『定時後の偶然が多すぎる』

こさ

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定時後、待ってしまった

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定時のチャイムが鳴って、オフィスの灯りが一段落ちる。
資料を閉じる音が、やけに大きく聞こえた。

「……先、行っててください」

彼はそう言って、まだ画面を見ていた。
いつもの距離、いつもの言葉。
だから俺は頷いて、椅子を引いた――はずだった。

通路を二歩進んで、足が止まる。
理由は、ない。
ただ、エレベーターの前に立ってしまっただけだ。

表示は一階。
矢印は動かない。

背後で椅子が引かれる音がして、
彼の気配が、近づく。

「……あれ」

小さく漏れた声。
振り返らずに、俺は言った。

「まだ来てないみたいです」

隣に並ぶ。
肩は触れない。
でも、同じ表示を見ている。

沈黙が、落ち着いていることに気づいて、少し驚く。
いつもなら、言葉を探す時間だ。
今日は、探さなくていい。

エレベーターが到着して、扉が開く。
二人で乗り込む。
閉まる音が、やけに静かだった。

下降する間、彼が一度だけこちらを見る。
何か言いかけて、やめた視線。

俺も、同じだった。

一階に着く。
扉が開く。

「……お疲れさまでした」

その声は、少しだけ近い。

外に出ると、夜の空気が冷たくて、
歩き出す速度が、自然と揃った。

先に行けたはずなのに。
待つつもりなんて、なかったのに。

――でも、悪くない。

そう思った瞬間、
彼が、ほんの少しだけ笑った。
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