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8〈黒木〉
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校門をくぐり、今日は駅に向かって進んだ。
野間が駅前のクレープが食べたいと騒ぐから、仕方なく付き合うことになった。俺は甘いものは嫌いだ。だからだた付き合うだけだ。
隣で「クレープぅクレープぅ」と軽やかに歩く野間に苦笑する。
『野間は常に心が聞こえてるわけじゃないのか?』
『ん?』
『さっきの話だ。たまたま聴き逃しただけか?』
いままでも、たびたび不思議に思うことがあった。
もし聞いていれば、絶対になにか言ってくるだろうと思うことを、まるで聞こえなかったような顔をする時がある。
『ああ。黒木の心って聞こえないんだよなー。いっつも静かでさ。かすかに聞こえる時がたまーにあるくらい。あとは読もうとしなきゃ聞こえねぇんだ。俺に話しかける声だけなんだよ普通に聞こえるの』
『……心が、聞こえない……?』
『不思議だよなー? 黒木みたいに心が静かなヤツって俺初めてだよ』
『俺も、そんな人には出会ったことがない』
なんで俺の心はそんなに聞こえないんだ?
聞こえないってことは、思いが弱いからだ。
俺はずっと思いが弱いということだ。
でも確かに考えてみれば、それはそうだろうと思う。俺には欲求がない。なにかを求めても、誰も答えてはくれないから……。
『あ、でも最近はちょっと違うんだなー』
『どう違うんだ?』
『かすかでも、聞こえることが増えたっ!』
『……そうなのか?』
『うん。俺と話したこととか、したこととか、俺のこと考えてる時っ!』
『……は?』
なんだそれは。野間のことを考えてる時だけ思いが強いってことじゃないか。
別に聞かれて困ることを考えていたわけじゃないが、そこだけ聞こえるのは恥ずかしいだろう。
『別にいいじゃんっ。俺ら、もう親友ってことでっ! だったら恥ずかしくねぇだろ?』
……親友なら恥ずかしくないのか?
野間の考え方はいつもポジティブで尊敬するが、たとえ親友に格上げされても恥ずかしいのは変わらないんだが。
『だって黒木はさ。ずっと友達も作らずにいたんだろ? 俺っていつぶりの友達? そりゃあ思いが強くて当然じゃんっ。変な意味じゃなくな?』
その言葉に、確かにそうか……と思う。
野間の顔が嬉しそうに笑っているように見えた。
『すっげぇ嬉しいよっ! だって俺、親友って初めてだしっ!』
『野間も初めてなのか?』
『親友なんていたわけないじゃん。気ぃ許せるヤツもいねぇのに』
そう言うと野間は、パンッと手を叩いた。
俺はハッとする。心の会話終了の合図だ。
別に決めた訳じゃないが、野間は時々そうして切り替える。
駅前でクレープを食べる野間に付き合ったあと、俺たちは食材を買いにスーパーに寄った。
野間に無理やり食べさせられたクレープの甘みが、まだ口の中で主張している。
甘い生地でチキンを巻く意味がまったくわからない。
横で野間が吹き出した。
俺の心を読んで笑ったんだろう。
「黒木ー、今日はなに食べる?」
『野間、最近こっちに泊まる日増えたけど、親はなんて言ってるんだ? 大丈夫なのか?』
「俺はねぇ。あ、焼きそばは? 簡単だしっ」
返事をくれない野間に、仕方なく声で聞き直す。
「野間、今週三日目だろ。親は大丈夫なのか?」
「うん、全然大丈夫。友達が一人暮らしで食生活がやばいから監視してるって話してある。あらそーなの? って金くれた」
野間の言葉に、俺は目を丸くした。
正直に話す野間にも、それを許す親にも、驚きすぎて言葉が出ない。
「俺、嘘は嫌いだからさ。なんでも正直に話すんだ。だから親には信用されてんの」
『この力のこと以外はな』
「……野間は本当に親と上手くやってるんだな」
俺は親を好きだと思ったこともないし関心もない。だから野間のような家族が正直ちょっと羨ましい。
「あっ! 黒木が学年トップって話したらもっと泊まれるかもっ! やりぃっ!」
「……いや、これ以上増やすな」
野間をちゃんと家に帰らせなきゃダメだ。
そんないい家族を俺の存在が壊したらダメだ。
野間が俺を振り返って寂しそうな顔をした。
『……そんなこと言うなよ。俺、黒木と一緒の時だけなんだ。気ぃ休めんの。家帰っても、自分の部屋にいても、心が聞こえてくるし……。それとも、やっぱ泊まるの迷惑?』
『は……違う。迷惑なわけないだろ』
迷惑なわけがない。初めてできた友人との距離がわからなくなるほど、野間と一緒の時間が心地いい。
いままで一人の時間がなによりも重要だった。とにかく家にこもりたかった。遮断された空間で孤独になりたかった。
でもいまは野間の存在がとてもあたたかい。一人の時間よりも何倍も、野間との時間が俺にはとても重要で大切になっていた。
『良かった。黒木も同じ気持ちでっ』
「よしっ! んじゃレジ行くぞー」
「あ、待て。コーラがもうない」
「またコーラかよ? 一日何本飲んでんの?」
何本……何本飲んでるだろうか。
真面目に答えようと思い返していると野間に怒られた。
「おいっ。一日一本でも多いんだからなっ?」
野間はお茶と水ばかりをカゴに入れた。
コーラがないとつらいんだが……。
でも野間が俺の身体を心配してくれているのがわかるから、なんだか胸がこそばゆい。
コーラ……やめようかな……。
野間が駅前のクレープが食べたいと騒ぐから、仕方なく付き合うことになった。俺は甘いものは嫌いだ。だからだた付き合うだけだ。
隣で「クレープぅクレープぅ」と軽やかに歩く野間に苦笑する。
『野間は常に心が聞こえてるわけじゃないのか?』
『ん?』
『さっきの話だ。たまたま聴き逃しただけか?』
いままでも、たびたび不思議に思うことがあった。
もし聞いていれば、絶対になにか言ってくるだろうと思うことを、まるで聞こえなかったような顔をする時がある。
『ああ。黒木の心って聞こえないんだよなー。いっつも静かでさ。かすかに聞こえる時がたまーにあるくらい。あとは読もうとしなきゃ聞こえねぇんだ。俺に話しかける声だけなんだよ普通に聞こえるの』
『……心が、聞こえない……?』
『不思議だよなー? 黒木みたいに心が静かなヤツって俺初めてだよ』
『俺も、そんな人には出会ったことがない』
なんで俺の心はそんなに聞こえないんだ?
