『定時後の偶然が多すぎる』

こさ

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定時後、同じ方向だった

外に出ると、夜風が思ったより冷たかった。
ビルの前で立ち止まった彼が、コートの前を軽く押さえる。

「寒いですね」

それだけ言って、歩き出す。
俺は一拍遅れて、同じ方向に足を出した。

二、三歩。
並んだことを、どちらも口にしない。

駅は、反対側のはずだった。
少なくとも、今までは。

「……そっちなんですか」

彼が言う。
確認というより、確かめるみたいな声だった。

「ええ。今日は」

理由は言わない。
彼も、聞かない。

信号待ちで止まる。
赤い光が、二人分の影を並べた。

近い。
でも、触れない。

青に変わって、また歩く。
歩幅が、さっきより揃っている。

「たまには、悪くないですね」

前を見たままの彼の声。
独り言みたいで、でも――俺に向けられていた。

「……そうですね」

それだけで、十分だった。

駅が見えてきて、
次にどこまで一緒かを、考えてしまう自分に気づく。

まだ、名前は呼ばない。
まだ、理由も聞かない。

それでも――
同じ方向に歩いている事実だけが、静かに残った。
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