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第二部 前編
04 再会とは運命の悪戯
しおりを挟むあれから幾日か、風のように過ぎ去った。地球は何事も無かったかのように回り続けている。
秋の深まった良く晴れた日、ロゼは玄関から飛び出した。
「神父様、おはようございます!」
枯葉を掃く神父の背中に向かって、ロゼは大きな声で挨拶した。
「ああ、おはよう。今日も元気だね」
と振り向きながら神父は言ったが、声の主はもうそこに無く、マキナの姿だけ視界に捉えることができた。
マキナは神父に深々と一礼して早足で小さな主人を追いかけた。
ロゼはというと、外へ出る門の前で手を振っている。
「うふふ、じゃあ行ってきます!」
自分のロボットを引き連れて町に飛び出していった。
「おお、本当に元気だなぁ」
デヴォート神父はやや呆れながら、感心して独り言を呟いた。
二人は市場へ向かっていた。
「マキナ。私ね、マキナが大好き」
「はい、私も。心から、ロゼのことを愛おしいと思います」
胸に手を当てて答えた。
いつもと同じやり取りのはずなのに、最近のロゼにとっては以前より心温まる感じがした。
不思議だ。
「ロゼ。お花屋さんです」
「うん。入ろう!」
園芸店でマキナたちは春に咲く球根を見つけた。マキナは色々な組み合わせを模索して選び抜いたものを買い付けた。
店を出たマキナは、沢山の球根を大事そうに抱えて道すがら歩いた。
ロゼはそんな彼女に声を掛けた。
「花壇に植えようね」
「はい! 春が楽しみです」
マキナは嬉しそうに「これはチューリップ、これはスイセン」と今買ったばかりの球根が花咲く姿を想像してときめいた。
「うっふふ。私、マキナが花好きなんて知らなかったよ――うわあっと!」
ロゼは横を向いて歩いていたせいで、人とぶつかってしまった。
「ありゃあ、またやった……あれ?」
「あっ」
ぶつかった人ではなく、連れがロゼの顔を見て声を出した。
ロゼはその声の主、長身で色黒、栗色の短髪、緑の服に既視感があった。
もう一人のお連れさんにも見覚えがある。
「お前は……!」
と呟いては、黒い前髪の隙間から動揺する瞳が覗えた。
ぶつかった本人も、少女のことを思い出したようだ。
「っ、あん時の……! 逃げよう」と側にいた黒髪ピアスの彼に耳打ちした。
「ああ! 待って待って!」
ロゼはぶつかった赤毛の青年の服を引っ張った。
「んなっ!? げっ」
赤毛の背年は、今度ばかりはロゼを振り払ったりせずに立ち止まった。顔は面倒くさそうな奴に捕まったと言いたそうで、げっそりしている。
マキナは一歩前へ出た。そしておもむろに頭を下げた。
「先日は、ごめんなさい。暴力を振るってしまって」
「うん。私からもごめんなさい」
ロゼも頭を下げて謝った。
赤毛の青年は目を泳がせて「いやっ、なあ?」と連れの二人に促した。
ロゼはパッと掴んだ服を離すと
「じゃ、じゃあ、それだけ」
と言ってマキナを連れて立ち去ろうとした。
「待て」
今度は赤毛の青年がロゼを引き留めた。
「えっ、何?」
ロゼは素直に立ち止まった。
青年はくせ毛を無造作に掻いた。
「あの……これ……」
そう言ってロゼに小さな袋を差し出した。
「何? あ……これ、私の」
差し出されたのは、あの時落としたロゼの財布だった。手のひらに受け取るとずっしりと重さがある。
「悪かったよ」
「ごめん」
三人の青年はロゼに謝罪の意を示した。赤毛に続いて長身の青年も謝罪した。
「ごめんね」
赤毛の青年の後ろで、黒髪の青年も心底反省しているようだった。長めの前髪のせいで表情は一層暗く見えた。
ロゼは財布の重みをしみじみと感じた。
「ねえ、これから皆で食べに行かない? あそこに美味しいカレー屋さんがあるの」
青年三人組は少女の発言に目を丸くした。
「い、いいの?」
と言った長身の青年にすかさず赤毛の青年は「バカ!」と言って腹に肘を入れた。
「うん、いいよ。私が先にぶつかったんだし。このお金使って、皆で食べよう?」
「や、それは良くない。逆に、俺らが出すって」
赤毛の彼が断わった。三人の中で彼がリーダー格なのだろう。
「だけどこのお金、皆で分け合いたいって、思ったんだ――」
ロゼは引き下がることを知らない女の子だ。
そう言われては、赤毛の青年は何も言い返せなくなってしまった。
少女は「だから、だからね――?」とまだ何か言いたそうだ。
「君の言いたいことはわかった」
黒髪の青年が割って入った。
「でも奢られたら、こっちの居心地が悪いんだ」優しい声色の中に、冷たさを感じられた。
「でも」
少女は口ごもった。
「どうかな。その花の種、俺らが買ったことにしない? それなら君の言う通りカレーをご馳走されてもいいけど?」
漆黒の瞳を細めて笑い、取引を持ち掛けた。
ロゼは悩んだ。「う~ん……」
「お、おい、ダグ」
赤毛の青年は黒髪を呼び止めた。
「なんだよ」
相手に合わせ、声を落として会話した。
「何考えてんだよ」
「別に? この子に満足してもらいたいだろ? お前も」
「そ、そうだけどよ……」
赤毛の青年が心を悩ませていると下から
「いいよ」
と声がした。例のブロンドに青目の少女だ。
「お兄さんたちがそうしたいなら、それでいいよ。ね、マキナ」
「はい。問題ありません」
「じゃあ行こう――えーっと、あ! 私、ロゼ! こっちはマキナ」
ロゼはスピーディーに自己紹介した。続けてマキナも会釈した。
「よろしくね」少女は青年たちに握手を求めた。
「お、俺は――」
「ポール・ゼファーです。よろしく、ロゼちゃん」
赤毛の青年がまごついているのを押しのけ長身色黒の青年が名乗った。
「ロゼでいいわ。ポールさん」
ポールも呼び捨てで良いとロゼに伝えた。
黒髪の前髪の長い青年も名乗った。ダグラス・サーペントというらしかった。
隣の赤毛の青年は照れながら
「エリオ。エリオ・クレストだ。呼び方はエリオで良い」
と目線を合わせず言った。
「エリオね。よろしく!」
ロゼは飛びつくようにエリオの手を掬い上げた。
エリオは少女との握手に顔を真っ赤にして固まった。
その後、ごまかすように一目散に店内へ一番乗りして入っていった。
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