聞こえないってことは、思いが弱いからだ。
俺はずっと思いが弱いということだ。
でも確かに考えてみれば、それはそうだろうと思う。俺には欲求がない。なにかを求めても、誰も答えてはくれないから……。
『あ、でも最近はちょっと違うんだなー』
『どう違うんだ?』
『かすかでも、聞こえることが増えたっ!』
『……そうなのか?』
『うん。俺と話したこととか、したこととか、俺のこと考えてる時っ!』
『……は?』
なんだそれは。野間のことを考えてる時だけ思いが強いってことじゃないか。
別に聞かれて困ることを考えていたわけじゃないが、そこだけ聞こえるのは恥ずかしいだろう。
『別にいいじゃんっ。俺ら、もう親友ってことでっ! だったら恥ずかしくねぇだろ?』
……親友なら恥ずかしくないのか?
野間の考え方はいつもポジティブで尊敬するが、たとえ親友に格上げされても恥ずかしいのは変わらないんだが。
『だって黒木はさ。ずっと友達も作らずにいたんだろ? 俺っていつぶりの友達? そりゃあ思いが強くて当然じゃんっ。変な意味じゃなくな?』
その言葉に、確かにそうか……と思う。
野間の顔が嬉しそうに笑っているように見えた。
『すっげぇ嬉しいよっ! だって俺、親友って初めてだしっ!』
『野間も初めてなのか?』
『親友なんていたわけないじゃん。気ぃ許せるヤツもいねぇのに』
そう言うと野間は、パンッと手を叩いた。
俺はハッとする。心の会話終了の合図だ。
別に決めた訳じゃないが、野間は時々そうして切り替える。
駅前でクレープを食べる野間に付き合ったあと、俺たちは食材を買いにスーパーに寄った。
野間に無理やり食べさせられたクレープの甘みが、まだ口の中で主張している。
甘い生地でチキンを巻く意味がまったくわからない。
横で野間が吹き出した。
俺の心を読んで笑ったんだろう。
「黒木ー、今日はなに食べる?」
『野間、最近こっちに泊まる日増えたけど、親はなんて言ってるんだ? 大丈夫なのか?』
「俺はねぇ。あ、焼きそばは? 簡単だしっ」
返事をくれない野間に、仕方なく声で聞き直す。
「野間、今週三日目だろ。親は大丈夫なのか?」
「うん、全然大丈夫。友達が一人暮らしで食生活がやばいから監視してるって話してある。あらそーなの? って金くれた」
野間の言葉に、俺は目を丸くした。
正直に話す野間にも、それを許す親にも、驚きすぎて言葉が出ない。
「俺、嘘は嫌いだからさ。なんでも正直に話すんだ。だから親には信用されてんの」
『この力のこと以外はな』
「……野間は本当に親と上手くやってるんだな」
俺は親を好きだと思ったこともないし関心もない。だから野間のような家族が正直ちょっと羨ましい。
「あっ! 黒木が学年トップって話したらもっと泊まれるかもっ! やりぃっ!」
「……いや、これ以上増やすな」
野間をちゃんと家に帰らせなきゃダメだ。
そんないい家族を俺の存在が壊したらダメだ。
野間が俺を振り返って寂しそうな顔をした。
『……そんなこと言うなよ。俺、黒木と一緒の時だけなんだ。気ぃ休めんの。家帰っても、自分の部屋にいても、心が聞こえてくるし……。それとも、やっぱ泊まるの迷惑?』
『は……違う。迷惑なわけないだろ』
迷惑なわけがない。初めてできた友人との距離がわからなくなるほど、野間と一緒の時間が心地いい。
いままで一人の時間がなによりも重要だった。とにかく家にこもりたかった。遮断された空間で孤独になりたかった。
でもいまは野間の存在がとてもあたたかい。一人の時間よりも何倍も、野間との時間が俺にはとても重要で大切になっていた。
『良かった。黒木も同じ気持ちでっ』
「よしっ! んじゃレジ行くぞー」
「あ、待て。コーラがもうない」
「またコーラかよ? 一日何本飲んでんの?」
何本……何本飲んでるだろうか。
真面目に答えようと思い返していると野間に怒られた。
「おいっ。一日一本でも多いんだからなっ?」
野間はお茶と水ばかりをカゴに入れた。
コーラがないとつらいんだが……。
でも野間が俺の身体を心配してくれているのがわかるから、なんだか胸がこそばゆい。
コーラ……やめようかな……。
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