「国家予算の再建理論」や「国際金融の知識」を武器に、王国の経済再建計画を提案する。 最終的に、アナスタシアとマクナル様は、王国の腐敗した権力構造と対峙し、愛と知恵、そして辺境の強大な経済力を背景に、全ての敵対勢力を打ち砕く。王国の危機を救った二人は、辺境伯としての地位を王国の基盤として確立し、二人の愛の結晶と共に、永遠に続く溺愛と繁栄の歴史を築き上げる。 予定です……

悪役令嬢は断罪の舞台で笑う

由香
恋愛
婚約破棄の夜、「悪女」と断罪された侯爵令嬢セレーナ。 しかし涙を流す代わりに、彼女は微笑んだ――「舞台は整いましたわ」と。 聖女と呼ばれる平民の少女ミリア。 だがその奇跡は偽りに満ち、王国全体が虚構に踊らされていた。 追放されたセレーナは、裏社会を動かす商会と密偵網を解放。 冷徹な頭脳で王国を裏から掌握し、真実の舞台へと誘う。 そして戴冠式の夜、黒衣の令嬢が玉座の前に現れる――。 暴かれる真実。崩壊する虚構。 “悪女”の微笑が、すべての終幕を告げる。

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

処理中です...