上 下
2 / 2

<予告状1>怪盗ですが何か?

しおりを挟む

  [速報]

『昨夜、12時頃怪盗Wにより広野博物館の展示物グランブルーサファイアが盗み出されました。怪盗Wの被害はこれを含め10件を超えており警察も対策を練っておりまーー』

 ブツンとテレビの切る音が部屋に響き渡る。そして、そのテレビをニヤニヤと笑いながら見ている少年がいた。

「バッカでぇ。対策なんて練ったって捕まえられねぇだろ無能どもw」

 不敵な笑みを浮かべる少年こと土御門わたる。
 まぁ、この男をステータスで表すならこうだ。


[土御門わたる]

<能力>

 ・顔面偏差値 50

 ・偏差値 72

 ・戦闘力 皆無

 ・運動神経 100

 ・発明力 100

<装備品>
 多機能メガネ
 多機能時計
 リュック
 財布(中身500円)

<職業>

 ・高校生

 ・怪盗

 と、このように頭が少しいいくらいの高校生だ。あと金欠気味の。


 勿論冗談だ。そう、その正体は今世間で噂の怪盗Wだ。
 高校を行きながら怪盗をするいわば変わり者というものだろう。

 現在、遅刻寸前までニュースを見ていて実は内心焦っているようだ。
 1人しかいないはずの一軒家なのに、この家の朝は毎度騒がしい。

「やべぇ遅刻だ! えっと! 忘れ物はしてないか? ゲームよし、漫画よし、糖分よし、ノートパソコンよし、ついでに教科書よし! 忘れ物はない。さてと行きますか。」

 わけのわからない儀式を終え、毎朝学校に向かう。
 これが、土御門わたるの一日の始まり。

 まぁ、ここまでは普通とは言い難いが許容範囲だろう。
 あくまでこれは土御門わたるの表の面だ。



 ***


 キーンコーンカーンコーンと1時間目のチャイムが鳴る。その頃、門の前に一人息を切らしながら立つ少年がいた。

「セーフ! セーフですよね? セーフだよな? セーフだと言ってくれよ先生!」

 門の前にいる影は遅刻で焦る土御門わたるだった。


「セーフだと? 30分に来ても遅刻だぞ?貴様が来たのは45分。これを遅刻と呼ばずになんと呼ぶ!!!!」

 ガタイのいい体育教師の怒声が朝から響く。これもいつもの日常だ。






 ~~1時間終了後の休み時間~~

 あれから、わたるも授業に行き1時間目が終わった休み時間。
 わたるの数少ない友人の1人と、会話をしていた。これも変わらない日常の一つだ。


「ったく、あのゴリラめ。朝から毎回毎回怒鳴りやがって。俺があと身長6センチ高かったらぶっ倒してた所だ」

「いやいや、お前が毎回遅刻すんのが悪りぃんだろ。こりねぇなお前もよ。」

「なんだよ! 遅刻なんて誰でもやるだろ? 完璧な人間なんていねぇだぜ?」

「まず一つ、お前はたまにでなくほぼ毎日遅刻だ。
 二つ、完璧は確かにいないがお前は完璧から遠すぎる」

「ひでぇな」

 なんて事はない会話、いつも通りこの調子でわたるは学校を終え帰宅をする。


 ***


「ただいまぁ」

 誰もいない1人にしては広い一軒家に、虚しく声が響く。これもわたるの日常の一つだ。

「じいちゃん、今日もいつも通りの1日だったよ。まぁ、なんだろう楽しい一日だったよ。学食でおばちゃんに唐揚げぶつけられたこと以外はね」

 仏壇で、亡くなった祖父に手を合わせ今日の日課を話す。かかせない日常だ。

「さて、じいちゃんに今日の出来事も話したし、そろそろやるか」

 そう言うと、わたるは家の庭に行き物置の前に立つ。すると物置が地下へ行くエレベータに変化した。


「パスワードW.怪盗」

 音声認証のようなものを読み取ると、ドアが開きわたるは地下へと足を進めた。
 その地下室は、わたると祖父の発明品がたくさん飾られており、広さは20畳ほどある。


「よし、おーい[ソリ二号]前盗んだ宝の性質分析すんでるか?」

 わたるの呼んでいるソリ二号とは、わたるとわたるの祖父が作り上げだ優秀な人工知能だ。基本怪盗業をするさいには、ソリ二号と連携をとってすることが多い。

『はい、わたる様。すでに分析は完了されています。ですが、あらゆる情報源を元に分析をしましたが、今回のこの宝石は何で出来ているかはおろか、いつ作られたのかさえもわかりません。わかったのはこれを発見された場所のみです』

「エネルギー源か何かは発見できなかったのか?」

『一応発見できました。ですが、なんのエネルギー源かはわかりません。謎の大きな力がこの宝石内に凝縮されています」

 それを聞きニヤリとを笑うわたる。
 良からぬことを考えているときに見せる顔だ。


「よし、これを砕け」


 その言葉に、人工知能とはいえ少し驚いた様子で、ソリ2号はわたるに問いかける。

『正気ですか? このエネルギーは全てが謎に満ちている。何が起きるかはわかりませんが、おそらく、我々の予想を遥かに上回る何かであることは間違いありません』


「だから、やるんだよ。いいか? わかる事だけやっても、手に入るのはわかる結果だけだ。なら、わからないことやって、まだ見ぬものを盗み取る。これぞ怪盗ってもんだろ?」

『はぁ、わかりました。では衝撃に備える準備をします。<防御システム作動>』

 人工知能ことソリ2号は諦めたように返事をする。
 そして、部屋全体が剛鉄の壁に変化していく。まさしく防御システムだ。

『では磁場ハンマーを使用します。ただ今出力90%』

 天井から穴が空き、大きなハンマーが出てくる。プラズマをまとっているのか、バチバチと音を立てている。

『出力100% いつでもいけます」

「よし、行け!」

 わたるの合図と共に、磁場ハンマーが振り落とされる。ゴーンと大きな音ともに、宝石は跡形もなく砕け散る。
 瞬間、青い大きな光が地下室全体を覆いかぶさる。

「なんだこれは!? 分析……意味ないか。よし<バリアブレスレット>バリア発動」

 わたるの腕につけている小型ブレスレットから赤のビームバリアが出てくる。

 わたるの作った護身用発明品だ。
 その防御力は、戦車の砲台でも傷一つつかない。









 が、それが薄い氷でも割れるかのように割れ、一瞬にして青い光がわたるを飲み込む。

『危険ですわたる様! その光の性質は理解できませんが、わたる様を取り込もうとしています。逃げてください。』

「逃げられるなら逃げてーー」


 全ての言葉を発しきる前に、わたるは地下室から姿を消した。まるで神隠しのように。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...