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第一話 熱は出ないんですよ
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その日、職員の一人が休んだ。
仮に、ミサキと呼ぶことにする。
前日、ミサキは「風邪気味なんで」と言って、
子どもたちのフロアには出ず、職員室にこもっていた。
パソコンを開き、事務仕事だけをしていた。
「熱は出ないんですよねー」
誰に向けたのかもわからない独り言が、
職員室の空気を薄く濁らせた。
熱が出ないなら、何が言いたいのか。
大丈夫なのか、しんどいのか、帰りたいのか。
そのどれも、はっきりしない。
翌日、ミサキは
「病院に行ってから出勤します」と言って姿を見せなかった。
結果だけが、あとから共有された。
溶連菌でした。今日は出勤できません。
そして、そのまま年末休みに入った。
明日、明後日は元々の休み。
結果的に、彼女は他の職員より倍の休みを手にしたことになる。
この光景に、既視感があった。
ゴールデンウィークにも、同じことがあったからだ。
体調不良を匂わせる。
はっきり休むとは言わない。
「病院に行く」と言う。
結果、連休と連休の間が、きれいにつながる。
推測でしかない。
証拠もない。
ただ、パターンは、そこにあった。
病院に行け、と周囲は言う。
けれど、行かない理由も、なんとなく察している。
お金のこと。
あるいは、診断がつかなかった時の気まずさ。
今回も、本当に病院に行ったのかどうかは、わからない。
わからないまま、話は終わる。
誰も追及しない。
誰も責めない。
でも、誰もが知っている。
――ああ、またか。
放課後等デイサービスは、
「支援」や「思いやり」を掲げる場所だ。
だからこそ、
こういう小さな歪みは、声にされない。
優しさの名の下に、
不公平は、静かに積み重なっていく。
仮に、ミサキと呼ぶことにする。
前日、ミサキは「風邪気味なんで」と言って、
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誰に向けたのかもわからない独り言が、
職員室の空気を薄く濁らせた。
熱が出ないなら、何が言いたいのか。
大丈夫なのか、しんどいのか、帰りたいのか。
そのどれも、はっきりしない。
翌日、ミサキは
「病院に行ってから出勤します」と言って姿を見せなかった。
結果だけが、あとから共有された。
溶連菌でした。今日は出勤できません。
そして、そのまま年末休みに入った。
明日、明後日は元々の休み。
結果的に、彼女は他の職員より倍の休みを手にしたことになる。
この光景に、既視感があった。
ゴールデンウィークにも、同じことがあったからだ。
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でも、誰もが知っている。
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不公平は、静かに積み重なっていく。
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