心が聞こえる二人の恋の物語

たっこ

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28〈黒木〉

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 野間の心が昨日の俺を思い出し始めたのは、野間が風呂に入ってるときだった。
 映像が途切れずにずっと見えてくる。

『やべぇやべぇどうしよっ。昨日より緊張するっ。なんでっ? ……ってこれまた黒木に見られるじゃんっ! うああぁーーっ!』

 一人で赤面してジタバタしてる野間が見えるようで、可愛すぎて悶絶しそうになった。
 お風呂に入っているときはシャワーの音でかき消されてこっちの心の声は届かない。でも映像は届くだろうと俺の心を少し解放した。
 思い出してるのは野間だけじゃないから安心しろ。
 
『あ……黒木も思い出してる……っ。よかった、俺だけじゃなかった……っ! うわっ、恥ずっ、だからなんだよこのエロい顔っ! 俺じゃねぇーーーーっ!』
「うわあああぁぁーーーーっ!」

 最後は心じゃなくバスルームから聞こえてきて、俺は吹き出して笑った。
 風呂から上がった野間は顔が真っ赤だった。

「のぼせたのか? 大丈夫か?」
「へ? いや、今日はのぼせてねぇ、けど」

 野間の心の中はいまもずっと昨日の俺でいっぱいだ。のぼせてないなら顔が赤いのはそのせいだな、と俺はまた笑った。

「えっあっ、のぼせたっ、俺のぼせたわっ!」
『うん、俺のぼせたんだったっ。のぼせたのぼせたっ』

 必死でごまかす野間がどうにも可愛すぎて、笑いをこらえきれない。

『もぉーー黒木笑ってるしーーっ。恥ずすぎるっ! ……てか寝る準備終わっちゃったよっ。どうしよっ。このあとどうすればいいんだっ?』

 相変わらず心が騒がしい野間の手を引いて、腕の中に閉じ込める。

「ちょっと落ち着け。野間」
「…………っ」
『ま、また抱きしめるしっ。なんでっ。……あ、でも俺もさっき抱きついちゃったよな……』
「もうお前、ごちゃごちゃ考えるな。俺はお前が可愛いからいつでも抱きしめたい。お前は俺の腕の中だと幸せなんだろ? じゃあもういつ抱きしめてもいいな」

 俺が開き直ってそう伝えると、『く、黒木……カッコイイ……っ、やばいやばい心臓苦しいっ』とまた煽ってくる。ため息がとまらない。
 
「で、でも、俺……なんか変なんだ……」
「なにが変?」
「……黒木に抱きしめられると……なんか……ふにゃってなっちゃって……」
「……ふにゃ?」
「なんか……ふにゃって……力入んねぇんだ……」

 真っ赤な顔で俺を見上げてそんなことを言う。もういいかげん限界だ。

「抱っこでベッドまで連れてくか?」
「……は、はぁっ? なに言ってんのっ? あ、歩けるしっ!」
『ベッドって……っ。いまベッドって言ったっ。やばいやばいっ。……え、うそ、勃ってきた……。はぁーっ?! もーー俺なんなのっ。なんでだよっ! うぁぁーーっ』

 またパニックになってるな、と俺はクッと笑った。
 身体を離して手をつなぐと、野間はビクッと身体を震わせた。

「さっきの、取り消すならいまだぞ?」
「な、なに、さっきのって」
「今日も、明日も、明後日も、俺に抱か――――」
「うわぁああっっ!!」
『俺さっきなに言っちゃたんだよっ! 黒木にキツイって言われて泣きそうになったせいだ……っ! めっちゃ恥ずっ! 死にそうっ!』
「なら、取り消すか?」
「……と、取り消さねぇよっ。ただ恥ずいだけだしっ」

 野間はそう言って、つないだ手を引っ張って寝室に向かって歩き始める。

「俺はっ。黒木に抱かれて幸せになりてぇのっ」
 
 俺の手を引っ張る野間の顔は真っ赤で、映像はずっと見えてくるし、しまいには『俺に抱かれて幸せになりたい』って、本当に心臓がいくつあっても足りない。

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